音楽における「サステイン」完全ガイド:物理・楽器別対処法・表現への応用
サステインとは何か:定義と誤解
サステイン(sustain)は音楽において「音が持続すること」、あるいは持続している間の音量や音色の特性を指します。電子音楽や音響機器の文脈では「ADSR(アタック・ディケイ・サステイン・リリース)エンベロープ」の“S(サステイン)”は「持続段階のレベル(一定に保たれる音量)」を意味し、持続そのものの時間を直接指すわけではない点に注意が必要です。日常的には“ロングサステイン=音が長く延びる”という理解で使われますが、正確には物理的な減衰(decay)や電気的・電子的な制御も含めた総合的な現象です。
音の物理的基礎:なぜ音は減衰するのか
楽器や声が発した音は振動エネルギーであり、時間とともに空気への放射や内部損失(素材の内部摩擦、ブリッジやボディへの伝達)によってエネルギーを失い、振幅が小さくなります。単純な自由減衰は一般に指数関数的で、エネルギーが1/1,000になるまでの時間(-60dB減衰)を基準にした指標が屋内音響ではRT60(reverberation time)として使われます。個別の楽器では弦や板の固有モード、ダンピング係数、駆動エネルギーの大きさと再供給(アンプやエフェクトによる)によってサステインの長さと性質が決まります。
ADSRエンベロープと電子楽器でのサステイン
シンセサイザーやサンプラーではADSRが音の時間変化をモデル化します。ここでの“S(サステイン)”は「アタック後に保持される定常レベル」で、キーを押している間そのレベルが維持されます。つまり電子的サステインは“レベル(高さ)”の概念であり、持続時間はキーオン期間やリリースで決まります。一方、アコースティック楽器の持続は自然減衰であり、電子的に増幅・制御することで長くできる(コンプレッサー、リミッター、サスティナー等)。この違いは制作や演奏での扱い方に直結します。
楽器別のサステインの特徴と対策
- ピアノ:ダンパーにより弦の振動はキー放棄後すぐに減衰します。右側のペダル(ダンパー/サステインペダル)を踏むとダンパーが上がり、弦が自由に振動するため和音や音が長く残ります。中央のソステヌート(sostenuto)ペダルは一部の音だけを保持するため、アレンジ上の異なる持続表現を可能にします。
- ギター(アコースティック/エレキ):サステインは弦振動の持続に依存します。ボディ、ブリッジ、ネック・材質、弦のゲージ、ピックアップやアンプの特性(ハムバッカーは一般にシングルコイルより太く持続しやすい傾向)などが影響します。エレキでは回路的なもの(コンプレッサー、オーバードライブ、ディレイ、リバーブ)や専用のサスティナー(例:Sustainiac、Fernandes Sustainer)、EBowのような磁気的持続デバイスで実質的に無限サステインを作ることができます。物理的テクニックとしてはハンマリングオン/プルオフによるレガート、ヴィブラートやフィードバック制御、ピックの角度や落としどころを変えることでも有効です。
- 弦楽器(ヴァイオリン等):弓による連続的な摩擦で空気を継続的に駆動できるため、サステインを長く保ちやすい楽器群です。ボウイングの圧力や速度、ボウの接触点(ブリッジ寄りか指板寄りか)で音色と持続性が変わります。
- 管楽器・声:息の供給がサステインの鍵です。循環呼吸(サーカュラーブリージング)などの技術で長く連続したフレーズを出せます。歌唱では腹式呼吸と発声の支持で安定した持続が可能になります。
- シンセサイザー・サンプラー:エンベロープとフィルター、LFO、モジュレーションでサステインの表情を自在に作れます。サンプル音源ではループやエフェクトを組み合わせて伸ばす方法も多用されます。
サステインを伸ばすためのエフェクトと機器
ミックスや演奏でサステインを長く聴かせたい場合、以下のツールが有効です。
- コンプレッサー:ダイナミクスを圧縮して小さな音を持ち上げ、減衰感を相対的に遅らせる。
- オーバードライブ/ディストーション:高域の倍音増加や非線形増幅により、音を持続的に肥大化させる(フィードバック生成を助ける)。
- リバーブ:残響を付加して音の減衰を自然に延長する。ルームタイプやプリディレイ、ダンレングスで表情を調整。
- ディレイ:短いディレイでは実質的に持続を補強でき、長めのディレイは反復でサステインの“尾”を作る。
- サスティナー/EBow:弦振動を電磁的に駆動して物理的に持続させる装置。
- シンセのエンベロープ制御:サステインレベルやリリースを長めに設定して持続を設計する。
ミックスと録音での扱い方
録音やミックスでは、サステインが長い音は他のパートと混ざりやすくマスクを生みます。EQで不要な帯域をカットする、サイドチェインやマルチバンドコンプレッションで空間を作る、オートメーションでフェーダーやエフェクト送信量を調整することが重要です。また、リバーブのプリディレイを調整して原音のアタック感を維持しつつ尾を伸ばす手法もよく使われます。ゲートやトランジェントシェイパーは逆にサステインを削るために使えます。
演奏表現としてのサステインの意味
サステインは音楽表現上、持続による緊張の維持や解放、空間感の演出に直結します。短いスタッカートと長いサステインの対比がフレーズの輪郭を強め、サステインの質(明るい、暗い、濁る、倍音が豊か)は感情的効果を左右します。アンビエントやドローン音楽はサステインを中心に構築され、ロックやポップスではソロのエモーショナルな頂点を作るためにサステイン技術が多用されます。
プレイヤー向け実践的アドバイス
- ギター:手元の位置やピッキングの角度を変えて倍音構造を調整する。コンプはサステインを伸ばす際の第一選択。アンプとの距離を活用してフィードバックをコントロールする練習をする。
- ピアノ:ペダルのタイミングを音楽的に調整する(ペダルのクリアリングも重要)。部分的に残したい音はソステヌートがある機種で活用する。
- 声:息の支持と母音調整で安定させる。長いフレーズは小節の内部で微調整された呼吸計画を立てる。
- 弦楽器:ボウイングの接触点を移動して艶と持続をコントロール。弓圧と速度のバランスを練習する。
計測とファクトチェック:どのようにサステインを数値化するか
楽器の“サステイン時間”を厳密に測るなら、特定周波数帯域の振幅が初期値から-60dB(または-20/-40dBなど任意の基準)に達するまでの時間を測るのが一般的です。室内音響ではRT60が標準指標ですが、個々の楽器や録音ではインパルスレスポンスやスペクトログラムで減衰曲線を可視化して比較するのが実務的です。音楽制作やエンジニアリングの文献、音響学の基礎資料に基づけば、サステインの定義と測定法は整合的に運用できます。
よくある誤解
- 「サステイン=長さだけ」:長さだけでなく音量の維持や倍音の変化、音色の安定性もサステインの重要な要素です。
- 「コンプを入れれば常に良い」:コンプは有効ですが乱用すると響きが不自然になり、ダイナミクス表現を損なう可能性があります。
- 「同じ機材なら必ず同じサステイン」:弦の張り、演奏者のタッチ、部屋の響き、ピックアップの個体差などで結果は大きく変わります。
まとめ:表現と技術のバランス
サステインは単なる物理現象であると同時に、音楽的表現の核心でもあります。演奏テクニック、楽器設計、エフェクト、録音・ミックスの知識を組み合わせることで意図したサステインを作り出し、リスナーに持続的な感情や空間を伝えることができます。用途によってはサステインを延ばすことが目的になりますし、逆に短く切ることでエネルギーを生むこともあります。音響的理解と創意工夫が、サステインを音楽的に活かす鍵です。
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参考文献
- Sustain (music) - Wikipedia
- ADSR envelope - Wikipedia
- Piano pedal (sustain) - Wikipedia
- EBow - Wikipedia
- Dynamic range compression - Wikipedia
- Reverberation time (RT60) - Wikipedia
- Audio feedback - Wikipedia
- Fernandes Sustainer - Wikipedia
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