RS-422完全ガイド:仕様・配線・実務上の注意点とトラブルシューティング

概要:RS-422とは何か

RS-422(正式にはTIA/EIA-422-B)は、シリアルデータ通信のための差動(ディファレンシャル)電気インターフェース規格です。従来の単EndedなRS-232とは異なり、差動伝送を用いることでノイズ耐性と伝送距離を大幅に向上させています。一般に、産業機器、計測装置、組み込みシステムのシリアルリンクとして使われることが多く、ポイント・ツー・ポイント通信で最大10 Mbps程度の速度を短距離で、あるいは低速で数百メートルの通信が可能です。

RS-422の基本的な特徴

  • 差動信号:送信は1対の導体(+と−)で行い、受信側はそれらの電位差を検出します。これによりコモンモードノイズに強く、長距離伝送が可能になります。

  • ポイント・ツー・ポイント:標準的には1対1の通信を想定しています(1つの送信機に対し最大10の受信機を駆動可能とするマルチドロップも規定される場合がありますが、RS-422は基本的にマスター1台・複数スレーブの構成)。

  • 電気レベル:ドライバは差動電圧を最大で約±2~±6 Vの範囲で駆動することが期待されます(受信機の閾値や許容するコモンモード電圧は規格で定義)。

  • データ速度と距離のトレードオフ:一般に高速(数Mbps)では短距離(数十メートル)、低速(数百kbps以下)では数百メートルの伝送が可能です。

電気的仕様の深堀り

RS-422は差動ドライバと差動受信器を規定します。ドライバは負荷として最大100 Ω程度の差動負荷を想定しており、受信器は通常±7 V程度のコモンモード範囲を受け入れられるよう設計されています。これにより、異電位間やグラウンドループの存在する現場でも耐性を持ちます。

差動信号の利点は、両導体に同じノイズが重畳されても差分としてキャンセルされる点です。受信器はA-Bの電圧差を見て論理を判定するため、例えば外来ノイズや電位差があっても信号品質が維持されます。

伝送線路としての設計(インピーダンス、終端、バイアス)

長いケーブルでは伝送線路の特性インピーダンス(通常100~120 Ωが一般的)に合わせた終端抵抗が重要です。終端抵抗は送信端または受信端のどちらかに配置するのではなく、通信ラインの末端(負荷側)に配置して反射を抑えます。

また、差動ラインはアイドル時に定義された電圧(バイアス)を必要とします。マルチドロップ構成やバス利用の場合、ラインがフローティングにならないようにプルアップ/プルダウン(あるいは専用のバイアスネットワーク)を設け、受信器が不定状態にならないようにします。

コネクタと配線

RS-422自体は物理コネクタを規定していません。現場ではD-sub 9ピンや25ピン、RJ45、あるいは専用ターミナルブロックが使われることが多いです。重要なのはペアでツイストされた差動伝送路(ツイストペア)を用いることと、シールドを適切にアースすることです。

  • ツイストペア:ツイストペアはペア間のカップリングを強化し、外来ノイズを低減します。

  • シールド:シールドはノイズから保護しますが、シールドの接地方法(片側接地/両側接地)に注意する必要があります。産業環境では通常片側接地が推奨されることが多いです。

RS-422とRS-232、RS-485の比較

RS-232は単一エンド(シングルエンド)で短距離向け(数メートル)、単一ポイント通信に適しています。RS-422は差動で長距離かつ高速度を得られる一方、標準ではマルチドロップでのバス接続は限定的です。RS-485はRS-422と似ていますが、トランシーバが両方向(半二重)でバスを共有できるように設計されており、複数の送信機を同じバス上で切り替えて使用することが可能です。用途に応じて使い分けが重要です。

実際の伝送距離と速度の目安

伝送できる最大距離と速度は実装(ケーブル品質、終端、ノイズ環境)に依存しますが、一般的な目安は次の通りです。

  • 10 Mbps 程度:数メートル〜10数メートル

  • 1 Mbps 程度:数十メートル

  • 100 kbps 未満:数百メートル(300〜1200 m が現実的な範囲となり得る)

マルチドロップ(1ソース・Nシンク)構成の注意点

RS-422は1つのドライバが複数の受信機を駆動することができますが、各受信器の入力容量や負荷によって信号品質が劣化する可能性があります。配線長が長く多くの分岐がある場合、終端やスタブ長(分岐の長さ)に注意し、信号反射やインピーダンス不整合を避ける設計が必要です。

トラブルシューティングの実践ポイント

  • 通信が不安定:終端抵抗の有無と値、ラインのバイアス(アイドル電圧)を確認する。

  • ノイズや誤動作:ツイストペアとシールドの有無、シールド接地方法、近傍の電源ケーブルやモータからのノイズ源をチェックする。

  • 片側だけ通信できない:コネクタのピンアサイン不一致、片側導体の断線、受信器の閾値問題を点検する。

  • 通信速度を上げたい:ケーブルの品質(伝送帯域)、終端、短い配線、差動ドライバの能力を見直す。

インターフェース回路と保護

産業用途ではサージやESD、短絡保護が重要です。トランシーバにはしばしば過電流保護や短絡耐性が組み込まれていますが、外付けのフェライトビーズ、サージプロテクター、トランジスタやTVSダイオード等で保護を強化することが推奨されます。また、光アイソレータを用いたガルバニック絶縁はグラウンド差や高電位差が存在する場合に有効です。

近年の適用例と置き換え

RS-422は計測器間接続、産業機器、PLC周辺、医療機器の一部などで長く使われています。近年はEthernet、USB、CANなどほかのシリアル/ネットワーク技術に置き換わるケースも多いですが、リアルタイム性、簡便なポイントツーポイント接続、既存設備との互換性のために残存需要があります。既存のRS-422機器をモダンなインフラに接続する際は、シリアル→EthernetゲートウェイやUSBトランシーバ(レベル変換やアイソレーション付き)を介する方法が一般的です。

設計上のベストプラクティス

  • ケーブルはツイストペアかつシールド付きを選定し、シールドは接地ポリシーに従う。

  • 伝送線路の特性インピーダンスに合わせて終端抵抗を配置する(通常100~120 Ω)。

  • マルチドロップ時はラインのバイアス(アイドル電圧)を確保して不定状態を防ぐ。

  • ノイズ源から配線を可能な限り離し、交差する場合は直交に配線する。

  • 産業環境ではアイソレーションやサージ保護を導入する。

導入・移行時のチェックリスト

  • ピン配列とコネクタの確認(装置間で合っているか)。

  • 終端/バイアスが適切に設定されているか。

  • ケーブル長とデータレートのバランスを考慮しているか。

  • 必要ならばアイソレーションやサージ保護を追加しているか。

  • 試験機器(オシロスコープ、ラインテスター)で波形と終端の確認を行う。

まとめ

RS-422は差動伝送を採用することで高いノイズ耐性と長距離通信を実現する、産業機器や計測用途に適した堅牢なシリアルインターフェースです。設計上は終端、バイアス、ケーブル特性、接地方法が通信の信頼性を左右します。用途によってはRS-485やEthernetなど別規格が適切な場合もあるため、要求されるトポロジー(ポイントツーポイントかバスか)、データレート、距離、環境ノイズを踏まえて最適な選択を行ってください。

参考文献