DB9コネクタ完全ガイド:歴史・ピン配列・配線・トラブル対策

DB9コネクタとは

DB9コネクタは、9ピンを持つD-sub(D-subminiature)系列のコネクタのうち、電子機器のシリアル通信や制御用に長く使われてきた代表的なコネクタです。しばしば「DB9」と呼ばれますが、厳密にはシェルサイズを示す記号はDEであり、正しい型番はDE-9(9ピンのEシェル)です。とはいえ一般名称としてDB9が広く定着しています。

歴史と命名の注意点

D-subは1950年代にCannon(現ITT Cannon)が開発したコネクタ規格で、ピン数やシェルサイズに応じてDA、DB、DC、DD、DEなどの表示が使われます。DE-9はD-subの中で最もコンパクトな9ピンタイプで、1970〜1990年代にかけてパソコンのシリアルポート(RS-232C)やモデム、計測器のシリアルインターフェースとして標準的に採用されました。

物理・機械的特徴

DE-9(通称DB9)はD型の金属シェルを持ち、コネクタ全体がD字形をしているため挿抜方向が分かりやすく、シェルがシールドとしても機能します。筐体には通常はめ込み式のスレッド(ネジ)またはサムスクリューがあり、確実なロックが可能です。形状は下記のバリエーションがあります:

  • パネルマウント(機器側)
  • ケーブルアセンブリ(モールド、ストレインリリーフ付き)
  • 基板実装タイプ(スルーホール、SMT)
  • 丸型ジャック付きアダプタやブレイクアウトボード

ネジの規格はメーカーや地域によって異なることがあり、一般的に4-40 UNCやM3などが使われます。購入時は取り付けねじの規格を確認してください。

RS-232(DTE)におけるピンアサイン

DB9が最も多く使われた用途はRS-232シリアル通信です。以下は一般的なDTE(例:PCのシリアルポート)側のピンアサインです。信号名はEIA/TIA-232標準に基づきます。

  • ピン1:DCD(Data Carrier Detect)
  • ピン2:RXD(Receive Data)
  • ピン3:TXD(Transmit Data)
  • ピン4:DTR(Data Terminal Ready)
  • ピン5:GND(Signal Ground)
  • ピン6:DSR(Data Set Ready)
  • ピン7:RTS(Request To Send)
  • ピン8:CTS(Clear To Send)
  • ピン9:RI(Ring Indicator)

注意:上記は「DTE」規定のアサインで、モデムなどのDCE(Data Circuit-terminating Equipment)では役割が逆になります(TX/RXが入れ替わるなど)。

Null Modem配線例(クロスオーバー)

2台のDTE同士を直接接続する場合は「ヌルモデム」配線が必要です。代表的な配線(シンプル版)は以下の通りです:

  • PC1 TXD (ピン3) → PC2 RXD (ピン2)
  • PC1 RXD (ピン2) → PC2 TXD (ピン3)
  • GND (ピン5) ↔ GND (ピン5)
  • ハードウェアフロー制御使用時:RTS↔CTS(ピン7↔ピン8)、DTR↔DSR(ピン4↔ピン6)を接続

実際には機器依存でより複雑な配線(信号をループバックするものや一部省略するもの)が使われるため、装置のマニュアルに従うことが重要です。

電気特性(RS-232の重要点)

RS-232は単一エンドの非差動信号で、論理0/1が電圧レベルで符号化されます。代表的な仕様:

  • 論理1(Mark):負電圧(一般に-3〜-15V)
  • 論理0(Space):正電圧(+3〜+15V)
  • 信号対グラウンドでの伝送
  • 推奨ケーブル長は数メートル〜数十メートル(EIA-232では約15m/50ftが目安、速度やケーブルによって変動)

注意:RS-232はTTL(0/5Vや0/3.3V)とは電圧レベルと極性が異なるため、直接接続すると装置を破損する恐れがあります。TTLと接続する場合はレベルシフタ(MAX232など)を必ず使用してください。

RS-422/RS-485とDB9

DB9はRS-232以外にもRS-422/RS-485の差動通信インターフェースで使われることがあります。ただし、RS-422/485では差動ペア(A/B、+/-)を用いるためピン配列は標準化されていないことが多いです。装置間でピン割り当てが製造元ごとに異なるため、接続前に配線表を確認してください。RS-485では終端抵抗や偏置(fail-safe)回路の採用が重要です。

実用上の注意点とトラブルシューティング

  • ケーブル長と速度:長いケーブルでは減衰・ノイズの影響が出るため速度を下げるか差動方式にする。
  • 信号レベルの確認:マルチメータやオシロスコープで±電圧を確認。TTLとRS-232の混同に注意。
  • ピンの役割確認:装置がDTEかDCEかで配線が変わる。マニュアルを確認。
  • 端子の接触不良:ネジやシールド接続の緩み、ピンの曲がりに注意。
  • ループバックテスト:送受信ラインを結線して自局の送信がそのまま受信されるかをチェック。
  • USB→シリアルアダプタ:FTDIやProlificなどのチップを使う場合、ドライバの互換性とCOM番号を確認。

購入時のポイントと現代の代替

DB9コネクタを購入・選定する際は以下を確認してください:

  • 用途(RS-232/RS-422/RS-485)に合ったピン配列か
  • ケーブルのシールド、ストレインリリーフの有無
  • パネルマウントかケーブルモールドか基板実装か
  • ねじの規格と互換性(取り付ける機器側のねじ)
  • 耐久性(挿抜回数、温度範囲)

ただし近年はUSBやEthernet、RJ45コンソールなど別のインターフェースが普及しており、新規設計でDB9を採用するケースは減少しています。一方で産業機器や古い装置のメンテナンス、計測機器、NMEAや産業用プロトコルのためにDB9は未だ広く使われています。

まとめ

DB9(DE-9)は歴史的に広く使われてきたシリアル用コネクタで、正しいピン配列・信号レベル・配線方法を理解することが安定した通信の基本です。RS-232、RS-422、RS-485など用途や電気特性が異なるため、接続前には必ず装置のマニュアルを確認し、必要に応じてレベル変換器や終端/バイアスを用いてください。誤配線やレベルの不一致は装置の故障につながることがあります。

参考文献