ミリ波とは?5G・レーダー・応用の仕組みと課題を徹底解説

イントロダクション:ミリ波とは何か

ミリ波(ミリメートル波)は一般に周波数帯域で30GHz〜300GHz、波長で約10mm〜1mmの電磁波を指します。通信やレーダー、センシングなどで注目されており、特に5Gの高周波(FR2)や短距離高速無線(WiGig/IEEE 802.11ad/ay)、自動車用レーダー(76〜81GHz帯)での活用が進んでいます。本コラムでは、物理特性、通信技術、センサ応用、規制・安全性、実運用上の課題と将来展望までを深掘りします。

ミリ波の基礎物理

ミリ波は波長が短いため、電波の振る舞いがマイクロ波より光学的・幾何光学的な性質を強く示します。直進性が高く回折は弱く、表面の粗さや材質の電気的特性が反射・散乱に大きく影響します。また、大気中の吸収特性も周波数に依存し、例えば酸素吸収により約60GHz付近で減衰が顕著になります。降雨や水蒸気による減衰も周波数上昇とともに大きくなるため、長距離通信には不利な面があります。

周波数帯と代表的な用途

  • 24–30GHz帯:一部の5G(28GHz帯)で利用。
  • 37–40GHz帯:5Gや広帯域バックホールで利用。
  • 57–71GHz帯:WiGig(IEEE 802.11ad/ay)などの免許不要帯。
  • 60GHz帯:酸素吸収が大きく短距離高容量用途に適合。
  • 76–81GHz帯:自動車用ミリ波レーダー(衝突回避、自動運転)で標準化。

伝搬特性(減衰、回折、反射、散乱)

ミリ波は建物の窓や壁、木、人体などによる遮蔽を受けやすく、屋外ではLOS(視線)経路が重要です。回折が弱いため遮蔽物の裏側に回り込むことが難しく、反射や散乱を経由したNLOS経路もサブミリ波長での表面粗さに依存して変動します。雨やフォグによる減衰はITU-Rの降雨減衰モデル(P.838等)で予測され、周波数が高いほど影響が大きくなります。

アンテナ技術とビームフォーミング

波長が短いためアンテナ素子を小さく集積でき、数十〜数百素子のフェーズドアレイを小型で実現可能です。これにより高利得の狭ビームを形成して指向性を高め、局所的に送受信電力を集中させるビームフォーミングやビームスイーピングが有効になります。ミリ波通信では、ビームトラッキングやビーム確立のためのプロトコルとハードウェアの両面が重要です(例:5G NRのビーム管理)。

ミリ波通信(5G/次世代)

5Gの高速化・低遅延化ではミリ波が重要な役割を果たします。大帯域幅(数百MHz〜GHz級)を確保できるため、数Gbpsレベルのリンクが可能です。一方で到達距離が短く、室内外でのカバレッジ確保には小型基地局(スモールセル)や中継、マルチパス利用が必要です。実装面では高性能RFIC、ビーム制御アルゴリズム、OTA評価が重要になります。

ミリ波レーダーとセンサ応用

自動車レーダーやライダーと補完する形で、ミリ波レーダーは高解像度の距離・速度検出が可能です。76–81GHz帯は狭いビームで高精度に物体を検出でき、悪天候下でも比較的安定動作します。加えて、産業用途では非接触センシング、人体呼吸・心拍センシング、建築材料の透過検査など多様な応用が研究・実用化されています。

利点と欠点(整理)

  • 利点:広帯域による高データレート、小型アンテナでの大規模アレイ、空間多重化の可能性、高精度センシング。
  • 欠点:遮蔽や降雨による高い減衰、屋内外カバレッジの課題、ビーム管理の複雑性、デバイスコストや消費電力。

実用的な課題と解決アプローチ

実用化に際しては以下の課題が顕著です。

  • カバレッジ確保:スモールセル配置、リピータ/中継、マルチバンド(サブ6GHzとの組合せ)で補う。
  • ビーム確立と追跡:高速ビームスイッチング、センサ融合(カメラやIMUで補助)、MLによるビーム選択の研究。
  • 遮蔽対策:反射経路の最適化、リフレクタ配置、分散型アンテナによる多重化。
  • デバイス熱・消費電力:高効率PA(電力増幅器)やビームフォーミング回路の低消費化。

安全性と規制

ミリ波の人体への影響は主に表皮領域での吸収による局所加熱が問題になります。国際的な指針としてICNIRPは周波数6GHz以上は主に電力密度(W/m2)で基準を示しており、2020年の勧告改定で高周波帯の評価方法が更新されました。各国の規制当局(例:FCC、日本の総務省(MIC))はEIRPや送信制限、測定手法を定めています。安全性に関する研究は継続中で、現時点では国際基準を満たす運用が推奨されています。

測定と試験(OTA評価など)

ミリ波機器はアンテナが一体化されることが多く、従来のコネクタ経由の測定では実性能を評価できないため、OTA(Over-The-Air)評価が標準的です。無響室(anechoic chamber)やロボットアームによる放射パターン測定、送受信リンク試験、ビームフォーミングの動的評価が重要です。スペクトラム解析、EIRP・電力密度評価、EMC測定も必須となります。

ビジネス・産業面での影響とユースケース

高容量低遅延通信としての都市型ホットスポット、工場の無線化(産業IoTでの高精度無線制御)、自動運転車両の高精度センシング、拡張現実(AR)・仮想現実(VR)のワイヤレス配信などが期待されます。さらに建物内の高速ワイヤレスバックホールや短距離大容量のデータリンク(ケーブルレスの代替)も有望です。

将来展望(6Gとそれ以降)

6Gではミリ波より上のサブテラヘルツ域(100GHz超〜数THz)も議論されていますが、周波数が高まるほど帯域は広がる一方で空間伝搬の制約も大きくなります。技術的にはビーム管理、メタマテリアルアンテナ、超低消費RF回路、空間多様性の高度利用などが鍵です。通信とセンシングの融合(ISAC: Integrated Sensing and Communication)も注目され、同一波形で通信と高精度センシングを両立する研究が進んでいます。

まとめ

ミリ波は高帯域・高精度センシングの強みを持つ一方で、伝搬やカバレッジ、測定・安全基準といった課題を抱えます。実用化にはハードウェア、プロトコル、ネットワーク設計、規制対応の総合的な取り組みが必要です。5Gでの実用導入を通じて技術成熟が進み、今後は自動運転や産業分野でのさらなる普及が期待されます。

参考文献