5Gコアネットワーク徹底解説:アーキテクチャ、機能、構築と運用の実務ポイント

はじめに

5Gコアネットワーク(5GC)は、従来のモバイルコア(EPC)と比べて設計思想が大きく変わり、サービスベースアーキテクチャ(SBA)、制御面とユーザ面の分離(CUPS)、ネットワークスライシング、クラウドネイティブ化などを核にしています。本稿では、5Gコアの基本構造と主要ネットワーク機能(NFs)、代表的なインターフェースとプロトコル、運用・構築上の留意点、エッジやスライシングへの適用、セキュリティと今後の進化方向まで実務的視点で深掘りします。

5Gコアの設計思想と全体像

5Gコアはモジュール化されたネットワーク機能群(NF:Network Function)をサービスベースインターフェース(SBI)で接続することを基本とします。各NFは独立して実装・展開でき、HTTP/2を用いたRESTfulなAPI(SBA)で相互に通信します。これにより、マイクロサービス化、スケールアウト/イン、クラウドネイティブ技術(コンテナ、Kubernetes、CI/CD)との親和性が高まり、機能追加やアップグレードが容易になります。

また、ユーザプレーン(UP)とコントロールプレーン(CP)の分離により、低遅延が要求されるトラフィックをエッジに近接配置したUPF(User Plane Function)で処理するなど、柔軟なトラフィック制御が可能です。ネットワークスライシングにより、単一の物理基盤上で複数の論理ネットワーク(スライス)を同時に提供できます。

主要なネットワーク機能(NF)

代表的な5GコアのNFsとその役割は以下の通りです。

  • AMF(Access and Mobility Management Function):UEの登録・認証の第一窓口(NASの処理)、接続管理、モビリティ管理を担います。
  • SMF(Session Management Function):PDUセッションのセットアップ/管理、UPFの割当て、QoSの設定を行います。
  • UPF(User Plane Function):データパケットの転送、トラフィックの分岐(ローカルブレイクアウト)、パケット検査やトラフィックシェーピング等を担当します。
  • UDM(Unified Data Management)/UDR(Unified Data Repository):加入者情報、認証情報、サブスクライバデータの管理と提供。
  • AUSF(Authentication Server Function):認証処理を担当(SUPI/SUCI、EAP-AKA'などに関与)。
  • PCF(Policy Control Function):ポリシー決定(QoS、トラフィックルール、アクセス制御)を行い、SMF等にポリシーを提供します。
  • NEF(Network Exposure Function):外部アプリケーション/サービスに対してネットワーク機能をAPIとして公開するインターフェースを提供します。
  • NRF(Network Repository Function):SBAにおけるNFディスカバリ(どのNFがどこで動いているか)を管理します。
  • NSSF(Network Slice Selection Function):ネットワークスライスの選択を支援します。
  • CHF(Charging Function):課金データの生成と課金機能の管理を行います。

代表的なインターフェースとプロトコル

5Gコアでは、以下のような主要なインターフェースとプロトコルが中心に使われます。

  • SBI(Service-Based Interfaces):SBA内のNF間通信にHTTP/2とJSONマッピングを利用。通信はTLSで保護されることが求められます。
  • N2 / N3:無線装置(gNB/NG-RAN)とコアの間。N2は制御(NGAP)、N3はユーザプレーン(GTP-Uやフレーム)のトラフィックを運びます。
  • N4(SMF↔UPF):PFCP(Packet Forwarding Control Protocol)を用いて、SMFがUPFにパケット転送ルールやトラフィック処理指示を与えます。
  • N6:UPFとデータネットワーク(インターネット、企業ネットワーク等)間。
  • N9:UPF間のユーザプレーン連携(パスのステアリングや転送の連鎖を実現)。
  • N11:AMFとSMF等、特定のコントロールプレーン間のSBI(セッション管理呼び出しなど)。

これらのプロトコル群により、セッション管理、トラフィック経路設定、QoS適用が細かく制御されます。特にPFCPにより、SMFはUPFに対してPDR(Packet Detection Rule)、FAR(Forwarding Action Rule)、QER(QoS Enforcement Rule)などを設定します。

QoS・セッションとPDUタイプ

5Gでは「PDUセッション」がユーザのデータ通信単位です。PDUセッションにはIPv4/IPv6/IPv4v6/Ethernet/Unstructuredなどのタイプがあり、SMFが管理します。QoSは「QoS Flow」として定義され、QFI(QoS Flow Identifier)で識別されます。5QI(5G QoS Identifier)により優先度や遅延特性が表され、PCFがポリシーを決め、SMF/UPFで適用されます。

ネットワークスライシングの実装ポイント

ネットワークスライシングは、ビジネスやサービスの要求(例:低遅延の産業用、低コストの大量接続、専用の企業ネットワークなど)に応じて論理的に分離されたネットワークを提供します。重要な実装要素は次の通りです。

  • スライス定義(SST、SD)とSLAの設計。
  • スライス選択(NSSF)と割当て、Slice-specificなSMF/UPFの配置。
  • オーケストレーション層(NSMF、NSSMF等)によるリソース割当とライフサイクル管理。
  • スライス間のセキュリティ・性能分離(リソース隔離と管理チェーンの分離)。

運用上はスライスの監視、課金、SLA違反の自動是正といった運用プロセス整備が不可欠です。

エッジコンピューティングとUPFの役割

低遅延サービス(AR/VR、産業制御、車載)を実現するために、UPFとアプリケーションのエッジ配置(MEC:Multi-Access Edge Computing)が採用されます。UPFをエッジに置くことで、トラフィックのローカルブレイクアウト(ローカルDNへ直接転送)を実現し、遅延を短縮できます。SMFはPDUセッションに適したUPFを選択・制御し、PFCPで転送ルールを設定します。

クラウドネイティブ化と運用自動化

5Gコアの多くはクラウドネイティブ設計が求められ、以下の要素が重要です。

  • コンテナ化(CNF)とKubernetesによるオーケストレーション。
  • マイクロサービス設計によるスケール単位の細分化。
  • CI/CDパイプラインによる迅速なデプロイとロールバック。
  • セントラルなテレメトリ/ロギング/トレーシング基盤と可観測性。
  • ステートフルな機能(セッションや加入者データ)のステート管理戦略(外部DB、スナップショット、レプリケーション)。

これらを実現するためには、Kubernetesの運用スキル、オートスケーリング設計、CI/CDの品質管理、ステートフルサービスのスケーリング戦略が必要です。

セキュリティ設計と課題

5Gコアでは以下のセキュリティ要素が設計されていますが、実運用では注意が必要です。

  • 加入者IDの保護:SUPI(Subscriber Permanent Identifier)を暗号化したSUCIの利用。
  • SBIの保護:HTTP/2 over TLS、相互認証、証明書管理。
  • 境界防御:SEPP(Security Edge Protection Proxy)を用いた事業者間通信の保護。
  • アップデート対応:脆弱性の多いサードパーティライブラリやコンテナイメージの管理。
  • ゼロトラストの導入:NF間通信での最小権限、認可と認証の強化。

特にクラウドネイティブ化に伴い、コンテナランタイムやKubernetesクラスター、サービスメッシュの設定ミスが攻撃面を広げるため、セキュアな開発運用(DevSecOps)が重要です。

運用・相互接続の現実的な課題

5Gコア導入における現場での課題は多岐にわたります。

  • 相互接続性:ベンダー間の実装差やSBIの拡張により相互接続試験が不可欠。SBAは柔軟だが統一的なAPI仕様の準拠度で実装差が生じやすい。
  • レガシーとの共存:既存EPCとのローミングやインターワーク(NSAモード)をどう移行するか。
  • 運用自動化の成熟度:スライスやエッジを含む複雑なトポロジーを手作業で運用するのは非現実的で、オーケストレーション/自動化が必須。
  • モニタリングとSLA管理:多様なサービスに対し適切なKPIを設計し、リアルタイムに監視・アラートできる仕組みが必要。

展望:Rel-16/17以降の拡張と産業利用

3GPPのリリースは継続的に機能拡張を行っており、Rel-16/17では産業向けの強化(URLLC、Time Sensitive Networkingや位置情報の精度向上、非地上系ネットワークの統合支援など)が進められています。これらは5Gコア側でもセッション制御やポリシー制御の高度化を要求します。また、AI/MLを利用した運用最適化(スライス割当、故障予測、トラフィック予測)は今後ますます重要になります。

実務的な導入チェックリスト

導入・設計時に確認すべきポイントをまとめます。

  • 提供したいサービスごとに必要な遅延・帯域・接続密度を明確にする(スライス要件化)。
  • UPFの配置戦略(コア集中/エッジ分散)をワークロードで評価する。
  • NFのステート管理(ステートレス設計の可否、外部DBの性能と耐障害性)を策定する。
  • 相互接続(ローミング、既存EPC連携)やSEPPの要件を確認する。
  • 運用自動化(CI/CD、Kubernetes運用、監視基盤)とセキュリティ(証明書管理、ID管理、ログ保全)を整備する。

まとめ

5Gコアネットワークは従来の固定的なコアとは異なり、柔軟性・拡張性・クラウドネイティブ性を備えた新しい基盤です。SBAやCUPS、ネットワークスライシング、エッジ連携などの概念を正しく設計に落とし込み、運用自動化とセキュリティを両立させることが成功の鍵となります。導入にあたっては、プロトコルやインターフェースの理解、ベンダー実装差の確認、そして実運用に即したテストと監視設計が不可欠です。

参考文献