音楽収録工程の完全ガイド：スタジオ準備から録音・編集・納品まで

収録工程とは何か――全体像と目的

収録工程（レコーディング工程）は、楽曲制作における音素材の取得から編集・整理し、ミキシングへ渡すまでの一連の作業を指します。目的は演奏・歌唱・音響ソースを高品質かつ再現性のある形で記録し、後工程（ミックス／マスタリング）で最適に処理できる状態で納品することです。収録は単なる録音作業ではなく、事前準備、機材選定、現場運営、データ管理、問題対処など多岐にわたります。

1. プリプロダクション（事前準備）の重要性

録音成功の鍵はプリプロにあります。十分な準備は録り直しや追加コストを減らし、演奏者の集中力を高めます。

• 楽曲の確定：アレンジ、構成、テンポ、キーを最終決定する。
• ガイドトラックの作成：クリック、仮ベース、ガイドギターやボーカルを用意し、演奏の基準を作る。
• タイムラインとスケジュール設計：セッションごとに目標（ドラム、ベース、ギター、ボーカル等）と時間を割り当てる。
• スタジオ・機材のブッキング：部屋の特性、マイク、プリアンプ、インターフェイスの確認。
• 演奏者リハーサル：録音前にレコーディング用の表現、ダイナミクスを固める。

2. セットアップと音響処理

スタジオ到着後のセットアップは非常に重要です。部屋の音響（吸音・拡散）、スピーカーの配置、モニタリング環境を最適化します。

• ルームチューニング：低域のブーミーさを抑えるためのベーストラップ、初期反射の対策。
• モニタースピーカーとリスニングポイントの調整：スイートスポットを確認する。
• ケーブル管理と電源：ノイズの元を除去し、アイソレーションを確保する。

3. マイクロフォン選定と配置の原理

マイク選びと配置は録音の質を決める最重要要素です。ダイナミック、コンデンサー、リボンなどの特性を理解し、楽器や演奏スタイルに合わせて使い分けます。

• 指向性の選定：単一指向性（カーディオイド）は不要な後方音を抑え、双指向性やオムニは空間感やルームを取り込みたいときに有用です。
• 距離と角度：近接効果や位相問題を意識してマイク位置を決定する。ドラムのタムやスネアは角度でアタックを調整。
• ステレオ収録技法：XY、ORTF、AB、M/Sなど目的に応じて選ぶ。

4. ドラム録音の工程とコツ

ドラムは録音工程の中で最も複雑な楽器の一つです。アンサンブルの基盤となるため、時間をかけてセットアップします。

• チューニング：録音前にドラムのチューニングを最適化する。
• マイキング：キックにダイナミック＋内部コンデンサー、スネアにトップとボトムの2本、オーバーヘッドにステレオペアを基本とする。
• 位相チェック：各マイク間の位相を必ずチェックし、音が薄くならないように調整する。
• ゲインレンジ：ヘッドルームを意識して、クリッピングを避ける。

5. ベース・ギター・アンプ類の録音方法

楽器の性格によって直接録音（DI）とアンプマイクの併用が使われます。DIはクリーンで編集しやすく、アンプマイクはトーンとキャラクターを与えます。

• DIとアンプのブレンド：両方を同時に録ることで後で最適バランスを作れる。
• キャビネットのマイキング：スピーコンの中心／エッジを試して最適ポイントを探る。
• ギター録音：複数のテイクをパンに振るために、同じフレーズを別テイクで録ることがある（ダブルトラック）。

6. キーボード・ピアノの録音

アコースティックピアノはマイク配置と部屋の音によって大きく変わります。電子鍵盤はライン録音が一般的です。

• アコースティックピアノ：スティック、クロース/ルームマイクの組合せでレンジをカバー。
• サンプリング音源：MIDIベースで高品質音色を収録する場合は、演奏表現を重視する。

7. ボーカル録音のワークフロー

ボーカルは楽曲の“顔”です。技術、心理的な配慮、環境づくりが重要。

• ポップフィルター、ポップ処理：大きな破裂音を防ぐ。
• ルームサウンド：小さな反射が気になる場合は吸音を追加する。
• パフォーマンス管理：ウォームアップ、テイクの取り方（フルテイク→コンピング）を計画。
• プラグインは後で：録音時はなるべくピュアな信号で記録し、過度な処理は避ける。

8. クリック・テンポとループ素材の扱い

クリックトラックは演奏のタイミングを安定させ、後で編集やシンセの同期を容易にします。テンポチェンジやリズムの自由度が必要な曲はガイドを工夫します。

• テンポマップ：曲に合わせたテンポマップをDAWで作成。
• 人間らしさの維持：クリックに頼りすぎるとライブ感が損なわれる場合があるので、演出でスウィングや微妙な揺らぎを残す。

9. レコーディングのテクニカル管理（ゲイン、サンプリング、フォーマット）

技術面の管理はミックスの効率と音質に直結します。

• サンプリング周波数とビット深度：一般的に44.1kHz/24bit以上を推奨。48kHzは映像連携用に一般的。
• ヘッドルームの確保：最終クリップを避けるために平均レベルを-18〜-12dBFS程度に保つのが基本。
• 同期：外部ハードウェアを使用する場合はクロックを安定させる。

10. テイク管理・コンピング・編集

多数のテイクを効率的に管理し、最良のパートを組み合わせる作業がコンピングです。DAWのマーカー、プレイリスト、領域命名を徹底します。

• テイクの命名規則：曲名_パート_日付_テイク番号のような一貫性ある命名で混乱を防ぐ。
• 編集の原則：不要ノイズの除去、クロスフェードでクリックを防ぐ、タイミング微調整は必要最小限に。
• ピッチ修正：自然さを保つために局所的に使用し、感情表現を損なわない。

11. メタデータと納品用ファイル管理

収録後のデータ管理は次工程（ミックス／マスタリング）や配信に重要です。適切なフォルダ構成とバックアップを徹底してください。

• フォルダ構造例：Project/Audio/Raw/ takes/TrackStacks/SessionFile
• ファイル形式：WAVまたはAIFFの無圧縮ファイル、サンプリングレートとビット深度を明記。
• バックアップ：3-2-1ルール（3コピー、2種類のメディア、1つはオフサイト）を推奨。

12. コミュニケーションとクレジット管理

現場での指示系統、エンジニアとアーティスト間の合意、楽曲のクレジット（作詞・作曲・演奏者・エンジニア）を事前に整理します。録音ログ（記録シート）を残すと再現が容易です。

13. よくある失敗と対策

• 不十分なプリプロ：時間と予算の超過につながるので事前準備に投資する。
• 信号チェーンの管理不足：ノイズや位相問題は初期段階でチェックする。
• 不適切なテイク管理：後で探せない素材を作らないための命名と整理。

14. 現場の実践的なチェックリスト

• 機材リストと動作確認
• ケーブルと電源の分離、グラウンドループ防止
• マイクと信号の位相チェック
• レベル設定とヘッドルーム確認
• メトロノーム/ガイドトラックの有無確認
• テイクごとのメモとマーカー記録
• セッション終了時のバックアップ実行

15. 収録後のワークフロー（ミックスへの引き渡し）

ミックスエンジニアに渡す際は、ステム（ドラム、ベース、ギター、ボーカル等）や個別トラックの整理、テンポマップ、参照ミックス、ノート（例：望む音像、NGテイク）を同梱します。サンプルレートとビット深度の情報、プラグイン使用の有無（リアルタイム処理かインサートか）も明記するとスムーズです。

エバープレイの中古レコード通販ショップ

エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery

参考文献

• Sound On Sound（レコーディング技術関連記事）
• Audio Engineering Society（AES）
• Shure（マイクロフォンのガイド）
• iZotope（編集・修復のツール情報）
• RecordingRevolution（実践的レコーディングチュートリアル）

投稿者プロフィール

エバープレイ編集部

最新の投稿

• 用語2025.12.21全音符を徹底解説：表記・歴史・演奏実務から制作・MIDIへの応用まで
• 用語2025.12.21二分音符（ミニム）のすべて：記譜・歴史・実用解説と演奏での扱い方
• 用語2025.12.21四分音符を徹底解説：記譜法・拍子・演奏法・歴史までわかるガイド
• 用語2025.12.21八分音符の完全ガイド — 理論・記譜・演奏テクニックと練習法