ゲイン補正の完全ガイド:ミックスからマスタリングまでの実践テクニック

ゲイン補正とは何か

「ゲイン補正」は音楽制作における信号レベルの調整全般を指す用語で、録音段階の入力ゲイン調整、トラック間のレベル均一化(クリップゲイン/フェーダー操作)、プラグイン使用時の前後での音量合わせ、マスタリング段階での最終音量調整など、広い意味で使われます。単に音量を上げ下げするだけでなく、歪みやノイズ、ヘッドルーム、ラウドネス測定値(LUFS)への影響を考慮しながら行うのが重要です。

基礎知識:デシベル、ピーク、ラウドネス、ヘッドルーム

・デシベル(dB)は音の相対的な大小を表す単位で、デジタル環境ではdBFS(Full Scale)が使われ、0 dBFSがデジタル上の最大値です。ピークが0 dBFSを超えるとクリップ(デジタル歪み)が発生します。

・ラウドネス(感覚的な大きさ)はLUFSやRMSで評価され、近年はLUFS(ITU-R BS.1770に基づく測定)が標準になっています。音楽配信プラットフォームはラウドネス正規化を行うため、ターゲットLUFSに合わせた調整が必要です。

・ヘッドルームとはクリップまでの余裕で、ミックス時に十分なヘッドルームを残すことでマスタリング工程での処理余地を確保します。一般的な指針として、マスター段階に渡す前のミックスバスのピークは約-6 dBFS付近を目安にすることが多いですが、ジャンルや制作フローによって変わります。

なぜゲイン補正が重要か

  • 適切なS/N(信号対雑音比)を確保:入力ゲインが低すぎるとノイズが相対的に目立ち、高すぎると歪む。
  • プラグインの動作特性:多くのエフェクトは入力レベルに敏感で、同じ設定でも入力レベルが違うと結果が大きく変わる(例:コンプレッサーの動作量、EQのフィルタ特性の感覚)。
  • 比較の公平性:処理の前後で音量が変化すると、人間は音量が大きい方を良く聞こえると感じやすく、処理の効果を正しく評価できない。これを避けるために「ゲイン補正(音量合わせ)」を行う。
  • 配信規格への適合:先述のLUFSやTrue Peak制限に合わせることで、配信時に不意のラウドネス調整で音質が損なわれるのを防ぐ。

ミックスでの具体的なゲイン補正手法

1) 録音/入力段階のゲイン設定

  • プリやマイク入力では、ソースのダイナミクスを失わない範囲で十分なレベルを確保する(目安はクリップしない範囲でピークに余裕を持たせる)。過度に低レベルで録るとノイズフロアが問題になりやすい。

2) クリップゲイン(オーディオグラウンドでのレベル調整)とフェーダーの使い分け

  • クリップゲインは波形自体のレベルを変えるため、コンプレッサー等の入力レベルに影響を与えたいときに有効。フェーダーはミックス内での相対バランス調整に使う。
  • 例えばボーカルトラックのピークが高い場合、まずクリップゲインでピークを抑え、その後コンプレッサーで丁寧にダイナミクスを整える、という流れが一般的です。

3) プラグイン前後のゲイン構成(ゲインステージング)

  • チェーンの前後でレベルを管理し、各プラグインが設計上の最適な入力レベルで動作するようにする。多くのプロは「トリム/ゲインプラグイン」を挟んでプラグインの比較テスト時に音量を合わせる。
  • 処理効果の評価時は必ず音量補正を行い、処理による質的な変化を音量差によるプラシーボと混同しない。

4) コンプレッサー・リミッターのメイクアップゲイン

  • ダイナミクス処理でゲインが下がる場合、聴感上のバランスを保つためにメイクアップゲインを使う。ここでも前後の音量を合わせて処理の効果を判断するのが重要。

マスタリングと配信時のゲイン補正

マスタリングでは最終的なラウドネスとTrue Peak(インターサンプルピーク含む)を管理します。各配信サービスはラウドネス正規化を実施するため、ターゲットLUFSに合わせることで配信時に余計なゲイン調整をされにくくなります。

  • 代表的な目安(2020年代の一般的な傾向):SpotifyやYouTubeは概ね-14 LUFS前後が基準とされることが多く、Apple Music(Sound Check)はやや低めの-16 LUFS程度に設定されることがある。ただしプラットフォームは更新されるため、配信先の最新ガイドラインを確認すること。
  • True Peakの上限はサービスによって異なるが、一般に-1~-2 dBTPの余裕を残すことが推奨されることが多い(インターサンプルピークによるクリップ回避のため)。

ツールとメーターリング

ゲイン補正では正確なメーターが必須です。以下の指標をチェックしましょう。

  • ピークメーター(dBFS)— クリップの回避。
  • True Peakメーター(dBTP)— インターサンプルピークを確認。
  • LUFSメーター(Integrated, Short-term, Momentary)— ラウドネスの総合的な評価。
  • RMSメーター— 平均的なパワーの確認(感覚的ラウドネスと関連)。

代表的なツールとしてDAW内蔵のゲイン/ユーティリティプラグイン、クリップゲイン機能、専用のラウドネスメーター(例:iZotope Insight, Waves WLM, Youlean Loudness Meter等)があり、用途に応じて使い分けます。

実践ワークフロー(例)

  1. 録音で適切な入力ゲインを設定し、ノイズとヘッドルームのバランスを取る。
  2. 各トラックを整理(クリップゲインで粗調整)し、主要な楽器の相対レベルを決める。
  3. プラグインチェーンの前後でトリムを調整し、各エフェクトが適切に機能する入力レベルを保つ。
  4. イコライジングやダイナミクス処理を行う際は、処理の前後で音量を合わせて客観的に比較する。
  5. ミックスバスでは充分なヘッドルーム(目安としてピークが約-6 dBFS前後)を残しつつ、全体のラウドネスを調整。
  6. マスタリングでLUFSとTrue Peakを最終調整し、配信ガイドラインに合わせる。

よくある誤解と注意点

  • 「大きければ良い音」は誤り:音量だけで優れたミックスかどうかは決まらない。適切なダイナミクスと周波数バランスが重要。
  • 大量のリミッティングで無理にLUFS稼ぐと音が潰れる:ジャンルに応じた適切なラウドネスを選ぶ。
  • ノイズ増幅のリスク:ゲインを上げれば雑音も上がる。低レベル録音はノイズ対策が必要。

まとめ:ゲイン補正は技術と感性の両方

ゲイン補正は単なる音量操作ではなく、信号品質、プラグイン特性、リスニング環境、配信基準を踏まえた総合的な作業です。正しいメーターと手順を用い、処理前後の音量を公平に比較する習慣を付けることで、より良いミックスとマスターが得られます。

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参考文献