音楽制作・鑑賞で知っておきたい「dB(デシベル)」の全知識:定義・計算・実務・安全基準まで徹底解説

dB(デシベル)とは何か ─ 音楽と音響で必須の単位

dB(デシベル)は、音や電気信号、振幅・電力などの比率を対数的に表す無次元の単位です。音楽制作やPA、録音、マスタリング、ライブ運営など、音に関わるあらゆる場面で使われます。デシベルは対数スケールを用いるため、人間の耳の感度(対数に近い)や非常に広いダイナミックレンジ(微小な音から非常に大きな音まで)を扱うのに適しています。

技術的には、デシベルはベースとなる比率を10倍にしたときに単位を表す「ベル(B)」の十分の一がデシベル(dB)です。実務では、音圧、電気レベル、電力などに応じて使い分けられる複数の定義があります。

基本式と参照値:音圧・電力・電圧の扱い方

dBの基本的な定義は、量の種類により以下の式で表されます。

  • 音圧(または電圧など振幅量)に対して:dB = 20 × log10(p / p0)
  • 電力(またはエネルギー量)に対して:dB = 10 × log10(P / P0)

ここで p0 や P0 は基準(参照値)です。音響における標準的な参照値は、0 dB SPL = 20 μPa(マイクロパスカル、20×10^-6 Pa)で、これを基準に音圧レベル(SPL: Sound Pressure Level)を表現します。例えば、94 dB SPL は約1 Pa(パスカル)に相当します(20 log10(1 / 20E-6) ≈ 94 dB)。

電気信号では複数の参照が使われます:

  • dBV:基準は1 V RMS(0 dBV = 1 V)
  • dBu(昔はdBvとも呼ばれた):0 dBu ≈ 0.775 V RMS(これは1 mWを600 Ωに供給した時の電圧に対応)
  • dBm:基準は1 mWの電力(負荷インピーダンスが明示されない場合、しばしば600 Ω基準や50 Ω基準が使われる)
  • dBFS:デジタルオーディオでの基準で、0 dBFSがデジタル信号の最大値(フルスケール)を示す。実世界の電圧に対応させるには機器ごとの校正が必要。

対数表現の直感的な読み方とルール・オブ・サム

dBは比率の対数なので、直感的なルールが使えます。

  • 同じレベルの音が2つ重なると合成レベルは+3 dBになる(例:2つの同レベルスピーカーが同位相で同じ音を出すと+3 dB)。
  • 10倍の電力比は+10 dB、100倍は+20 dB。
  • 電力が半分になると-3 dB、1/10になると-10 dB。
  • 自由空間(点音源)では距離を2倍にすると理想的には音圧レベルが約-6 dB(= 20 log10(1/2))下がる。これはエネルギー密度が距離の二乗に従うことから来ています。

注意点として、位相や拡散・反射の影響で実際の合成は単純な加算とはならない場合が多く、実測が重要です。

加算の具体例(簡単な目安)

いくつかの代表的な合成例:

  • 単独音Aが70 dB、同じ音がもう一つあると合成後は約73 dB。
  • 70 dB の音に60 dB を重ねると合成は約70.4 dB(レベル差が10 dB以上で小さい方の寄与は無視できる)。
  • 3つ同一音が合わさると+4.8 dB(おおよそ+4.77 dB)ほど増える。

重み付け(A/C等)と人間の聴覚

人間の耳は周波数により感度が異なるため、測定には重み付けフィルタが使われます。代表的なものはA特性(dBA)とC特性(dBC)です。

  • dBA:人間の可聴域での感度を模したフィルタで、低周波を大きく減衰させます。騒音規制や労働安全規準でよく使われる指標です。
  • dBC:よりフラットに近い特性で、低周波の寄与を大きく含める測定に使われます。コンサートや低音の評価で用いられます。

重み付けは健康影響や主観的なうるささの評価に大きく影響するため、測定目的に合わせて選びます。

音量レベル(SPL)と主観的な「大きさ」

SPLは物理的な音圧の指標ですが、人間が“うるさい”と感じるかどうかは周波数成分や時間的変化(アタックや持続時間)、聴取距離、背景雑音によって変わります。たとえば同じ85 dBでも高域が豊富な音は刺さる感じがあり、低域中心の音は厚みを感じるが振動ストレスが大きい、などの違いがあります。

メータリング:RMS、ピーク、LUFS、ラウドネス

音楽制作で使うレベル指標はいくつかあり、用途により使い分けます。

  • RMS(Root Mean Square):信号の平均的なエネルギーを示し、実効値的な音の大きさを表します。機械的な出力や熱的な負荷評価に適します。
  • ピーク(Peak):瞬間的な最大振幅。デジタル領域では0 dBFSを超えるとクリッピングするため重要です。インパルス的な高レベルを示します。
  • LUFS(Loudness Units Full Scale)/LKFS:放送・ストリーミングで使われるラウドネスメトリクス。A特性に近いフィルタと時間平均化を組み合わせ、人間の知覚ラウドネスに合わせて正規化します。SpotifyやYouTubeなどではLUFS基準に基づいたラウドネス正規化が行われます。

デジタル音声のフルスケール(dBFS)とヘッドルーム

デジタルオーディオでは0 dBFSが最大値で、それを超えると桁落ち(クリッピング)します。一般にミックスやマスタリングでは、ピークを0 dBFS以下に抑えつつ、LUFSでの目標ラウドネス(例:-14 LUFS ストリーミング向け、放送向け標準は国や媒体で異なる)を満たすように調整します。ヘッドルームとは最大値までの余裕のこと。デジタルでは-6 dB〜-1 dB程度のヘッドルーム設計が一般的ですが、用途により異なります。

ダイナミックレンジと音楽表現

ダイナミックレンジ(最大レベルと最小レベルの差)は音楽表現にとって重要な要素です。ポップスやEDMの多くはラウドネス競争により圧縮・リミッティングされがちでダイナミクスが小さくなることがあります。一方でクラシックやジャズは大きなダイナミックレンジを活かすことで生々しさを保ちます。最適なダイナミクス設計はジャンル、配信先、リスナーの環境を考慮して決めます。

聴覚保護と健康基準(安全な音量)

長時間にわたる高レベルの音は聴覚障害を引き起こす可能性があります。実務では以下のような指針が参照されます。

  • NIOSH(米国国立労働安全衛生研究所)は、85 dBAを8時間の推奨許容上限(REL)とし、(3 dB交換則を用いて)音量が3 dB増えるごとに許容時間を半減することを推奨しています。
  • OSHA(米国労働安全衛生局)は一般に90 dBAを8時間の許容基準(PEL)としており、5 dB交換則を使う基準を採ります。国や機関により基準が異なるため、地域の法規やガイドラインを確認してください。
  • 環境および夜間騒音に関してはWHOがガイドラインを示しており、睡眠や健康に対する影響を考慮した推奨値があります(詳細は出典参照)。

コンサートやイベント運営では、モニタリング(会場の複数点でのSPL測定)、耳栓や耳保護具の提供、作業員のシフト管理などが行われます。

測定機器と規格

音圧を測るにはサウンドレベルメーター(SLM)や騒音計を用います。精度や用途に応じてクラス(例えばIEC 61672-1によるClass 1/Class 2)があります。計測の際は校正器(94 dB/1 kHzなど)での校正、マイクの指向性や設置位置、背景音の記録などが重要です。また、ラウドネスメーター(LUFS測定器)やRMS/ピークメータも併用します。

実務的なチェックリスト:音作り・ライブ運営・録音現場でのdB対応

  • ゲインステージング:マイク→プリアンプ→インターフェース→DAWの各段で適切なレベル(過大入力や過小入力を避ける)を保つ。
  • クリッピング回避:デジタルで0 dBFSを超えないようにし、アナログ段ではヘッドルームを確保する。
  • ラウドネス管理:配信プラットフォームや放送のLUFS基準を確認し、それに合わせてマスタリングを行う。
  • 会場測定:観客エリアだけでなくステージ脇やバックステージでのSPLをチェックし、作業員や出演者の保護を行う。
  • 重み付けの選択:騒音規制や目的(低域を重視するか主観的ラウドネスを測るか)に応じてA/C重み付けを使い分ける。

よくある誤解と注意点

  • 「dBは絶対値」ではなく「比率」:dBだけを見て音圧を直接比較する際は参照基準(SPLやdBFS、dBVなど)を必ず確認する必要があります。
  • 位相による減衰や増幅:スピーカー配置やマイク配置によっては音が干渉し、単純なdB加算則が成り立たないことがある。
  • ラウドネスとピークは別物:ピークが低くても平均ラウドネス(LUFS)が高ければ主観的に大きく感じることがあるし、その逆もあり得ます。

実例で学ぶ:いくつかの目安

  • 図書館:約30–40 dB
  • 静かな住宅街(夜):約40 dB前後
  • 会話(普通):約60 dB
  • 騒々しい市街地、トラフィック:70–85 dB
  • ナイトクラブ・ロックコンサート:100–120 dB(保護具が必須)
  • 痛みの閾値:約130 dB

まとめ:音楽におけるdBの理解がもたらす価値

dBは単なる技術的な単位以上の意味を持ちます。適切に理解することで、録音でのクリッピング回避、ミックスのダイナミクス制御、配信プラットフォームや放送基準への適合、ライブ運営での聴覚保護など、実務的な意思決定がより精密になります。対数スケールや重み付け、電気と音響の参照値の違いを押さえておくことが、音づくりの精度と安全性を高めます。

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参考文献