Momentary LUFSとは — 400ms窓で見る“瞬間的な音量”の意味と使い方(測定原理・実務ガイド)
Momentary LUFSとは
Momentary LUFS(モーメンタリー・ルーフス)は、音声・音楽信号の「瞬間的なラウドネス(聴感上の音の大きさ)」を数値化する指標の一つです。国際的なラウドネス規格(ITU-R BS.1770/EBU R128)で定義された「ラウドネス測定」の区分のうち、短時間の窓(400ミリ秒)を用いて瞬間的に計算される値を指します。略して“Momentary”や単に“M”と表示されることが多く、LUFS(Loudness Units relative to Full Scale)単位で表されます。LUFSはLKFSと同義で、1 LU(Loudness Unit)は1 dBに相当します。
規格と測定窓:Momentaryはなぜ400msか
Momentaryの定義はEBU R128やITU-Rの測定仕様に由来します。これらの規格では、ラウドネスの評価に3種類の時間スケールを用意しています。
- Integrated(統合ラウドネス): プログラム全体の平均値(ゲーティング処理あり)
- Short-term(ショート): 3秒の移動平均
- Momentary(モーメンタリー): 400ミリ秒の移動平均
400msという設定は、人間の短期的な音量変化の知覚に関する研究と実務上の利用バランスを踏まえたものです。短すぎると瞬間的なトランジェントに過敏に反応してしまい、逆に長すぎると短いフレーズや発音の変化を捉えにくくなります。400msはボーカルや楽器の瞬間的なエネルギー変化を把握しやすい妥当な窓長とされています(EBUの技術文書を参照)。
技術的背景:K-weightingと計算の流れ
Momentary LUFSの測定はITU-R BS.1770で規定された手順に従います。大まかな流れは以下の通りです。
- K-weightingフィルタを通して周波数上の耳の感度を模擬する前処理を行う(高域シェルフ等を含む)。
- 信号を電力(RMS相当)として評価するために二乗・平均化を行う。
- 所定の窓(Momentaryでは400ms)で移動平均を計算し、LUFS単位に変換する。
Momentaryは短時間窓の移動平均であり、Integratedのようなゲーティング(EBU R128で規定された絶対ゲートや相対ゲート)は適用されません。つまり、Momentaryにはサイレンスや極端に低い部分を除外するゲート処理がかからないため、短期的な値の振れ幅が大きくなります。
何に使うか:実務上の活用シーン
Momentary LUFSは主に「短時間の音量感の把握」と「ミックス中の瞬間的なラウドネス変動チェック」に使われます。具体的には:
- ボーカルの語尾やブレス、一発のスネアなど短い音の聴感上の大きさを評価する。
- 曲の中での“瞬間的にうるさく感じる箇所”を特定して、EQやコンプレッサーで調整する。
- 放送や配信に向けて、統合ラウドネスだけでなく短期的な耳障りなピークを抑えるための判断材料にする。
- マスタリング時に、曲のイントロやブレイクで生じる短いラウドネスのジャンプを検出する。
例えば、配信プラットフォームは最終的にIntegrated LUFSで正規化(ノーマライズ)することが多いですが、Momentaryを無視すると曲の一瞬の”うるささ”がリスナー体験を損ねることがあります。したがって、Integratedを基準にしつつMomentaryで細かな箇所を潰すワークフローが推奨されます。
注意点・誤解しやすいポイント
- Momentaryの値だけで音量感全体を評価してはいけない:短期的な値であるため、楽曲全体の平均(Integrated)と合わせて評価する必要があります。
- Momentaryはピーク(サンプルピークやTrue Peak)とは別物:True Peakは波形の補間・過サンプリングで算出される瞬時の最大値で、デジタルクリッピングのリスク評価に使います。Momentaryは聴感上の“エネルギー”を示す指標です。
- メーターの実装差に注意:同じMomentary表記でも、表示の更新間隔や内部のオーバーラップ処理が異なると表示が僅かに変わる場合があります。信頼できる基準に沿ったプラグインやハードウェアを使いましょう。
- IntegratedのゲーティングはMomentaryには適用されない:無音部分や極端に静かな部分がMomentaryの平均に影響する場合がある点を考慮してください。
実践的な計測・ミックスの手順(推奨ワークフロー)
- まずトラック毎にラウドネスの目安を設定する(ボーカルの平均は−xx LUFSなど)。
- バスやステレオ出力でMomentaryを確認し、ボーカルや効果音の“瞬間的に耳に付く”箇所を特定する。
- 問題箇所には短時間のコンプやトランジェントシェイパー、微妙なフェーダー調整で対処する。過度なリミッティングは全体の質感を壊すことがあるので注意。
- マスタリング段階でIntegrated LUFS目標(配信プラットフォームの推奨値)に合わせる。Momentaryは最終チェックとして、曲全体を通して不自然な瞬間的な突出がないかを見る。
ツールとメーターの選び方
市場には多くのラウドネスメーターがあり、それぞれ表示や機能に差があります。信頼性の高いものを選ぶポイント:
- ITU/EBU規格に準拠していること(K-weighting、窓長の仕様など)。
- Momentary(400ms)とShort-term(3s)、Integratedの切替表示があること。
- True Peak表示やラウドネス履歴(ラフな時間軸での視覚化)があると便利。
代表的なソフトウェア例:Youlean Loudness Meter、iZotope Insight、NUGEN VisLM、Waves WLMなど。どれもMomentary表示を備え、ビジュアルで瞬間的なラウドネス変動を追いやすくしています。
配信プラットフォームとMomentaryの関係
主要な配信サービスはラウドネス正規化を行いますが、通常はIntegrated LUFSを正規化目標に用います(SpotifyやYouTubeなどは各自のターゲットに沿った正規化を行います)。Momentary自体が直接的に正規化基準になることは稀ですが、短期的な不快な増幅や破綻はリスナー体験を損なうため、配信前にMomentaryでチェックしておくことは重要です。また、過度に圧縮してIntegratedだけを稼ぐとMomentaryが不自然に平坦化され、音楽的なダイナミクスを失うリスクがあります。
まとめ:Momentaryをどう使えばよいか
Momentary LUFSは「瞬間の聴感上の大きさ」を400msの視点で評価するツールです。IntegratedとShort-termと併用することで、楽曲や放送素材の音量管理をより精緻に行えます。実務では以下を心がけてください:
- Integratedを最終目標にしつつ、Momentaryで短期的な突発的な“耳障り”を潰す。
- Momentaryのみでラウドネス判断をしない(曲全体の平均やTrue Peakも確認する)。
- ITU/EBU準拠の信頼できるメーターを使用する。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- EBU R128 — Loudness normalisation and permitted maximum level (EBU)
- EBU Tech 3341 — Loudness Metering: "Practical Guidelines for Loudness Metering"
- ITU-R BS.1770 (Wikipedia 解説)
- LUFS (Wikipedia)
- Youlean Loudness Meter — Loudness 計測の解説(Momentaryの説明含む)
- How Spotify Deals With Loudness — Spotify Engineering Blog
投稿者プロフィール
最新の投稿
ビジネス2025.12.15費用対効果の完全ガイド:ビジネスで正しく測り、最大化する方法
映画・ドラマ2025.12.15映画・ドラマとサブカルチャー:境界・変容・未来を読み解く
映画・ドラマ2025.12.151980年代の刑事映画──ネオ・ノワールとバディムービーが描いた都市の欲望と暴力
映画・ドラマ2025.12.15リン・ラムセイ──静謐と暴力の詩学:映像・音響・物語で切り取る心の風景

