スラーとは何か|記譜・演奏・実践テクニック完全ガイド
スラー(slur)とは
スラーは五線譜上で音符同士を弧状の線で結ぶ記号で、一般に「レガート(legato)でつなぐ」「一つのフレーズとしてまとめる」ことを意味します。異なる高さの音符同士を結ぶのがスラーであり、同一の高さの音符同士を結ぶタイ(tie)とは区別されます。スラーは単に機械的に音をつなぐ指示ではなく、音楽的な呼吸やフレーズのまとまり、ニュアンスを指示する記号として古くから用いられてきました。
表記と基本的な使い方
スラーは短い弧で、音符の頭(または符尾)の上または下に描かれます。どちら側に描くかは、通常は符尾の向き(上向きの符尾なら上側、下向きなら下側)や楽譜の可読性によって決まります。複数小節にわたるスラーも可能で、演奏者に長いフレーズとしての連続性を示します。作曲者や編曲者はスラーで「どの部分を一息で歌うか/吹くか/つなげるか」を指示しますが、楽器ごとの技術に応じた解釈が必要です。
スラーとタイ、フレーズマークの違い
- タイ(tie):同一音高の2つの音符を結び、長さを合算するための記号。発音は一度だけ。
- スラー(slur):異なる音高を結び、音のつながりやフレージング、アーティキュレーションの指示を行う。
- フレーズマーク(phrase mark):スラーと形は似ているが、より広い呼吸や文節を示すことがある。フレーズマークは演奏解釈の指針として用いられ、必ずしも完全なレガートを要求しない場合もある。
楽器別の解釈と実践
弦楽器(バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス)
スラーはしばしばボウイングの指定を伴い、同じ弓で弾き続けることを意味します(特に弦楽器の教則書では“one bow”として明示されることが多い)。弦楽器ではスラー内での音の明瞭さを保つため、左手のフィンガリングと右手の弓使いの連携が重要です。スラーの内部でポルタメントや微妙なアクセントを入れるかどうかは、スタイルや時代、作曲家の指示によります。
管楽器(フルート、クラリネット、サクソフォン、トランペットなど)
管楽器ではスラーは舌(タング)の有無を指示します。スラーで結ばれた音は原則として舌を使わずにスラー内で連続して演奏し、音と音の間に空白を作らないようにつなぎます。ただし、呼吸の問題から長いスラーをすべて一息で吹き切ることが現実的でない場合、作曲家の意図に沿って適切な呼吸点を選び、できる限りレガート感を保つことが求められます。
声楽(歌)
声楽におけるスラーは歌詞をまたぐことが多く、フレーズのまとまりや文節の表現を示します。スラーは呼吸の計画に重要な影響を与え、歌い手はテキストの意味と声の持続を両立させながら自然なレガートを作る必要があります。語尾でのわずかなアンテナ(軽い切れ目)を入れて表現する場合もありますが、基本は滑らかな接続です。
鍵盤楽器(ピアノ、ハープ)
ピアノでは一つの鍵キーが減衰する性質上、スラーは演奏上のレガート(指使いやペダル)を使って音をつなぐことを指示します。同じ指で弾き続けること、指替えを工夫すること、またペダルを効果的に用いることでスラーの効果を実現します。ハープやチェレスタ等でも同様に技術的手段でスラーを表現します。
歴史的変遷と時代による解釈の違い
スラーの概念と表記法は時代とともに変化してきました。バロック期には反復句や装飾の指定として異なる意味合いで用いられることがあり、古典派以降、より明確にフレーズと連続性を示す記号として定着しました。ロマン派では感情表現の強調手段となり、作曲家ごとにスラーの使い方が個性的になりました。20世紀以降の現代音楽では、スラーが従来の「レガート」以外の演奏技法(例えばグリッサンドや特殊奏法の範囲指定)を示す場合もあり、記譜解釈に細心の注意が必要です。
編集や校訂における注意点
楽譜の版によっては、編者がスラーを補ったり取り除いたりすることがあります。原典(オリジナルの自筆譜や初版)と現代版でスラーが異なることがあるため、演奏者はできれば原典資料に当たって作曲家の意図を確認するべきです。特に古典派やバロックの作品では、近年の演奏慣行と原典の指示が異なることが多く、表現上の選択肢を増やすために歴史的調査が有効です。
実践的な練習法と解釈のヒント
- 小節内の短いスラーから練習を始め、弓使いや呼吸、指替えの安定を図る。
- フレーズの始まりと終わりで音量や色合いをコントロールして、スラーの内側に小さな「文」を作る。
- 長いスラーは呼吸の計画を立て、可能な限りレガートを維持しつつ自然な呼吸点を見つける。
- ピアノでは指替えとペダルのタイミングを組み合わせてスラーを作る。機械的なつなぎは避け、音楽的なラインを優先する。
- 曲の様式(バロック、古典派、ロマン派、現代)を踏まえ、スラーの意味合いをスタイルごとに変えて解釈する。
現代音楽における拡張と表記上のバリエーション
現代作曲家はスラーを伝統的な意味だけでなく、特殊奏法の範囲指定や可変的な表現の示唆として用いることがあります。例えば、電子音や拡張奏法の開始・終了を示したり、演奏者にある種の自由を与える「継続線」として機能させることがあります。そのため、現代譜ではスラーの解釈に加え、補足説明(演奏指示)が注記されている場合が多く、楽譜上の指示を忠実に読み取ることが重要です。
よくある誤解とFAQ
- スラーは常に完全な無音切れなしの接続を意味するか?:必ずしもそうではありません。楽器やフレーズの性質上、微小な区切りを入れることが音楽的に有効な場合もあります。
- フレーズマークとスラーは同義か?:見た目は似ていても、フレーズマークはより広い呼吸や文節を示し、スラーは技術的なアーティキュレーション指示として用いられることが多いです。
- スラーはどこまで遵守すべきか?:基本は作曲者の意図に従うことですが、演奏の実際的制約(呼吸、弓の長さ、指使い)により調整が必要です。
まとめ
スラーは楽譜上で最も基本的かつ重要な表現記号の一つで、単なる「音をつなぐ線」以上の意味を持ちます。楽器や時代、作品ごとのコンテクストを理解し、技術的手段と音楽的判断を組み合わせて解釈することが演奏における鍵です。楽譜に示されたスラーを鵜呑みにするのではなく、原典や演奏慣行、作曲家のスタイルを参照して自分なりの説得力あるフレーズ作りを目指しましょう。
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参考文献
- Slur (music) — Wikipedia
- Tie (music) — Wikipedia
- IMSLP: Glossary of music terms
- Dolmetsch Online - Musical Terms and Definitions
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