「dim.」とは何か:記譜と演奏で深掘りするディミヌエンドの技法と実践
dim.(ディミヌエンド)の定義と基本的な使い方
「dim.」はイタリア語の diminuendo の略で、音楽記号として「だんだん弱く(音量を減らす)」ことを指示します。英語では dim. または diminuendo、decrescendo(decresc.)と同義に使われることが多く、楽譜上では単語として書かれる場合と、開いた山形/逆山形の記号(いわゆる< と >の形の毛筆的記号、ここでは「ヘアピン」と呼ぶ)で表される場合があります。一般に指示どおり徐々に音量を下げることが目的ですが、その程度・速度・表現的な意味合いは文脈や作曲家の意図、演奏慣習によってかなり異なります。
dim. と decresc. の違い(概念と実務)
学術的には dim.(diminuendo)と decresc.(decrescendo)は同義語として扱われることが多いです。どちらも「だんだん弱く」を意味しますが、楽譜上の慣例・ニュアンスとして次のような細かな違いを演奏家は意識します。
- 表記上の好み:古典・ロマン派などでは作曲家や出版社の好みでどちらか一方が用いられることがある。
- ニュアンスの差:一部の演奏家は dim. を「より微細で音色の変化を含む減衰」、decresc. を「音量の単純な減少」として解釈することがあるが、これは厳密なルールではない。
- 長さの指示:poco a poco(少しずつ)や molto(大いに)などの修飾語が付くことで、減衰の速度や量が明示される。
ヘアピン(記号)と単語指示の使い分け
楽譜では文字表記(dim. / decresc.)とヘアピン記号が併用されることがあります。一般的な実務的区別は以下の通りです。
- ヘアピン:視覚的に即効性があり、短いフレーズや瞬間的なダイナミクス変化に使われることが多い。短い時間での変化量の指示に向く。
- 文字(dim. 等):長いフレーズや全体的な表情変化を指示する際に用いられ、演奏者に持続的な音量管理を促す。
両者が併用された場合、文字は総体的な方向性(“このフレーズ全体を弱める”)、ヘアピンはその中の具体的な減衰の形(“この部分で弱くする”)を示すと解釈できます。
類似指示との比較:smorz., morendo, calando など
dim. と似たニュアンスを持つ表記に smorzando(スモルツァンド、衰弱するように)、morendo(モレンド、死にゆくように)、calando(カランド、弱くかつ遅く)があります。これらは単に音量を下げるだけでなく、テンポや音色、フレージングの変化を含意する場合が多い点で dim. と異なります。
- smorzando:音色の消失感や余韻を抑える方向での弱化、しばしばテンポの減少も伴う。
- morendo:表情的に「消えていく」ことを強調する、感情的な終焉を示す。
- calando:弱くなる(diminuendo)と同時にテンポが落ちることを示唆する。
作曲史的観点:どの時代にどのように使われたか
バロック期の楽譜には細かなダイナミクス指示が少なく、演奏慣習に委ねられていました。古典派〜ロマン派にかけては作曲家がより具体的にダイナミクス指示を残すようになり、dim. や decresc. の使用頻度が増しました。20世紀以降は記譜の細密化が進み、作曲家はヘアピンや語句、さらにはメトロノーム的指示や音色の細かな指定を併用して表現を作り込む傾向があります。
演奏における実践的ポイント(楽器別)
dim. を表現するには楽器ごとの技術的アプローチが重要です。以下に代表的な楽器ごとの注意点を挙げます。
- 声楽:呼吸の管理とフォルマント(声色)の維持。音量を落とす際に喉や口の形を変えすぎないことが重要。語尾を柔らかく、母音の形を保ちながら減衰する。
- 弦楽器:ボウイングの長さと圧力、弓速の調整。減衰させる際には弓の弦上位置(指板寄り・橋寄り)を変えることで音色を整える。ビブラートを徐々に薄くすることで自然な弱化が得られる。
- 管楽器:息圧とアンブシュア(口の形)の微調整。息量を絞ると同時に音程と音色の安定を保つ訓練が必要。
- ピアノ:鍵盤楽器は減衰を直接コントロールしにくいが、タッチの変化(重心の移動や指の接触面積の調整)、ペダリングで響きをコントロールすることで表現する。連打的な和音では指の重みを減らす練習が有効。
- 打楽器:多くは音量を即座に変えにくいが、スティックのタッチや打つ場所、ミュート(タンポや手で)を使った表現で弱化を行う。
レパートリーでの実例的解釈(一般論)
作曲家や時代、作品の性格によって dim. の解釈は変わります。例えば、歌ものの緩徐楽章では歌詞の意味と連動して微妙な dim. が付されることが多く、器楽曲のクライマックス直後の dim. は次のセクションへ向けたエネルギーの削ぎ方を意図することがあります。現代音楽では対位法的・テクスチャ的な消失を意味することもあり、単なる「音量低下」以上の意味を持ちます。
表現上の注意点:意味のある減衰を作るには
単に音量を下げるだけではなく、「何を残すか」を意識することが表現の鍵です。次の点を意識してください。
- フレーズの線(メロディー)を保つ:主要声部が弱まっても音楽的な線が途切れないようにする。
- 音色の変化を設計する:ビブラートの幅、アタックの性質、倍音成分のコントロールなどで「色」を落としていく。
- テンポとの関係:dim. がテンポ減速を含意する場合(calando、smorzando など)と含意しない場合を理解する。
練習方法とエクササイズ
具体的な練習法:
- ロングトーン:一定の音を長く出し、メトロノームでテンポを固定して音量を一定時間で均等に下げる練習。
- スケール・アルペッジョでの dim.:上昇・下降の両方向で段階的に音量を下げる。パートに合わせて和声の中でのバランスを意識する。
- 録音して客観評価:自分の演奏を録音して、音量カーブが意図どおりか(滑らかさ、最終的な音量の位置)を分析する。
楽譜作成や編曲時の記譜上の指針
編曲者・作曲家が dim. を記譜する際の実践的なガイドライン:
- 長い減衰は文字で(dim.、poco a poco dim.)示す。短く明確な変化はヘアピンで示す。
- 速度や音色の変化を伴う場合は calando や smorzando など、より具体的な語を併用する。
- オーケストレーション上、セクションごとの減衰の指示を明確にし、複数パートが同時に減衰する場合はどのパートが主要かを示す。
よくある誤解と間違い
演奏現場で見られる代表的な誤解:
- dim. を単に音を小さくする命令とだけ受け取ること。表現や音色の変化を含めて考えるべき。
- ヘアピンの方向を読み違えること。ヘアピンは開いている方向が増大(クレッシェンド)、閉じていく方向が減衰(ディミヌエンド)である点を確認する。
- dim. と smorz. 等を混同してテンポ操作を誤ること。指示語の意味を正確に理解する必要がある。
まとめ:dim. を音楽的に生かすには
dim. は単なる音量指示ではなく、音楽の呼吸やフレーズの輪郭、聴衆に与える心理的効果をデザインするための重要な手段です。技術的には楽器ごとの息・弓・指使い・タッチを微細にコントロールする訓練が不可欠で、解釈面では作曲家の時代背景や楽曲の文脈、近接する表記(poco a poco、calando など)を総合して判断することが求められます。録音やマーカー付きの練習、仲間とのアンサンブルでの相互確認を繰り返すことで、より説得力のある dim. 表現が身につきます。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Diminuendo - Wikipedia
- Decrescendo - Wikipedia
- Dynamics (music) - Britannica
- IMSLP: Petrucci Music Library (楽譜と用語の実例参照)


