Casioの音楽革命:シンセからホームキーボードまでの歴史と影響
Casioと音楽機器の概要
Casio(カシオ)は、時計や電卓で知られる日本の総合電子機器メーカーですが、楽器分野でも独自の地位を築いてきました。1946年に樫尾忠雄(かしお ただお)らが創業した企業は、1960年代以降の電子技術の発展を背景に、低価格で小型の電子楽器を市場に投入し、多くのミュージシャンや一般ユーザーに“音を作る・楽しむ”機会を提供しました。本コラムでは、Casioの楽器史、技術的な特徴、文化的影響、現代における位置づけまでを詳しく掘り下げます。
創業から楽器参入までの経緯
Casioは1946年に創業、1950年代に電子計算機(電卓)で名を馳せました。企業としての強みである集積回路・低コスト生産技術は、やがて音響機器・電子楽器への応用へとつながります。1970年代末から1980年代にかけて、マイクロプロセッサやデジタル回路の普及により、小型・低価格な電子鍵盤楽器が実現可能になり、Casioは家庭向け電子楽器市場に本格参入しました。
初期の名機:VL-Tone(VL-1)とCasiotoneシリーズ
Casioの楽器史において象徴的なモデルの一つがVL-Tone(VL-1)です。計算機機能とミニシンセ機能を融合させたこの楽器は、手頃なサイズと価格で登場し、家庭やアマチュアの間で広く受け入れられました。同様に「Casiotone」ブランドで展開されたキーボード群は、簡単に演奏できるプリセット音色やリズムパターンを搭載し、音楽入門機として普及しました。これらは“誰でも音を鳴らせる”という理念を体現し、音楽の敷居を下げた点で大きな意義があります。
プリセット文化とMT-40がもたらした衝撃
Casioのプリセットリズムやベースパターンは、一見ただの家庭向け機能に見えますが、思わぬかたちでプロの音楽制作にも影響を与えました。代表例がCasio MT-40に搭載されたプリセットのひとつで、1980年代半ばのダンスホール/レゲエの名曲「Under Mi Sleng Teng」に起用されたケースです。このプリセットがベースラインの核となり、デジタルリズム黎明期の音楽制作に大きな刺激を与えたことは、低価格楽器がプロの創造性を触発する好例として語り継がれています。
技術革新:位相歪み(Phase Distortion)とCZシリーズ
Casioは単に安価な楽器を作るだけでなく、独自の音源技術も開発しました。1980年代に登場したCZシリーズ(CZ-101など)は、Casio独自の位相歪み(Phase Distortion)合成を採用し、デジタルシンセの表現力を拡張しました。位相歪みはFM合成とは異なるアプローチで倍音生成を行い、当時の機材としては独特のサウンドキャラクターを持っていました。CZシリーズは比較的手頃な価格帯でありながら、独自の音色でポップスやダンスミュージックの現場に浸透しました。
サンプリングの普及とSKシリーズ
1980年代後半になると、サンプリング機能を備えた小型キーボードも登場しました。CasioのSK-1などのサンプリングキーボードは、簡易ながら実用的なサンプリング機能を搭載し、ユーザーが自分の声や環境音を取り込んで演奏に使える点が魅力でした。こうした機材は、ホームレコーディングや実験的な音楽制作の入り口として重要な役割を果たしました。
デジタルピアノ市場への展開(Privia / Celvianoなど)
Casioは1990年代以降、ホームキーボードに加えて本格派のデジタルピアノにも注力しました。Privia(プライビア)やCelviano(セルヴィアーノ)といったラインは、アコースティックピアノの鍵盤・音源表現を目指しつつ、比較的手ごろな価格帯で提供され、ピアノ学習者や家庭用需要を取り込みました。これによりCasioは多様なユーザー層に対応する楽器メーカーとしてのポジションを強化しました。
Casioが音楽文化に与えた影響
- 民主化:低価格で手に入る電子楽器を普及させ、多くの人に音楽制作の機会を提供した。
- ジャンル横断的影響:家庭用プリセットがプロの制作に流用されるなど、意図せぬ創造的転用が起きた(例:MT-40とスレングテン)。
- DIY精神と実験:小型・簡易な機材がインディー、エレクトロニカ、チップチューン、Lo-fiなどの表現世界を育てた。
- 教育分野での普及:簡易キーボードは学校教育や音楽入門の現場で重宝され、次世代の音楽家を育てる一助となった。
現代でのCasio──ニッチと大量市場の両立
近年のCasioは、初心者向けの鍵盤からコンシューマー向けデジタルピアノ、さらにはコラボレーションモデルや復刻版の一部再生産など、幅広いラインナップを維持しています。廉価であることの意義を残しつつ、設計品質や鍵盤タッチの向上、サウンドエンジンの改良を進め、教育用途やライブ用途にも耐えうる製品を提供しています。また、レトロ機器への再評価もあり、初期のVL-ToneやSKシリーズはコレクターやアーティストに再び注目されています。
演奏・制作の現場での実用的な視点
Casio製品を制作やライブに取り入れる際のポイントは以下の通りです。
- プリセット依存の危険と利点:簡単に使える反面、既製のサウンドに頼りすぎるとオリジナリティが損なわれる。逆にプリセットを意図的に加工することで独自性を出すこともできる。
- 改造・サンプリング:SK-1のような機材はサンプリングやエフェクトで表情を広げやすく、実験的なサウンド作りに向く。
- 耐久性とサポート:廉価機は長期使用の耐久性やサポート体制を考慮する必要がある。近年はデジタルピアノ系で品質向上が進んでいる。
中古市場とレトロ愛好家の動向
初期のCasioキーボードやポータブルシンセは近年ヴィンテージ市場で再評価されています。独特のデジタルノイズ、プリセット音色、手軽さが逆に魅力となり、サンプラーやモジュラーとの組み合わせで現代音楽に新たな命を吹き込むケースが増えています。こうした現象は“安価だったからこそ生まれた文化が再び価値を持つ”という興味深い循環を示しています。
まとめ:Casioが残したもの
Casioは「高機能・高価格」ではなく、「機能の最適化と低価格化」を通して多数の人々に音楽体験を提供してきました。その結果、音楽制作の敷居が下がり、ジャンルや世代を超えた創造の芽が多く生まれました。技術的には位相歪み合成など独自のアプローチも導入し、単なる“安価な楽器”以上の価値を示してきました。現在もCasioは多層的な製品ラインで、家庭音楽からプロのフィールドまで幅広く寄与しています。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Casio(公式サイト)
- Casio - Wikipedia
- VL-Tone - Wikipedia
- Casio MT-40 - Wikipedia
- Sleng Teng - Wikipedia
- Casio CZ series - Wikipedia
- Casio SK-1 - Wikipedia


