Varimax法とは?因子分析での回転手法を徹底解説 — IT・データサイエンス向け実践ガイド

はじめに

Varimax(バリマックス)法は、因子分析における最も広く使われている直交回転(orthogonal rotation)手法の一つです。主に多変量データの潜在構造の解釈を容易にするために用いられ、各因子に対して少数の大きな負荷量と多くの小さな負荷量を持たせることを目的とします。本コラムでは、数学的な定式化、アルゴリズム、実装上の注意点、他の回転法との比較、IT・データサイエンスの現場での活用例まで詳しく解説します。

因子分析と回転の目的

因子分析の基本的な流れは、共分散(または相関)行列から潜在因子を抽出し、各観測変数が因子にどの程度寄与しているかを示す因子負荷量(factor loadings)を得ることです。抽出直後の因子負荷量は数学的には正当ですが、解釈が難しい場合があります。そこで回転を行い、負荷行列の形状を調整して解釈しやすくします。

  • 直交回転(例:Varimax): 因子間の直交性(相関が0)を保つ。
  • 斜交回転(例:Promax, Oblimin): 因子間の相関を許容する。

Varimax法の基本原理

Varimax法は、各因子の負荷量の分散を最大化することを目的とする回転です。具体的には、各因子について負荷量の二乗和が特定のパターン(スパースな分布)になるように回転行列を探します。結果として、ある変数は特定の因子に強く寄与し、他の因子にはほとんど寄与しない、という「単純構造(simple structure)」が得られやすくなります。

目的関数(数式)

Varimaxの目的関数は以下のように書かれます(Kaiser, 1958)。ここで a_{ij} は i 番目の変数に対する j 番目の因子の負荷量、p は変数数、m は因子数です。

V = \sum_{j=1}^{m} \left[ \frac{1}{p} \sum_{i=1}^{p} a_{ij}^4 - \left( \frac{1}{p} \sum_{i=1}^{p} a_{ij}^2 \right)^2 \right]

この目的関数を回転行列を用いて最大化することで、各因子の負荷量分布の尖度が高まり、解釈がしやすくなります。数式的には固有値分解や直交行列の最適化問題として扱われます。

アルゴリズムの流れ(実装概略)

  • 1. 初期負荷行列を取得(主成分分析や因子抽出法で得る)。
  • 2. 初期回転行列を単位行列に設定。
  • 3. 目的関数Vを改善するように回転行列を更新(Givens回転や勾配法を用いる実装が多い)。
  • 4. 収束判定(Vの変化が閾値以下、または回転行列の変化が十分小さい)に達したら終了。

実装によっては、逐次的に成分ペアごとに最適なGivens回転角を求めて適用する方法が使われます。これにより数値的に安定した計算が可能です。

Varimaxと他の回転法との比較

  • Varimax(直交): 因子間相関をゼロに保ちたい場合に適切。解釈のしやすさが向上するが、現実のデータでは因子が相関することもあるため常に最良とは限らない。
  • Promax(斜交): Varimaxなどで得た解をさらに斜交させる高速近似法。因子間相関を許容することでより現実的な構造を表現できる。
  • Oblimin(斜交): 斜交回転の一つで、相関の度合いを制御するパラメータがある。

実務での使い方(IT・データサイエンス視点)

ITやデータサイエンスの現場では、Varimaxは次のような場面で有用です。

  • アンケート分析: 質問項目をグループ化して潜在的な因子(例:顧客満足の側面)を抽出する。
  • 次元圧縮の解釈: PCAや因子分析で得た成分を解釈しやすくするための後処理。
  • 特徴選択・特徴変換の補助: 変数のクラスタリングや特徴重要度の把握に役立つ。

実装のポイントとコード参照

主な統計ソフト・ライブラリでVarimaxは実装済みです。例えば R の psych パッケージや stats パッケージ、Python の factor_analyzer パッケージや scikit-learn の後処理で回転を行うことができます。実装上は以下に注意してください。

  • データの標準化: 相関行列を使う場合は標準化が前提となることが多い。
  • 因子数の決定: スクリープロット、固有値>1ルール、並べ替え法(parallel analysis)などを併用する。
  • 回転の初期値: 初期負荷行列によって局所解に陥る可能性があるため複数初期化で安定性を確認する。

解釈と可視化

Varimax後の負荷行列は、ヒートマップや棒グラフで可視化すると解釈しやすくなります。負荷量の絶対値が大きい(例えば|loading|>0.4や0.5)変数をその因子の代表として扱い、因子にラベルを付けます。因子の命名は統計的判断だけでなく領域知識(domain knowledge)を組み合わせることが重要です。

注意点と落とし穴

  • 因子数の誤指定: 過少または過多に設定すると回転結果が誤解を招く。
  • サンプルサイズ: 因子分析は十分なサンプル数が必要。一般に変数数の5〜10倍以上のサンプルを推奨する文献が多い。
  • 回転の適合性: Varimaxは因子非相関を前提とするため、実際に因子が相関する場合は斜交回転の方が適切。
  • 再現性: 回転は多くの実装で決定的だが、初期値やアルゴリズムにより微妙に結果が変わる場合があるため報告に注意。

実務例:ユーザー行動ログの因子分析

例として、Webアプリのユーザー行動ログ(ページ閲覧数、機能利用回数、セッション長など)に因子分析を施し、Varimax回転を行うと次のような利点があります。複数の指標が「エンゲージメント」や「探索行動」といった潜在因子にまとまり、プロダクト改善の焦点を明確化できます。結果をダッシュボードで可視化して関係者に提示すると意思決定が早くなります。

まとめ

Varimax法は、因子分析における解釈性向上のための強力な手段です。直交回転として因子の独立性を保ちながら、各因子における負荷量の分散を最大化することで単純構造を実現します。ただし、因子数の選定やデータの特性(因子の相関など)を無視すると誤った解釈につながることがあるため、並列分析や斜交回転との比較を行うことが望ましいです。IT・データサイエンス分野では、アンケート分析やユーザー行動解析、特徴理解の補助として活用できます。

参考文献