テヌート(tenuto)とは何か:記譜・奏法・楽器別表現を深掘りする完全ガイド
テヌート(tenuto)とは—語源と基本的意味
テヌート(イタリア語: tenuto)は、音楽における表情記号の一つで、語源はイタリア語の「tenere(保持する、保つ)」に由来します。楽譜上では横棒(音符の上または下に引かれる短い横線)や "ten." というテキストで表され、基本的には「音をしっかりと保つ」「音価を保って鳴らす」「軽い強調を付ける」といった意味合いを持ちます。
テヌートは、レガートやアクセント、スタッカートなどと同列に扱われる表情記号ですが、その意味合いは文脈・時代・作曲家、および演奏する楽器によって細かく変化します。以下で、記譜上の表現、奏法の具体例、歴史的背景、実践的な練習法までを詳しく見ていきます。
記譜上のバリエーションと意味の違い
横棒(―):もっとも一般的な表記。音符の上または下に短い線が引かれ、音をその音価いっぱいに保つ、もしくはやや長めに、あるいは小さな強調を伴って演奏する指示になります。
文字表記(ten. / tenuto):印刷譜や現代の楽譜でよく使われ、同じく保持や軽い強調を伝えます。特にテキスト形は装飾的・明示的な指示として用いられることが多いです。
点と組み合わせた表記:横棒とスタッカート点を組み合わせた表記(あるいはスタッカート点に横棒が添えられる)は、ポルタート(portato、あるいは mezzo-staccato)と解釈されることがあります。この場合は、完全な連続音(レガート)でもなく、完全な分離(スタッカート)でもない、やや分離された保持感を持つ発音が求められます。
文脈依存性:同じテヌート記号でも古典派の楽譜とロマン派以降の楽譜では求められるニュアンスが異なることがあります。作曲家や演奏慣習を考慮して解釈することが重要です。
各楽器でのテヌートの具体的奏法
ピアノ
ピアノにおけるテヌートは、音を音価いっぱいに「保持する」ことを意味することが多く、鍵盤に対する適切な指の重さ(鍵盤の沈み込み)と静的な支えが重要です。ペダルを使うかどうかは文脈次第で、しばしばペダルを使わずに指のコントロールだけで音を保つ練習が推奨されます。スタッカート点と組み合わされた場合は、鍵盤に対する短い接触時間を保ちつつ重心を残すようなタッチが求められます。
弦楽器(ヴァイオリン、チェロ等)
弓の使い方(弓の速さ・圧力・当てる位置)がテヌート表現の鍵となります。テヌートはしばしば弓圧をやや強めにして音を長く保ち、音色を豊かにするために指板寄りや駒寄りの位置を調整します。ポルタート的な効果が指示されている場合は、短い分割を感じさせるように弓を小さく区切るが、音価を損なわないようにするのが特徴です。
木管・金管
管楽器では、息の支え(呼吸の管理)とアンブシュア(唇や口の形)の微調整が重要です。テヌートはやや長めに音を伸ばす指示となるため、十分な支えで音を保ち、舌の関与を抑えて滑らかに発音するのが一般的です。金管ではマウスピースへの圧力や息量調整で色合いを変えます。
声楽
声楽においては、テヌートは息の支え、喉と横隔膜のコントロール、そして呼気の均等な流れによって実現されます。フレージングの文脈でテヌートがある場合、語尾での切れ目を作らずに音を完全に持続させるか、軽いアクセントでその音を際立たせることが多いです。
レパートリーと演奏上の解釈例
クラシックの各時代でテヌートの扱い方は変わります。古典派(モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン初期)では「音価を保ちつつ自然に通す」ことが多く、ロマン派以降(ショパン、シューマン、マーラーなど)では表情的な重みを加えるためにやや強めのウエイトとして用いられることが多いです。
また、編曲や音楽様式によっては編曲者や校訂者がテヌート記号を追加していることもあるため、原典版と校訂版を比較して解釈の違いを把握する作業が推奨されます。
テヌートとポルタート、スタッカートの関係
テヌート、ポルタート、スタッカートはしばしば混同されますが、次のように区別できます。
テヌート:音を保持する。軽い強調やフレーズ内での存在感の強化。
スタッカート:音を短く切る。明確な分離。
ポルタート(mezzo-staccato):テヌートとスタッカートの中間。点と横線の組み合わせやスラーに点がある表記で示されることが多く、柔らかく区切られた連続感を作る。
特に楽譜上で横棒と点が併用される場合、その意味を演奏者が決める際には時代・作曲家・奏者の慣習が強く影響します。
歴史的背景と文献での扱い
テヌートという言葉自体はイタリア語表記に由来し、バロック後期から増えてきた表現指示の一つです。歴史的演奏慣習を論じる文献(18世紀から19世紀の奏法書や現代の演奏解釈書)では、しばしば「tenere(保持する)」や「peso(重み)」と関連付けて論じられています。鍵盤奏法に関する古典的文献(たとえばC.P.E.バッハの鍵盤奏法論)では、音の重さや持続についての議論が見られ、これらは今日のテヌート解釈に示唆を与えます。
実践的な練習法(ピアノ中心の例を含む)
テヌートを確実に表現するための練習方法をいくつか紹介します。どの楽器でも基本は「持続する感覚」と「微妙な強調のコントロール」です。
スケール練習で各音にテヌートを付ける:一定のテンポでスケールを弾き、各音を音価いっぱいに保持して音色の均一性を確認する。
強弱を付けたテヌート:弱音(pp)から強音(ff)まで各音にテヌートをつけ、どのダイナミクスでも保持ができるようにする。
点と横棒の組合せを試す:ポルタート的な効果を出す練習。短く区切りつつも音価を意識して保つ。
フレーズを歌う感覚を持つ:声でメロディーを歌い、その呼吸感を楽器に移してテヌートの自然な持続をつくる。
編曲者・校訂者への注意点
編曲や校訂によってテヌート記号が付け加えられている場合があります。原典主義的な演奏者は原典版を優先して確認することが望ましいですが、校訂者の意図も演奏解釈のヒントになります。特にロマン派以降の作品では、編集者の表情付けが音楽的に有用である場合が多いので、どちらの版が自分の解釈に合うか検討することが重要です。
よくある誤解とその是正
「テヌート=長く引き伸ばす」だけ、という誤解:テヌートは単なる音価の延長だけではなく、音の重み・存在感・微妙な発音の仕方も含みます。
「記号はいつも同じ意味」ではない:時代・作曲家・楽器によりニュアンスが変わるため、常に楽曲と版を参照して解釈する必要があります。
まとめ:テヌートを活かすためのポイント
テヌートは一見シンプルな記号ですが、演奏表現において非常に重要な役割を果たします。鍵となるポイントは次の通りです。
語源どおり「保持(tenere)」の感覚を持つこと。
文脈(時代・作曲家・楽器)に応じて柔軟に解釈すること。
身体的な技術(息・弓・指・アンブシュア)を用いて微妙な重みや持続を実現すること。
ポルタートやスタッカートとの違いを理解し、記譜の細部を正確に読むこと。
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参考文献
- Tenuto - Wikipedia (English)
- Portato - IMSLP
- C.P.E. Bach: Essay on the True Art of Playing Keyboard Instruments - IMSLP
- Oxford Music Online (Grove Music) - 検索ページ
- Tenuto - musictheory.net(参考教材・ツール)


