ソステヌートペダル完全ガイド:仕組み・歴史・実践的な使い方と調律上の注意点
ソステヌートペダルとは何か — 概要と基本的な機能
ソステヌートペダル(sostenuto pedal)は、ピアノの三本のペダルのうち通常は中央に位置するペダルで、押された瞬間にダンパー(消音フェルト)を持ち上げた状態で固定することにより、「ペダルを押した時点で押されている音だけ」を持続させる機能を持ちます。右側のダンパーペダル(サステイン、シュタットペダル)が鍵盤を離しても全ての音を持続させるのに対し、ソステヌートは任意の音だけを選んで持続できるため、和声の重なりや内声の保持、対位法的なラインの分離など、より繊細で高度なペダル操作を可能にします。
歴史的背景 — いつ、どのように生まれたか
ソステヌートの概念自体は19世紀に出現し、現在のような中間ペダルの仕組みは19世紀後半に実用化されました。現代ピアノの三本ペダルの体系はこの時期に整い、Steinway & Sons は1870年代に中間ペダル機構を含む改良を行い、ソステヌート(sostenuto)という名称を広めたことでも知られています。各メーカーは独自の機構を開発し、特にグランドピアノでは実用的なソステヌートが標準装備される一方で、アップライトピアノでは中間ペダルが『ミュート』や『ベースサスティン』といった別機能を持つことが多く、メーカーや機種によって挙動が大きく異なります。
機構の詳しい説明 — どうやって“特定の音だけ”を保持するのか
ソステヌート機構は基本的にダンパーの動きを機械的に「保持」するためのラッチまたはサポートバーを用います。一般的な動作手順は次の通りです。
- まず保持したい音(鍵)を押さえたままにします。
- その状態でソステヌートペダルを踏むと、対応するダンパーの下にある小さなフックやパレットが作動してダンパーを物理的に支え、鍵を離してもダンパーが下りずに弦が振動し続けます。
- ペダルを離すか、演奏を終えた後にペダルの解除操作を行うと、ラッチが外れてダンパーは通常の位置に戻ります。
簡潔に言えば、ソステヌートは「押されている鍵に対応するダンパーだけを保持するための機械装置」であり、そのためペダルを踏むタイミングが非常に重要です。踏む前に鍵を離してしまうと保持されず、逆に踏んだ後に新たに鳴らした音は保持されません(新たな音は通常どおりダンパーが戻ります)。
実践的な使い方 — 演奏テクニックと表現の拡張
ソステヌートペダルは以下のような音楽的効果やテクニックで用いられます。
- 低音や内声を継続させながら上声部でクリアなフレージングを行うことにより、和声の色彩を保ちながら対旋律を歌わせる。
- 反復音やオスティナート(持続する低音)を長時間保持しつつ、その上で細かい音形を自由に弾く。
- オーケストラ的な効果を狙い、ある声部だけを持続することで音響の層を明確にする。
実際の使用に当たっては、次のような注意点とコツがあります。
- ペダルを踏むタイミングは「保持したい鍵を押したまま」の瞬間のみ有効。鍵を先に離してペダルを踏んでも機能しない。
- ソステヌートを使った表現は音の輪郭を整えるため、サステインペダルと併用する場合はどちらがどの声部を支えているかを明確に意識すること。
- 譜面上で指示がない場合でも、和声の変化やポリフォニーの流れに応じて積極的に利用すると新たな響きが得られる。
楽譜と記譜 — 作曲者や編集者の表記に注意
作曲家がソステヌートの使用を明示する場合、楽譜上に "sost. pedal" や単に "sost." と記されることがありますが、現代の校訂や編曲では単に記号や注釈で指示される例もあります。さらに、楽譜のエディションや出版社によってはソステヌートを想定していない(あるいは使用できないピアノを想定している)場合があるため、演奏前に楽器のペダル配置と楽譜の意図を照らし合わせることが重要です。
グランドピアノとアップライト、電子ピアノの違い
ソステヌートの実装は楽器の種類で大きく異なります。グランドピアノでは完全なソステヌート機構が搭載されるのが一般的で、任意の音のみをしっかりと保持できます。一方、アップライトピアノの中間ペダルはメーカーやモデルによって次のいずれかの機能を持つことが多いです。
- 完全なソステヌート機能(まれ)
- ミュート(プラクティス)機構:フェルトが弦の前に挿入され音量を小さくする
- ベースサスティン:低音域のダンパーだけを保持する仕様
電子ピアノやデジタルピアノでは、ソフトウェア的にソステヌート機能をエミュレートするものが増えています。多くは専用の中間ペダル端子やソフトウェア設定で、踏んだ時点の音だけを持続させるエフェクトを再現しますが、アコースティックと同じ微妙な挙動(ダンパーの物理的なラッチ感や微妙な放音の差)はモデルによって異なります。
調律・整調上のポイントとトラブルシューティング
ソステヌート機構は精密な部品を含むため、時間の経過や湿度変化、摩耗により動作不良を起こすことがあります。主な問題と対処法は以下の通りです。
- ラッチがかからない/外れてしまう:位置調整や摩耗、ラッチのバネの不具合が考えられるためピアノ技術者による点検が必要。
- 解除されない(常にダンパーが上がる):ラッチ機構の破損やバランス不良。無理に力を加えず専門家に依頼する。
- アップライトの中間ペダルで期待する動作が出ない:そのモデルがソステヌート機能を持たない可能性があるため、仕様確認を行う。
日常的には、ペダル周りを清掃し過度なほこりやゴミを避け、必要に応じて整調・整音の際に技術者にソステヌート動作の点検を依頼すると安心です。
教育・練習での取り入れ方 — ピアノ教師と学生への提案
学習段階での導入は段階的に行うと効果的です。初めはソステヌートの基本的な操作(鍵を押したまま踏む・解除する)を反復し、次に簡単なオスティナートや低音の保持を取り入れた課題曲を用いて、耳で持続音の変化を確認させます。中級以上では、和声進行の中でどの声部を持続させると響きが良くなるかを分析するトレーニングが有効です。
よくある誤解とその正しい理解
誤解1:ソステヌートは "部分的なサステイン" であるが万能ではない — 新たに弾いた音は保持されず、持続する音はペダルを踏んだ瞬間に押されていたものだけ。誤解2:全てのピアノに同じように付いている — アップライトでは機能が異なることが多い。誤解3:右ペダル(ダンパーペダル)と併用すれば同じ効果が簡単に得られる — 両者は役割が異なり、併用すると音がぼやけることがあるため使い分けが必要です。
まとめ — ソステヌートを使いこなすために
ソステヌートペダルは、正しく理解・調整されればピアニスティックな表現力を大きく広げる道具です。歴史的には19世紀後半に実用化され、その後の楽器設計と演奏表現に影響を与えてきました。演奏に取り入れる際は機構の仕組みを理解し、楽器の種類や状態を確認した上で練習を重ねることが重要です。また、譜面上の指示を鵜呑みにするのではなく、使用するピアノの特性に応じて柔軟に判断することが、豊かな響きを得るための鍵になります。
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参考文献
- Wikipedia(日本語):ソステヌートペダル
- Encyclopaedia Britannica:Sostenuto pedal
- Steinway & Sons:Piano pedals(解説ページ)
- Yamaha(ピアノに関する技術情報・製品情報)


