ソフトペダル(ウナ・コルダ)徹底解説:仕組み・歴史・演奏法と音楽表現への応用ガイド
ソフトペダル(ウナ・コルダ)とは
ソフトペダルはピアノの左側にあるペダルで、イタリア語では「una corda(ウナ・コルダ、1本の弦)」と呼ばれます。演奏時にこのペダルを踏むことでハンマーの位置や打弦の条件が変化し、音量だけでなく音色やアタック感も変わります。クラシックから現代音楽まで幅広く用いられ、繊細な表現や室内楽的な響きを作り出す重要な手段です。
仕組みと種類:グランドピアノとアップライトの違い
ソフトペダルの仕組みはピアノの形式によって異なります。
- グランドピアノ(横型):アクション全体が横方向に数ミリ移動し、ハンマーが弦の位置に対して横ずれして打弦します。現代の多くの大型グランドでは、3本の弦を持つ音域でペダルを踏むとハンマーは3本のうち2本あたりを打つようにずれ、さらに踏み込むとより顕著なずれになります。歴史的には古いピアノでは本当に1本だけを打った機種もあり、それが「una corda」の語源です。
- アップライトピアノ(縦型):ハンマーの側をずらすことが難しいため、代わりにハンマーと弦との間で打撃距離を短くする、もしくはハンマーと弦の間にフェルトなどの緩衝材を差し入れる構造が採られます。その結果、音量が小さくなるとともにアタックが丸くなります。アップライトにはさらに「練習(ミュート)ペダル」と呼ばれる、中間位置でフェルトを挿入して大幅に音を小さくする機構が付くことがありますが、これはソフトペダルとは機能が異なります。
音色変化の物理的説明
ソフトペダルが奏でる音色の変化は物理的にいくつかの要因で説明できます。
- ハンマーが弦を叩く位置や角度の変化により、高周波成分の含有量が減り、倍音構成が変わって「暗い」「丸い」音になる。
- 打弦までのストロークが短くなることでハンマーの速度が下がり、音圧が減少する(音量の低下)。
- 3弦のうち1〜2弦を打つと位相や振幅のバランスが変わり、立ち上がり(アタック)のエネルギー分布が変化して聴感上の距離感や温度感が変わる。
歴史的背景
フォルテピアノや初期のピアノでは、ソフト操作は膝で操作するレバーなど多様な形をとっていました。18世紀末から19世紀にかけてピアノそのものの構造が発展する中で、左ペダルによる横移動機構が標準化され、作曲家たちもこの効果を楽譜に取り入れるようになりました。20世紀以降、ピアノの標準化が進むにつれて、グランドとアップライトでの仕組みの違いを踏まえた演奏上の慣習が形成されました。
楽譜での表記と演奏記号
楽譜では一般的に「una corda」「u.c.」あるいは単に記号で示されます。ソフトペダルを解除する指示は「tre corde(トレ・コルデ、3本の弦)」や「t.c.」で示されます。英語圏では「soft pedal」表記も見られます。作曲家によってはペダルの効き具合や範囲(常に踏む、部分的に踏む、部分的な踏み込み)まで細かく指示することがあります。
演奏技術と表現への応用
ソフトペダルは単に音量を下げるだけでなく、色彩的な表現を作るための道具です。以下は実践的なポイントです。
- 最小音でのクリアさ:弱音域でソフトペダルを使うと音がこもりやすいので、指のタッチは明確さを保つ必要があります。弱いタッチでも鍵盤ニュアンスを保つために指の支えと独立性が重要です。
- 音色の階調化:メロディーだけソフトにする、伴奏だけソフトにする、というようにパートごとに使い分けることで透明感や遠近感を作れます。室内楽や歌の伴奏では特に有効です。
- ハーフ・ウナ・コルダ:グランドではペダルの踏み込みを中途に止めて微妙な横ずれを作ることで、完全なuna cordaと解除の中間の色を作ることができます。機種差が大きいためホールリハーサルで確認が必要です。
- サステインペダルとの併用:持続ペダルと組み合わせると色彩の持続が変わり、和声の輪郭が柔らかくなります。ただし和音の輪郭が濁らないよう半音以内の整理が必要です。
レパートリー別の使い方の例
作曲家や作品に応じた典型的な使い方をいくつか挙げます。
- 古典派(モーツァルト、ベートーヴェン初期):比較的控えめに、特定の場面での強調や細やかな表情のために用いる。ベートーヴェンは一部にuna cordaの指示を残しています。
- ロマン派(ショパン、シューマン):感情表現のために頻繁に用いられ、歌うような旋律線の柔らかさを作るのに有効です。
- 印象派(ドビュッシー、ラヴェル):色彩的な響きを作るために多用され、和声の曖昧さや光の効果を強調します。微妙なペダル量の差が大きな違いを生みます。
- 現代音楽:特殊効果や微妙な音色操作の一手段として、多様な踏み方や部分的操作が試みられます。
注意点と演奏上の落とし穴
ソフトペダルは便利ですが乱用や誤用で逆効果になることがあります。
- 低域での使用は和音の明瞭さを損ない、音が濁ることがある。ベースラインや低音域での輪郭が重要な箇所では慎重に。
- ピアノごとに効果が大きく異なる。小規模グランドとコンサートグランド、アップライトでは効き方が全く違うため、本番前のピアノで必ず確認する。
- ハンマーのすり減り方が偏ることがあり、ピアノの耐久性や調整に影響を与えることがある。長期的にはピアノ技術者による点検が必要です。
調整・メンテナンス上の留意点
ソフトペダルの機構はピアノのアクション調整と密接に関係します。特にグランドでは横ずれの範囲や戻り位置の調整、アップライトではフェルトの位置や機構の固着が音色に影響します。技術者による定期調整を行うこと、ソフトペダル使用時にハンマーの片寄り摩耗が発生していないか点検することが大切です。
まとめ:表現の道具としての位置づけ
ソフトペダルは単なる音量調整以上の意味を持つ表現上の重要なツールです。音色、アタック、倍音構成に変化をもたらし、楽曲や演奏者の意図によっては決定的な表現効果を生みます。機種差と曲想を踏まえた上で、繊細に使い分けることで演奏に奥行きを加えてくれます。
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参考文献
- Britannica: Piano — Pedals
- Wikipedia: Una corda
- Wikipedia: Pedal (piano)
- Wikipedia: Sostenuto pedal
- Steinway & Sons: Inside the Piano — Pedals


