RCA Victorの歴史と遺産:レコード産業を変えた技術・アーティスト・企業変遷
イントロダクション
RCA Victor(アール・シー・エー・ヴィクター)は、20世紀の録音産業と大衆文化の形成に深く関与したブランドです。蓄音機とレコードの時代から、ステレオ録音やシングル盤の標準化、そして名演奏や名唱のアーカイブ化に至るまで、RCA Victorの歩みは音楽の流通と聴取のあり方を変えてきました。本稿では、創業期の背景、主要な技術革新、代表的なアーティストと名盤、企業としての変遷、現代における遺産までを整理して紹介します。
創業とVictor Talking Machine Companyの時代(1901〜1929)
RCA Victorの源流は、Eldridge R. Johnson(エルドリッジ・R・ジョンソン)が創業したVictor Talking Machine Company(ヴィクター・トーキング・マシン・カンパニー)にあります。Victorは1900年代初頭に設立され、録音技術と蓄音機の普及に貢献しました。ブランドの象徴である犬のロゴ『His Master's Voice(HMV)』は、Francis Barraudの絵画『Nipper』に由来し、ヴィクターはこれを商標として導入・活用しました。
Victorは早くから有名歌手や演奏家の録音に注力し、エンリコ・カルーソーなどのオペラ歌手や、当時の人気演奏家による"Red Seal"(レッド・シール)シリーズで高品質のクラシック録音を世に送り出しました。これらの録音は技術的にも文化的にも重要で、後世の再評価・再発においても中心的役割を占めます。
RCAによる買収と「RCA Victor」の誕生(1929以降)
Radio Corporation of America(RCA、ラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ)は1919年に設立され、ラジオ放送・電気通信分野で成長しました。1929年、RCAはVictor Talking Machine Companyを買収し、音響機器と録音・流通の一体化を進めました。以後、レコードや蓄音機の製造・販売は『RCA Victor』ブランドのもとで行われ、RCAのラジオ・放送事業(例:NBC)との協業により、音声コンテンツの制作と流通が一層強化されました。
技術革新とフォーマット競争
RCA Victorはレコードの技術面でいくつかの重要な役割を果たしました。
- 電気録音の普及:初期の機械式録音から電気録音(マイクロフォンを用いる方式)への移行は、音質と表現力を大きく向上させました。Victor時代からの技術蓄積はRCA Victorでも活かされました。
- 45回転(45 rpm)ディスクの導入:1949年、RCAは直径7インチの45 rpmシングル盤を発表しました。これは78 rpmの時代からの小型シングル盤として普及を目指したもので、コロンビアが1948年に導入した33 1/3 rpm LP(ロングプレイ)との間で市場の規格競争が起こりました。最終的にLPはアルバム(長時間再生)を、45はシングル(短時間再生)を担う形で共存することになりました。
- ステレオ録音と"Living Stereo":1950年代後半、RCA Victorはステレオ録音シリーズ『Living Stereo』を打ち出し、クラシック録音を中心に高品質なステレオLPを多数発売しました。これにより立体的な音場表現が広まり、消費者のオーディオ装置の普及も促進されました。
代表的アーティストとカタログの価値
RCA Victorおよびその母体であるVictor時代には、クラシックからポピュラーまで多様な音源が蓄積されました。クラシック分野ではエンリコ・カルーソーやアルトゥーロ・トスカニーニ、ヤッシャ・ハイフェッツといった巨匠たちの録音が名高く、"Red Seal"レーベルは高音質録音の代名詞でした。
ポピュラー、ロックンロールの分野では、エルヴィス・プレスリーが1955年にサン・レコードからRCAへ移籍して以降、多くのヒットを生み出し、RCA Victorは大衆音楽市場で圧倒的な存在感を示しました。さらに、RCA Nashville(ナッシュビル部門)やRCA Studio Bなどの制作拠点は、カントリーやポップスのサウンド形成に寄与しました。
スタジオと制作拠点:ナッシュビルからカムデンまで
Victorはニュージャージー州カムデン(Camden)に大規模な工場・録音施設を持ち、ここで多くの初期録音が行われました。後にRCAはナッシュビルにRCA Studio B(1957年開設)などを持ち、そこで生まれた"Nashville Sound"はカントリー音楽の商業的成功に寄与しました。これらのスタジオでの技術とプロデューサーの手腕が、レコードというメディアを通じた地域音楽の全国的・国際的普及を支えました。
企業変遷と現代への継承
20世紀後半にはメディア再編が進み、RCAの所有構造も変化しました。1986年にGeneral Electric(GE)がRCAを買収したのち、RCAのレコード事業は売却され、最終的にBertelsmann(BMG)の傘下に入りました。2004年のSonyとBMGの合弁(Sony BMG)、そして2008年のSonyによるBMG株式取得を経て、RCA Recordsは現在Sony Music Entertainmentのレーベルの一つとして存続しています。古いVictorおよびRCA Victorの録音は、再発盤やデジタル配信を通じてアクセス可能であり、音楽史研究やリスナーにとって重要な資産です。
遺産と文化的意義
RCA Victorの遺産は単に商業的成功にとどまりません。技術革新(電気録音、45 rpm、ステレオなど)を通じて聴取体験を変え、放送と録音を結びつけることで音楽の流通を加速させました。また、歴史的な録音カタログは、演奏慣行や音楽表現の変遷を研究するうえで不可欠な一次資料となっています。現代のリマスターや復刻プロジェクトにより、古典的な名演が新たな世代に紹介され続けている点も見逃せません。
結び
Victor Talking Machine CompanyからRCA Victorへ、さらに現代のRCA Recordsへと続く系譜は、録音技術と音楽産業の発展史そのものです。技術的な発明だけでなく、録音物の保存・流通・再評価という面でもRCA Victorは大きな影響を与えました。歴史的カタログの価値は今後も失われることはなく、音楽ファンや研究者に多くの示唆を与え続けるでしょう。
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参考文献
- Britannica: Victor Talking Machine Company
- Britannica: Radio Corporation of America (RCA)
- Britannica: Gramophone record
- Wikipedia: RCA Victor
- Wikipedia: 45 (record)
- RCA Records 公式サイト


