ハイゲイン徹底解説:アンプ・ペダル・録音・ミックスで作る“重くて締まった”サウンドの全技術
ハイゲインとは何か:定義と音楽的役割
ハイゲイン(high gain)は、ギター信号に強い増幅と飽和(歪み)を与えたサウンド全般を指す用語です。ロックやハードロック、特にヘヴィメタル系で重要視され、刻み立てるリフや速いピッキングに対して音の存在感・アタック感・持続(サスティン)を与えます。単なる音量の大きさではなく、プリアンプ段で与えられるゲイン(増幅度)を複数重ねることや、出力段のドライブも含めた音色設計がポイントです。
歴史的背景:ハイゲインの発展
ハイゲインサウンドの源流は、1960〜70年代のギターアンプに遡ります。ギターリストがアンプを思い切り歪ませることで得た「オーバードライブ」から出発し、1970年代にはMesa/Boogieのようなカスタム小型アンプが登場して既存のアンプに比べて高いゲインを実現しました。1980年代にはMarshall JCM800などのアンプがハイゲイン・サウンドをさらに普及させ、1990年代以降、Peavey 5150/6505やDiezel、ENGLなど、金属系・モダンロック向けに特化した高ゲインアンプが多数登場しました。
ハードウェアでの構成要素:アンプとペダル
ハイゲイン音作りは複数の要素の組み合わせで成り立ちます。
- プリアンプ段のゲイン:歪みの多くはプリアンプで作られます。複数のゲイン段を持つ回路は、低域を締めつつ中高域の飽和を得やすく、現代的なメタルトーンの核になります。
- パワーアンプの飽和:出力段(パワー管)をドライブすることで生まれる太さや圧力感。真空管アンプでは出力管の種類(EL34・6L6等)やバイアス状態、電源のレスポンスが音色に影響します。
- オーバードライブ/ディストーション・ペダル:プリアンプ直前やFXループで使い、ゲインステージを整える。チューブアンプをプッシュするタイプの「ブースト系」ペダル(TS系)や、より歪みを足すディストーションがよく使われます。
- ノイズ対策:高ゲインはノイズを増幅するため、ノイズゲート、シールド、ハムバッカーやシングルコイルの対策が重要です。
- スピーカーとキャビネット:スピーカーのキャラクター(ハイパワーで硬いコーン/柔らかいコーン)、キャビネットのチューニング、バッフル材質が音の抜けや低域の制御に影響します。
ギター側の要因:ピックアップ、スケール、チューニング
ハイゲインで求められる音像を得るため、ギター側の選択も重要です。高出力のハムバッカーはノイズが少なく太い中低域を出しやすいため定番です。モダンメタルではアクティブPU(Seymour Duncan, EMG等)や高出力パッシブが使われます。弦のゲージやスケール長も低チューニングや6弦以上の楽器で低域を締める要因になります。
ペダルチェインとエフェクトルーティング
ハイゲイン環境での一般的なエフェクト配置の考え方:
- ギター->チューナー->ワウ/コンプレッサー->オーバードライブ/ブースト->アンプ入力(またはアンプのエフェクトループへ)
- アンプの前段に汎用のブーストでピックアタックを立たせ、アンプFXループにはモジュレーション、ディレイ、リバーブ等の時間系を入れる(アンプの歪みを後続の時間系で汚さないため)。
- ノイズゲートは通常ディストーション直後かFXループのリターンに配置し、サステイン中の不要ノイズをカットする。
録音と音作り:マイキングとIR/モデリングの使い分け
スタジオでのハイゲイントーンは、マイクの選定・配置、キャビネットの録音、そしてデジタルのモデリングやインパルス応答(IR)を組み合わせて作ります。ダイナミックマイク(例:Shure SM57)はキャビネット直近の中高域に強く、コンデンサやリボンをブレンドすると部屋の空気感が加わりミックスで馴染みます。
一方で、モデリング/プロファイリング機器(Kemper、Axe-Fx、Helix)やプラグイン(Neural DSP、Positive Grid等)は一貫性と編集の自由を提供します。アンプとキャビネットの組み合わせを仮想的に変更できるため、短期間で多彩なトーンを試せます。実録派はダイレクト(DI)録音して後でリンプラグインやIRでリアンプする手法も一般的です。
ミックスでの扱い方:明瞭さと厚みの両立
ハイゲインギターはミックス内で低域が暴走しやすいため、EQとダイナミクス処理でコントロールします。基本的な考え方:
- 低域の整理:80Hz以下はカットする、または楽曲に応じてローエンドをサイドに振る(ステレオ幅を取る)ことも有効。
- 中域の調整:叩きのある“スラップ感”は800Hz〜1.2kHz辺りのアタックで決まることが多い。ここを適切にブースト/カットして楽器の存在感を調整。
- 高域の定義:5kHz以上のアタックとシンバリンスでピッキングの粒立ちを出すが、不要な刺さりはシェルビングやダイナミックEQで対処。
- ステレオ処理:リフはダブルトラックで左右に振るのが定石。差分の位相管理やトランジェントの整合も重要。
奏法とテクニック:ハイゲインを活かす演奏法
ハイゲイントーンは手数・精度に敏感なので、奏法面での準備も必要です。代表的なポイント:
- ピッキングの均一性:速弾きやパームミュートでの粒立ちを揃える。
- ミュートコントロール:手首や右手の位置で余分なサステインを抑え、リズムの“締まり”を作る。
- アタックとダイナミクス:高ゲインは小さなピッキングの差も拡大されるため、タッチの制御が音色に直結する。
問題と対策:よくあるトラブルシューティング
よくある悩みとその対策:
- モワつく低域:キャビネットの選択やEQでローを整理。アンプ側のゲインを下げ、ブースト系で中高域を補完する。
- ノイズが多い:ノイズゲートの導入、シールドケーブル、ピックアップの接地、アクティブPUのバッテリー確認。
- 音が埋もれる:ダブルトラックで左右に広げる、ミッドレンジをブーストして存在感を出す。
現代の潮流:モデリングと多弦ギター、低チューニング
近年はモデリング機器やプラグインの精度向上で、ハイゲインサウンドの再現が手軽になりました。また7弦・8弦ギターやドロップチューニングの普及により、低域をしっかり出しつつも混濁を避ける音作りがトレンドです。現代的なミックスでは、ギターの低域をベースやキックと協調させるためのサイドチェインやマルチバンド処理が用いられます。
実践チェックリスト:スタジオとライブでの設定
- アンプのゲインは必要最小限で、ブースト系で補ってニュアンスを残す。
- キャビネットのマイクを複数使い、ダイナミック+コンデンサで質感をブレンドする。
- ノイズゲートはリダクション量を耳で確認し、サステインを死なせすぎない。
- ミックス前にギター群の中域の競合をチェックし、必要ならボーカルやベースと周波数を調整する。
- 耳を守る:ハイゲインは高いレベルの中高域成分を含むため、長時間のモニタリングでは耳鳴りや疲労に注意。
まとめ:音作りは技術と感性の両立
ハイゲイントーンは単に歪ませればいいというものではなく、ギター・アンプ・エフェクト・奏法・録音・ミックスのすべてが整って初めて“厚くてダイナミック、かつ締まった”音になります。古典的な真空管アンプの暖かさを残しつつも、現代的なタイトさを得るためには、ゲインステージの整理、EQの精密さ、そして演奏技術が不可欠です。機材に依存する部分も大きいですが、耳での判断と小さな調整を積み重ねることが最短の近道です。
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参考文献
- Mesa/Boogie 公式サイト — 会社の歴史と製品情報
- Peavey 5150 — Wikipedia(製品と歴史)
- Marshall Amplification — History(JCMシリーズ等)
- Shure — Which microphone should I use for guitar amplifiers?
- Sound On Sound — How to mic guitar amps(マイキング技法)
- Sound On Sound — Gain staging(ゲインステージングの基礎)
- Neural DSP — モデリングプラグインメーカー
- Kemper Profiler — プロファイリング技術
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