メロディック・ダブステップ(Melodic Dubstep)とは何か──起源・音楽的特徴・制作技法とシーンの現在

Melodic Dubstepとは

Melodic Dubstep(メロディック・ダブステップ)は、ダブステップの低域と半拍=ハーフタイムのグルーヴを保持しながら、感情的でメロディックな要素を前面に出したEDMの一派です。一般に「メロディック・ベース(melodic bass)」や「メロディック・ダブ」とも呼ばれ、2010年代中盤以降に北米・欧州を中心に人気を博しました。攻撃的な“ブロステップ(brostep)”と対照的に、和音進行、エモーショナルなボーカル/ボーカルチョップ、トランスやポストロック風の広がりを特徴とします。

起源と歴史的背景

ダブステップ自体は2000年代初頭にUK地下シーンで誕生し、低域重視のベースラインと独特のリズム感が特徴でした。2010年代初頭、Skrillexらによる米国ベースミュージックの“ブラッシュアップ”を経て、シーンはより多様化します。その流れのなかで、よりメロディー志向・感情表現志向のプロデューサーたちが出現し、ダブステップのエネルギーを保ちつつ、壮大なコード進行やボーカル中心の楽曲を作るようになりました。

このジャンルを象徴するアーティストとしては、Seven Lions、Illenium、Said The Sky、MitiS、Trivecta、Dabin、Adventure Club(メロディックな要素を多く取り入れた作品群)などが挙げられます。これらのアーティストはフェスティバルやストリーミングを通じてメロディックなダブステップ/メロディック・ベースの認知を広げ、ジャンルの一般化に寄与しました。

音楽的特徴

  • テンポとグルーヴ: ダブステップ由来の140BPM前後、もしくはそれをハーフタイム的に扱うことが多い。ドラムはスネアを2拍目と4拍目に置く半拍感(ハーフタイム)のグルーヴが用いられる。
  • ベース: 深いサブベース(サイン波由来)を土台に置き、ミッド帯にはリード的なベースやワブル、フォルマントのかかったシンセを重ねて“厚み”を出す。
  • メロディと和声: 映画音楽的なコード進行やエモーショナルなリードメロディを重視。トランス/プログレッシブ要素の影響が見られることが多い。
  • ボーカル: 生ボーカル、ゲストシンガー、ボーカルチョップをメロディック要素の中心に据えることが多い。感情表現(切なさや高揚)を前面に出す用途が多い。
  • サウンドデザイン: クリアかつ豊かなリバーブ、レイヤーでのリード構築、ハーモニーを補強するパッド類の使用が顕著。

制作技法(サウンドデザインとミックス)

メロディック・ダブステップ制作では、感情的なメロディを損なわずに低域の存在感を確保するための技術が重要です。

  • サブベースの扱い: キックとサブベースの周波数を共存させるために、サブをシンプルなサイン波や低次倍音の少ない波形で作り、キックとの位相・ノッチ処理やサイドチェインで衝突を避ける。
  • リードのレイヤリング: メインのリードは複数レイヤー(アナログ風のコア、ハイが伸びるトランジェント層、空間系パッド)で構成し、EQで帯域分割して抜けを作る。
  • 空間表現: ルームリバーブ+大きめのホール系リバーブで奥行きを出し、プリディレイで定位を調整。ディレイはリズム感を補強するために2分音符や3連符で同期させることが多い。
  • ダイナミクス処理: マスター段での過度なリミッティングを避け、トラック毎にマルチバンドコンプやサチュレーションで密度感を出す。ドロップ部分では一時的にダイナミクスを広げるアレンジが効果的。
  • ボーカルの処理: チョップやピッチ処理を施したボーカルを楽曲のフックに使う。コンプレッション、EQ、ディエッサーで明瞭度を確保しつつ、リバーブ/ディレイで情感を増幅する。

代表的なアーティストと楽曲(入門)

以下はジャンルの理解に有用なアーティスト例です(代表曲は一例であり、各アーティストのサウンドは幅があります)。

  • Seven Lions — トランスやトリップホップ寄りのメロディック・ベース要素を持つ作品が多い。
  • Illenium — ポップ/ロック的な歌メロとダブステップ的ドロップを融合し、商業的成功も収めたプロジェクト。
  • Said The Sky — ピアノやエモーショナルなメロディを前面に出した作品で知られる。
  • MitiS、Dabin、Trivecta — ピアノやギターを取り入れたオーガニックなアプローチが特徴。

シーンの進化とクロスオーバー

メロディック・ダブステップは、フェスティバルラインナップやストリーミング・プレイリストを通じて広まり、ポップやロック、トランス、future bassなど他ジャンルとのクロスオーバーが進みました。結果としてラジオやプレイリスト向けの楽曲構造(イントロ→ビルド→ボーカルパート→ドロップ→アウトロ)を採る作品が増え、商業的な成功例も見られます。また、ポスト2015年以降、サブジャンルとして“メロディック・ベース”という呼称が定着しつつあり、ジャンル境界は流動的です。

ライブとDJパフォーマンス

ライブでは、メロディックな楽曲の流れを重視したセット構築が好まれます。単曲でのドロップの激しさよりも、感情の起伏を組み立てることが重視されるため、シンガーを伴うライブセット、Ableton Liveを用いたハイブリッド・プレイ、ギターやピアノ生演奏を取り入れるケースが増えています。DJはトラック間のキー(調性)やテンポを考慮してスムーズに繋ぐことで、聴衆の感情的没入を高めます。

制作とリスニングのための実践的アドバイス

  • メロディ作り: シンプルなモチーフを繰り返しながら、オクターブ・ハーモニーやパートの追加でダイナミクスを作る。
  • サウンド選定: 温かみのあるアナログ風のオシレーターとデジタルのクリスピーな粒子音を組み合わせる。
  • ミックス: サブと中高域のバランスが命。サブは単純にし、低域のクリアさを優先する。高域はリードとボーカルの抜けを優先。
  • アレンジ: ドロップは必ずしも“激しく”する必要はなく、情感のピークを作るためのダイナミクス(静→動)の設計が重要。

文化的インパクトと今後の展望

メロディック・ダブステップはEDM内での表現の幅を広げ、歌もの・インスト問わず感情的表現を重視する流れを後押ししました。今後は、よりオーガニックな楽器や異ジャンル(ポストロック、シンセポップ、トラップなど)との融合が進むと予想されます。ストリーミング時代におけるプレイリスト文化は、このジャンルの“キャッチーで感情的な”側面と非常に親和性が高く、引き続き多様なコラボレーションやサウンド実験が生まれるでしょう。

まとめ

Melodic Dubstepは、ダブステップの低域的パワーとポップ/トランス的なメロディ性を結びつけたジャンルです。技術的には低域の管理と豊かなレイヤー表現が鍵であり、アーティストは楽曲を通して強い感情表現を目指します。商業面でもストリーミングやフェスティバルでの存在感を示しており、今後もジャンルの横断的発展が期待されます。

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参考文献