MCUのヴァルキリー徹底考察：王となったヴァルキュリアの系譜と今後の可能性

2025年12月14日 最終更新日時 : 2025年12月14日 エバープレイ編集部

イントロダクション：MCUにおける“ヴァルキリー”とは何か

ヴァルキリー（Brunnhilde／演：テッサ・トンプソン）は、マーベル・シネマティック・ユニバース（MCU）における重要な女性キャラクターの一人だ。2017年の『マイティ・ソー／バトルロイヤル（原題：Thor: Ragnarok）』で〈Scrapper 142〉として初登場して以来、彼女は系列上の神話や戦士像を現代映画に再構築する役割を担ってきた。この記事では、映画での描写、演出・演技の特色、ジェンダーと表象、物語上の役割、そして今後の展望までを史実と発言に基づいて詳しく深掘りする。

映画ごとの経緯と主要エピソード

  • 『ソー：ラグナロク』（2017）：スクラッパー142として惑星サカールの賞金稼ぎ軍団に属していた彼女は、かつてヴァルキュリー部隊に所属していたアスガルドの戦士であることが徐々に明かされる。ヘラによる前時代の虐殺で仲間の多くを失い、心を閉ざしていたが、ソーやハルクらと行動を共にすることで再び自らの誇りを取り戻していく。本作での演出（監督：タイカ・ワイティティ）は、コミカルさを残しつつもヴァルキュリーの疲弊と再生を短時間で描いた。
  • 『アベンジャーズ／エンドゲーム』（2019）：サノスの“指パッチン”後の世界で、ヴァルキリーは〈ニュー・アスガルド〉の地で人々を受け入れ、共同体の再建に関わっている。ソーが最終的に旅立つ際、彼女にリーダーシップを委ねる場面があり、以降彼女は〈国王（King）ヴァルキリー〉としての立場を引き受けることになる。
  • 『ソー：ラブ＆サンダー』（2022）：〈King Valkyrie〉としての統治や、〈クイーン〉を求める個人的なモチベーションがサブプロットになる。物語全体ではトールの再起と神性の問いが主軸だが、ヴァルキリーの存在はソー世界の“次世代の統治”を象徴する重要な要素として機能する。

キャラクター造形と演技の特徴

テッサ・トンプソンの演技は、ヴァルキリーというキャラクターに“荒みつつも芯のある戦士”という厚みを与えた。台詞の間合いや無造作で冷めたユーモア、戦闘時の身体表現は、彼女が単なる“力持ちの女性”以上の存在であることを伝える。タイカ・ワイティティの演出は、MCU的な軽妙さを保ちながら、キャラクターのトラウマや居場所喪失を映像的に掘り下げた点が評価される。

神話関係とコミックとの差異

伝統的な北欧神話やマーベル・コミック版のヴァルキュリー（Brunnhilde）に比べ、MCUのヴァルキリーは過去の栄光と現在の挫折を強調した“再起の物語”として再解釈されている。コミックではより神話的・ロマン的な側面や複数のヴァルキュリーが描かれることが多いが、MCUは一人の生存者の視点に絞ることで観客の共感を生み出している。

表象としての重要性：ジェンダーとセクシュアリティ

ヴァルキリーはスクリーン上の強い女性像であるだけでなく、セクシュアリティの多様性を示すキャラクターでもある。演者のテッサ・トンプソンや製作陣が公の場で語ってきたように、ヴァルキリーはクィア（バイセクシュアル等の含意）として位置づけられていると説明されてきた。この点は、MCUが従来の男性中心的神話像に対して新たな解釈を導入している象徴の一つであり、多様性の可視化という面で議論を呼んだ。

物語上の役割と象徴性

ヴァルキリーの物語的役割は複数ある。第一に「生き残りと再建」の象徴として、コミュニティを守る側に回ることでヒーロー像を“個人の栄光”から“共同体の責務”へと転換させる。第二に、彼女はトールの物語における“帰結”を示す存在だ。トールが自己を見つめ直し、旅へ出るときに残るべき人としてヴァルキリーを選ぶ描写は、王権やリーダーシップの在り方を問い直す意図がある。

ビジュアルと戦闘演出の特徴

MCUのヴァルキリーは、従来のアスガルド兵の豪華さよりむしろ機能性を重視したデザインで描かれる。サカール時代のスクラッパーとしての装備は粗野で実用的、そしてアスガルド時代の鎧は神話的要素を残しつつも実戦に即した可動性を重視している。アクション演出は特に短剣や剣を用いた白兵戦に強く、彼女の“老練な戦士”としての経験値がアクションで表現されている。

評価と限界：MCU描写に対する批評的視点

高評価の点としては、ヴァルキリーが単なる脇役に留まらず政治的・社会的なドラマの担い手として位置づけられたことが挙げられる。だが一方で批判もある。例えば、彼女の過去の喪失や性的指向といった重要テーマが映画の尺の中で十分に掘り下げられていないという指摘だ。特に『ラブ＆サンダー』における〈クイーンを探す〉というサブプロットは、観客から「もっと掘り下げることができたはずだ」といった声を受けた。

今後の展望とファン理論

公式に発表された単独スピンオフ映画は現時点では存在しないが、ヴァルキリーはMCUフェーズにおいて政治的リーダー、及び可能なクロスオーバー要員として利用される余地が大きい。ファンの間ではニュー・アスガルドの外交や、ヴァルキュリーの失われた仲間たちの物語、さらにはアスガルドの神話を掘り起こすような作品の提案が多く見られる。MCUがますます多様なキャラクター群の相互作用に重心を移している現状を考えると、ヴァルキリーが重要な接点役を担う可能性は高い。

まとめ：現代の神話としてのヴァルキリー

ヴァルキリーは、MCUが神話的素材を現代的な問題とどう接続させるかを示す好例だ。戦士としての強さ、コミュニティのリーダーとしての責務、そして個人としての性的多様性――これらを併せ持つことで、彼女は単なるアクションヒロインを超える複層的なキャラクターとなっている。今後の作品でどのように掘り下げられるかは、MCU全体の物語構造と多様性方針を反映する重要な試金石となるだろう。

参考文献

カテゴリー
映画・ドラマ
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