経常利益の全体像と実務で使える分析・改善ガイド:計算式から財務戦略まで徹底解説

経常利益とは何か──基本定義と位置づけ

経常利益(けいじょうりえき、ordinary profit)は、企業の損益計算書における重要な利益指標の一つで、営業活動による利益に営業外の収益・費用を加減したものです。日本の財務諸表の一般的な構成では、売上高から営業費用を差し引いた営業利益に、受取利息・受取配当金・為替差益などの営業外収益を加え、支払利息・為替差損・持分法による損失などの営業外費用を差し引いて算出されます。経常利益は企業の「通常の」業績を示し、特別損益(災害、固定資産売却に伴う一時的な損益など)を除いた継続的収益力を測る際に用いられます。

損益計算書における経常利益の位置

一般的な損益計算書の流れは以下のとおりです。売上高→売上総利益→営業利益→経常利益→税引前当期純利益→当期純利益。つまり、経常利益は営業利益の次段階で、営業活動以外の金融活動や投資などの影響を反映した後の利益を示します。税引前当期純利益との違いは、税引前当期純利益がさらに特別利益・特別損失を反映する点にあります。

計算式と主な構成要素

代表的な計算式は次の通りです。

  • 経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用

営業外収益の例:受取利息、受取配当金、有価証券売却益、為替差益など。営業外費用の例:支払利息、為替差損、投資有価証券評価損、借入金利息など。業種によって比率や構成が大きく異なるため、単純比較には注意が必要です。

具体例:数値で見る経常利益の計算

簡単な例を示します(単位:百万円)。売上高 10,000、営業利益 800、受取配当金 50、受取利息 10、支払利息 120、為替差損 30 の場合:

  • 営業外収益=受取配当金50+受取利息10=60
  • 営業外費用=支払利息120+為替差損30=150
  • 経常利益=営業利益800+60-150=710(百万円)

この例では、金融費用が大きく、経常利益が営業利益から減少しています。支払利息の増加は財務戦略の見直しを促すシグナルです。

経常利益率と業種ごとの差異

経常利益率=経常利益÷売上高(%)は、収益性の比較に使える指標です。ただし業種ごとの事業構造が大きく異なるため、同業他社や過去の自社実績との比較が基本です。金融業や資本集約型の重工業、商社などは営業外収益/費用の影響が大きく、経常利益の変動が大きくなる傾向があります。一方、小売やサービス業では営業利益が結果を左右することが多いです。

投資家・経営者が経常利益を見る意義

  • 継続的収益力の把握:一時的要因を除外した通常の収益力を評価できる。
  • 財務コストの影響把握:支払利息など財務活動の影響が反映されるため、負債依存度や金利リスクの評価に役立つ。
  • 配当・内部留保の基礎:経常利益は安定的な配当原資や内部留保のベースと見なされることがある。

経常利益の改善につながる施策

経常利益を改善するための具体的施策は、営業側と財務側に大別できます。

  • 営業改善:商品力強化、販売チャネル最適化、原価低減、価格政策の見直しで営業利益を向上させる。
  • 財務改善:借入のリファイナンス、固定金利化や金利スワップによる金利リスクヘッジ、過剰有価証券の見直し・売却による非稼働資産の削減。
  • 投資戦略:事業ポートフォリオの見直しによる安定収益源の確保、非中核資産の処分。

経常利益の限界と注意点

経常利益は有用な指標ですが、以下の点に注意が必要です。

  • 一時的・非継続的な営業外収益の影響:有価証券売却益などは発生頻度が不定で、継続性の判断が必要。
  • 会計方針や分類の違い:企業によって営業外収益/費用の区分や開示レベルが異なる場合がある(例:持分法損益の扱い等)。
  • 為替・金利の市場リスク:特に海外取引や有利子負債が大きい企業は、外部環境の変動で経常利益が大きく揺れる。

経常利益と会計基準(日本基準・IFRSの違い)

日本の財務諸表では「経常利益」という項目が一般に利用されますが、IFRS(国際会計基準)では損益計算書の表示が柔軟であり、明確に"ordinary profit"に相当する単一項目が求められるわけではありません。IFRSでは金融収益・費用や投資損益はそれぞれ表示され、最終的に税引前利益(profit before tax)が報告されます。従って、国際比較の際は「営業利益+金融収支」という考え方で調整・比較する必要があります。

分析の実務ポイント(チェックリスト)

  • 過去3〜5期の経常利益の推移を確認し、成長性または循環性を把握する。
  • 経常利益率の推移と同業他社比較で競争力を評価する。
  • 営業外収益・費用の主要内訳(利息・配当・為替・売却益など)を分解して、継続性を判断する。
  • 金利負担比率(支払利息÷経常利益など)を確認し、金利ショック耐性を見積もる。
  • 短期的な特別項目の存在をチェックし、税引前当期純利益とのズレを把握する。

実務での活用例:予算編成とIRコミュニケーション

経常利益は中期経営計画や予算編成において重要なKPIになります。経常利益ベースでの目標設定は、営業活動と財務活動の双方を反映できるため、資本政策や配当方針の整合性を図る際に有効です。また、投資家向け説明(IR)では、経常利益の安定性や構成要素の説明が信頼性向上につながります。特に不安定な営業外項目がある場合は、その背景と今後の見通しを明確に伝えることが重要です。

まとめ:経常利益をどう評価し、どう使うか

経常利益は「通常の営業活動に加え、財務・投資活動を含めた継続的収益力」を示す重要指標です。営業利益だけでは見えない財務コストや投資収益の影響を把握できるため、企業の全体的な収益性とリスクを評価するのに有効です。一方で、営業外の一時的収益や会計上の分類の差異により誤解が生じやすいため、内訳分析や同業比較、長期推移の確認が不可欠です。経営者は、経常利益を用いて営業改善と財務戦略の両面から企業価値向上に取り組むべきでしょう。

参考文献