写真での白飛びを完全理解する:原因・予防・RAW現像での回復テクニック
白飛びとは何か(定義と視覚的特徴)
白飛び(はくとび、英: blown highlights / clipped highlights)は、写真の一部が最大輝度まで饱和してしまい、輝度情報や色の階調が失われてしまう現象です。カメラのセンサーやJPEG処理でピクセル値が上限(たとえば8ビットなら255)に到達すると、その領域は階調を失い“白”として表示されます。結果としてディテールや質感、色相が戻らなくなり、ハイライト部分が単純な白塊に見えるのが特徴です。
なぜ白飛びが起きるのか(技術的要因)
- センサーのフルウェル容量と飽和:各画素には電荷を蓄える上限(フルウェル容量)があり、これを超えると飽和して情報が失われます。
- ダイナミックレンジの限界:被写体の輝度差がカメラのダイナミックレンジ(表現可能な最暗部〜最明部の幅)を超えると、暗部は黒潰れ、明部は白飛びが発生します。
- 露出設定と測光の誤り:測光が中間調に合わせられてしまうと、極端に明るい部分がクリップすることがあります。
- 反射・スペキュラーハイライト:金属や水面、強い直射光などで非常に狭く強いハイライトが生じると、容易に飽和します。
RAWとJPEGでの違い
JPEGはカメラ内処理(ホワイトバランス、コントラスト、ガンマ補正、8ビット量子化)を経て書き出されるため、ハイライト情報がより簡単に失われます。一方RAWはセンサーの生データ(多くは12〜14ビット)を保持するため、JPEGで真っ白に見えてもRAW現像である程度の階調回復ができる場合があります。ただし、全てのカラーチャンネルが飽和している場合(完全にクリップしている場合)は情報が欠損しており、回復は不可能です。
ヒストグラムとハイライト警告の使い方
撮影時にはヒストグラムとハイライト警告(ブリンキー)を活用しましょう。ヒストグラムの右端が張り付いていると白飛びの危険があります。多くのカメラはJPEGプレビューに基づくヒストグラムや警告を表示するため、RAWと完全に一致しない点には注意が必要です。可能ならRGB各チャネルのヒストグラムやライブビューでのハイライト表示を参照すると、どのチャンネルが先に飽和しているかが分かります(多くの場合緑チャネルが先にピークすることが多いです)。
撮影時の予防テクニック
- 露出をハイライト基準で決める:重要な明部の階調を残したい場合は、その部分に合わせてスポット測光や露出補正を使い、ハイライトを守るように露出を下げます。
- ETTR(Expose To The Right)の応用:ノイズ低減のためにヒストグラム右寄せで露出を上げる手法。ただし白飛びしない範囲で行うのが前提です。RGBヒストグラムでいずれかのチャンネルが飽和する前に止めます。
- NDフィルターや可変ND、グラデーションND:空と地上の明暗差が大きい風景では有効です。
- フラッシュや反射板で露光をコントロール:逆光やハイコントラストではフィル補助で暗部を持ち上げ、極端なハイライトを抑える。
- 露出ブラケットやHDR:複数露出を合成することでセンサーのダイナミックレンジ以上の範囲をカバーできます。
- ハイライト優先/ハイライトトーン保護機能の活用:一部のカメラにはハイライトを優先して露出やJPEG処理を調整するモードがあります。
RAW現像での白飛び回復(限界と手順)
RAW現像ソフト(Lightroom, Camera Raw, RawTherapeeなど)には「ハイライト」「白レベル」「露光量」「黒レベル」といったスライダーがあり、クリップ直前の情報を引き出すことが可能です。回復のポイントは以下の通りです。
- ハイライトと白のスライダーで階調を戻す。+側ではなくマイナス方向に下げてハイライトを抑える。
- RGB各チャネルのクリッピングを確認し、片チャンネルのみ飽和している場合は色を補正して階調を再現することもできる。
- 極端な場合はローカルトーンカーブやブラシで部分的に補正する。
- ただし全チャンネルが完全に飽和している箇所は情報が失われており、どんなソフトでも忠実な復元は不可能です。復元できるのは“残留情報”がある場合のみで、その量はカメラのビット深度やセンサー性能に依存します。
実践ワークフロー(撮影→現像)
- 撮影前:シーンのダイナミックレンジを把握。重要部分(肌やハイライト)にスポット測光で露出を合わせる。
- 撮影中:ヒストグラムとブリンキーで警告をチェック。重要箇所がクリップしないよう露出補正やNDで調整。必要ならブラケット撮影。
- 現像:RAWでハイライトを下げて回復を試みる。色かぶりやチャネルごとの飽和を確認。不可逆な白飛びはデザイン的に活かすか、合成/HDRで補う。
よくある誤解(Q&A)
- Q: ISOを下げれば白飛びは減る?
A: 多くのカメラは基準ISO(ベースISO)で最大のダイナミックレンジを得られるため、感度を上げすぎるとハイライトの余裕が減る場合があります。ただし機種によりISO不変性の度合いが違うため、実機での確認が必要です。 - Q: JPEGで見えなければRAWでも無理?
A: 逆です。JPEGは処理後なので白く見えてもRAWには残っている情報があることが多い。ただし完全に飽和していれば復元不可です。
創作的に白飛びを使う方法
白飛びは必ずしも失敗ではありません。ハイキー表現で美しい雰囲気を作る、背景を白く飛ばして被写体に視線を誘導する、ある種の抽象表現にするなど、意図的な表現手段として活用できます。重要なのは意図的であることと、他の部分の露出や色を適切にコントロールすることです。
まとめ(実践的なチェックリスト)
- 重要なハイライトにスポット測光を当て、露出補正で守る。
- ヒストグラムとハイライト警告を常に確認する。
- RAWで撮影する(白飛び回復の可能性を残すため)。
- 必要に応じてNDや反射板、フラッシュ、HDRを活用する。
- 機材ごとの特性(ダイナミックレンジやISO特性)を把握しておく。
参考文献
- Cambridge in Colour — Understanding Histograms
- DPReview — Camera Sensor Technology and Dynamic Range
- Adobe Help — Lightroom / Camera Raw: Highlights and Shadows
- Wikipedia — Dynamic range (photography)
- DXOMARK — Camera sensor performance measurements


