主和音(トニック)完全ガイド:機能・分析・作曲での応用法
主和音とは
主和音(トニック、tonic)は、調性音楽における中心和音であり、ある調の安定点・終止点として機能する和音です。長調では主音(第1音)を根音とする長三和音(I)、短調では短三和音(i)となります。主和音は楽曲における「帰着点」としての役割を果たし、支配和音(ドミナント)や下属和音(サブドミナント)との緊張と解決のネットワークの中で、安定と安定への回帰を提示します。
主和音の構成音と種類
基本的には三和音(根音・第三音・第五音)で構成されます。長調の主和音は1度、3度、5度(例:CメジャーのC–E–G)、短調の主和音は1度・短3度・5度(例:AマイナーのA–C–E)。実践では第7音や第9音などを加えた和音(例:Imaj7、i7、I6/9など)も多く使用され、響きに色彩や機能的な微妙な差異を生み出します。第二転回形(6/4)はしばしばカデンツの中で特別な機能を持ち、進行上では 5の上の6/4 として解釈されることが多いです(カデンシャル6/4)。
主和音の機能と音楽理論上の位置づけ
機能和声の枠組みでは、和音は主(Tonic, T)、下属(Subdominant, S)、支配(Dominant, D)のいずれかの機能に分類されます。主和音はT機能を担い、終止や静止を感じさせます。典型的な機能進行は S → D → T で、例えば IV → V → I や ii → V → I などが挙げられます。支配和音から主和音への解決(V→I)は最も「完全な」終止感を与え、楽曲のフレーズや楽章の締めくくりに使われます。
主和音と各種終止(カデンツ)
カデンツは主和音がどのように終止として現れるかを分類する概念です。代表的なものに完全終止(完全終始、authentic cadence:V→I)、半終止(半終始:任意の和音→V)、偽終止(V→vi、deceptive cadence)や準終止(plagal cadence:IV→I)があり、いずれも主和音が終止点として機能します。特にクラシックではV→Iの解決が最も確立された終止で、ベースラインや声部の指向性(導音の解決など)が重要です。
主和音の分析表記(ローマ数字・機能表記)
主和音はローマ数字分析では長調ならI、短調ならiと表記します。転回形は数字で示し、第一転回形は6、第二転回形は6/4とします。機能和声ではTと略され、和声進行の機能的な流れを追う際に便利です。ジャズやポピュラー音楽では数字表記(Nashville Number System)やコードネーム(C、Amなど)で記述するのが一般的です。
主和音の代理と拡張
主和音はしばしば代理和音や近親調の和音によって置き換えられることがあります。長調におけるvi(相対の短和音)は文脈によって主和音のような安定感を担うことがあり、IIIやbIIIといった媒介的な和音も和声的な色彩として用いられます。さらに、借用和音(モーダル・インターチェンジ)によって短調のIIIやbVIなどを導入すると、主和音周辺のハーモニーに新たな表情が加わります。ジャズではImaj7に対してiiiやVIをサブスティチュートとして用いることもあります。
主和音と旋律・声部法(ボイスリーディング)
主和音へ解決する際の声部法は、旋律線と和声の一貫性を保つうえで重要です。導音(第7音)は主音へ半音で解決する習慣があり、これがV→Iの強い終止感を生みます。声部間の平行五度や八度を避けつつ、各声部が滑らかに動くように内声を配慮すると、主和音の到達が自然に感じられます。第二転回形(6/4)はしばしばベース上で持続音(ペダル)を用いる際に現れ、和声機能は必ずしもその場の字義どおりの主和音とは異なることがあるため注意が必要です。
ジャンル別の主和音の使われ方
クラシック音楽では主和音は明確な終止点や長大な主題再現に使われ、対位法や和声学の規則に基づく処理が行われます。ジャズではImaj7やI6/9のような拡張和音が用いられ、テンション(9、11、13)を付加して色彩的に表現されます。ポピュラー音楽ではシンプルなI–IV–V進行やペダルを用いたトニックの長時間保持(コーラスの一体感など)が多用され、モード音楽やワンプラーメロディーの中で主和音の機能が相対的に弱められることもあります。
作曲・編曲での実践テクニック
作曲や編曲において主和音を効果的に使うためのテクニックをいくつか挙げます。まず和声の密度と色彩を変えるために転回形や追加音(6、7、9など)を活用するとよいでしょう。次に長いフレーズの中でトニックを延長(プロローグ)する場合、サブドミナント的な和音や平行和音を挿入して段階的に緊張を増す方法があります。対位的なアプローチでは内声に動機を持たせてトニックの到達を際立たせます。ポップの制作ではトニックにペダルを置いて音像を安定させ、サビで和音の色を変えることで構造上の区別を作ることが多いです。
聴音・耳コピで主和音を見つける方法
耳コピの際は以下の手順が有効です。まず楽曲の終止を聴いて最も“落ち着く”音を探し、それを疑似的な主音と見なします。次にベースラインやメロディの最頻音を確認し、調号やキーに照らして確定します。カデンツ(特にV→I)や導音の解決が聴き取れれば主音を特定しやすくなります。ポップやジャズでは転調やモーダルな要素が含まれることがあるため、短いパッセージごとにトニックが変化していないかもチェックしてください。
応用例と作曲上の留意点
主和音を大胆に扱うことで、楽曲の構造や感情表現に変化を与えられます。例えばコーラスでトニックを長く保持して聴覚的な“居場所”を強調する、または偽終止(V→vi)で意外性を作り次節へ滑らかにつなげるなどの工夫があります。一方で主和音ばかりに頼ると平坦に聞こえるため、代理和音や借用和音、テンションの導入で色彩を付けることが重要です。
まとめ
主和音は調性音楽の中心的な和音であり、安定・終止・帰着という機能を担います。基本的な三和音の構造から拡張和音、代理/変化和音、ジャンル別の用法、そして作曲や耳コピの実践的テクニックまでを理解することで、より自在にトニックを扱えるようになります。和声進行の設計やメロディとの関係を意識して主和音を配置することが、表現の幅を広げる鍵となります。
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参考文献
- Tonic (music) — Wikipedia
- MusicTheory.net — Lessons(基本和声・機能和声の解説)
- Cadence (music) — Wikipedia
- Roman numeral analysis — Wikipedia
- Teoria — 音楽理論の解説(耳コピ・和声分析)


