エオリアン音階とは何か — 自然短音階の理論・歴史・実践ガイド
はじめに:エオリアン音階の魅力
エオリアン音階(Aeolian mode)は、現代音楽で「自然短音階(ナチュラル・マイナー)」として知られる音階であり、悲哀や陰影、内省的な色彩を持つため、古典からポピュラー、映画音楽まで幅広く利用されます。本コラムでは、音程構造や和声的性質、歴史的背景、実践的な使い方まで詳しく掘り下げます。理論的な説明とともに作曲・即興での応用方法も提示しますので、作曲家・演奏家・音楽愛好家にとって有益な内容を目指します。
エオリアン音階の定義と基本構造
エオリアン音階は、基音から見て次の音程パターンを持ちます(全音=W、半音=H):W–H–W–W–H–W–W。音名で示すと、Aエオリアン(代表例)は A–B–C–D–E–F–G–A です。これは自然短音階とも呼ばれ、長音階(アイオニアン、メジャー)の第6音を基音にした相対的な関係にあります。つまり、Cメジャー(C–D–E–F–G–A–B)の相対短調がAエオリアンです。
音階の音程と度数・コードの質
エオリアン音階の各度とその機能、三和音(トライアド)の質は、一般に以下の通りです。
- 1度(根音): i(マイナー)
- 2度: ii°(短2度上は減三和音)
- 3度: III(メジャー)
- 4度: iv(マイナー)
- 5度: v(マイナー)
- 6度: VI(メジャー)
- 7度: VII(メジャー)
したがって、自然短音階内の主な和音進行は、i–VII–VI–v や i–iv–VII など、短調でありながらも独特の安定感と前景性を持つ進行が得られます。音楽的には、5度上の和音(v)が短三和音であるため、純粋なモード的短調はトニックへの強い導音感を欠きます。これを補うために、ロマン派以降は7度の音を半音上げ(G→G#)て和声的短音階(ハーモニック・マイナー)を用い、V(長三和音)を作ることが多くなりました。
歴史的背景:教会旋法から近代まで
エオリアンという名称は中世の八旋法体系には含まれていませんでした。16世紀、スイスの音楽理論家ハインリヒ・グラエラヌス(Heinrich Glarean)が1547年の著作『Dodecachordon』において、従来の八旋法に加えてイオニアン(現在のメジャー)とエオリアン(現在の自然短音階)を含む12の旋法を提案し、これが近代的なモード認識に大きな影響を与えました。それ以降、エオリアンは自然短音階として広く理解され、さまざまな音楽様式で使用されるようになりました。
エオリアンと他の短調系モードの比較
短調系のモードには、エオリアン(自然短)、ドリアン(第6音が長い=raised 6th)、フリギアン(第2音が半音下がる=flat 2)などがあります。エオリアンは第6音と第7音が両方とも長音階に対して下降したままであり、これが特有の落ち着いた暗さを生みます。対照的にドリアンは第6音が上がるため、やや明るい短調感を持ち、フリギアンは半音進行の暗さ(特に暗黒的・異国風の響き)を与えます。
和声的扱いと機能的分析
エオリアンを用いる際の和声的な注意点は、先述の通りVの弱さです。機能和声(トニック・ドミナント・サブドミナント)を強調したい場合、作曲家はしばしば7度を上げてV(長三和音)を作り出します(ハーモニック・マイナーの手法)。一方で、モード的・民俗的な響きを残したい場合は、あえてvを用いるか、VIIやVIへの進行を活かして終止や進行を作ります。代表的なモード終止としては、VII→i や VI→VII→i の帰着が自然です。
ジャンル別の使用例と効果
- 民俗音楽:多くの伝統音楽で自然短音階的な旋律が見られ、地元の悲歌や舞曲に適した色彩を持ちます。
- ポップ/ロック:エオリアンの和音進行(i–VII–VI–v など)はロックやポップスで頻繁に使われ、哀愁を帯びたフックを作る際に有効です。
- メタル/ダーク系:陰鬱で強い輪郭を持つため、ヘヴィメタルやゴシック系のサウンドにも適しています。
- 映画音楽・劇伴:内省的・悲劇的なシーンの感情増幅に用いられます。
作曲・編曲・即興の実践テクニック
以下はエオリアンを使うときの実践的なアイデアです。
- 典型的な進行を作る:Aマイナーであれば Am–G–F–Em(i–VII–VI–v)のように、安定したモード進行をまず確立する。
- 導音の扱い:強い終止を作りたいときは7度を上げてE(V)を長三和音にする。ただしそれはモード性を少し失わせることを理解しておく。
- メロディの特徴付け:下降する四音(1–7–6–5)のモチーフや、3度と6度を強調することでエオリアンらしい色を出せる。
- モードの混合(Modal interchange):メジャー曲の一部にVIやVIIを借用して一時的に短調感を導入するなど、和声のコントラストを作る。
- ペダル音とオスティナート:低音に根音や5度を持続させることでモードの雰囲気を固定化し、上声で自由な旋律を動かすと効果的。
- テンションの利用:9th(2度)や11th(4度)を和音に加えて色彩を増やす。特にIIIやVIを拡張してリッチな響きを得る。
実例的なコード進行(ローマ数字と具体例)
Aエオリアンを例にとると、基本形のいくつかは次の通りです。
- i–VII–VI–v : Am–G–F–Em(モードの典型)
- i–iv–v–i : Am–Dm–Em–Am(シンプルな短調循環)
- i–III–VII–VI : Am–C–G–F(メロディックでポップな進行)
- i–VI–III–VII : Am–F–C–G(サビ向けの強い動き)
和声的短音階・旋律的短音階との違いと使い分け
エオリアン(自然短音階)は第7音がフラットであるため、ドミナントからトニックへの強い導音感が不足します。これに対し、和声的短音階では7度を半音上げて(G→G#)V(E major)を作り、強い終止感を得ます。旋律的短音階は上行時に6度と7度を上げ、下降時に元に戻すなど、声部ごとの機能を重視した扱いです。作曲時には、曲の求める重心(モード性を保つか、機能和声を優先するか)に応じてこれらを使い分けます。
まとめ:エオリアンを使いこなすために
エオリアン音階は「自然短音階」として、悲しみや憂い、落ち着きを表現する強力なツールです。歴史的にはグラエラヌスの体系化以降に近代的な認識が定着し、現代音楽の多くの場面で不可欠な存在になりました。和声的にはVが短三和音であるという特性があり、それを踏まえた上で導音の操作やモード混交を行うことで、多彩な表情を生み出せます。作曲や即興では、典型的な進行やモチーフをまず押さえ、必要に応じてハーモニーを変化させることが実践的です。
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参考文献
- Aeolian mode — Wikipedia
- Dodecachordon — Wikipedia(Heinrich Glarean)
- Minor scale — Natural minor — Wikipedia
- Modes — musictheory.net
- Musical mode — Britannica


