チルトラップ入門:起源・音楽的特徴・制作テクニックから今後の潮流まで徹底解説
チルトラップ(チル・トラップ)とは何か
チルトラップ(表記は「チルトラップ」「チル・トラップ」「chill trap」など)が指すのは、トラップのリズムやサウンド・デザインを基盤にしつつ、アンビエント/チルアウト的な質感やメロディックな要素を強く取り入れたエレクトロニック・ミュージックの一派です。ダークでアグレッシブな伝統的トラップとは距離を置き、ゆったりとしたテンポ感、豊かなリバーブ、穏やかなパッドやピアノ、ボーカルチョップといった要素を組み合わせることで“聴き流せる”リスニング体験を作ります。
起源と歴史的背景
まず「トラップ」の起源はアメリカ南部のヒップホップにあり、1990年代から2000年代初頭にかけてT.I.、Gucci Mane、Young Jeezyといったラッパーたちの作品を通して定義が確立されました(特徴は808ベース、ハイハットの高速ロール、スナップやクラップの強調など)。その後、2010年代前半にはEDMシーンがこのリズム/サウンドを吸収し、いわゆる「EDMトラップ」が生まれます。Baauerの『Harlem Shake』(2012/2013年)が大衆的認知を得た代表例としてしばしば挙げられます。
チルトラップはその先にある派生で、SoundCloudやYouTubeのチャンネル(例:Majestic Casual、TheSoundYouNeedなど)を通じて広まったと言えます。2010年代中盤から後半にかけて、フューチャーベースやローファイ、アンビエントの要素を取り込むプロデューサーが増え、結果として“メロウで夢見心地なトラップ”が一ジャンルとして定着しました。
音楽的特徴とサウンド・デザイン
- テンポ感: BPM自体はトラップと同様に60〜75 BPM(ダブルタイム表記で120〜150)あたりであることが多いが、ビートの強さは抑えめで、ゆったりとしたグルーヴを重視する。
- キック/808: 低域はしっかりと確保されるが、サブベースのトーンは柔らかく、エンベロープを短くしたりフィルターを掛けて温かみを出すことが多い。
- ハイハット/フロウ: トラップ特有のハイハットロールやトリプレットは活用するが、極端なアクセントやノイズ成分を抑え、滑らかなレガート感を演出する。
- メロディとコード: パッド、ピアノ、エレクトリックピアノ、シンセパッドなどがメイン。ジャジーなコードやシンプルな進行を用いてリラックス感を作るのが一般的。
- ボーカル処理: ボーカルチョップやピッチシフティング、リバーブ/ディレイによる空間演出が多用される。しばしば歌詞よりもフレーズのテクスチャー化が重視される。
- 空間表現: リバーブとディレイを深めに使い、広がりと浮遊感を作る。サイド成分の拡大やマルチバンドの空間処理で立体感を出す。
制作の具体的テクニック
以下はチルトラップ制作でよく使われる実践的なテクニックです。
- サブベースのEQとサイドチェイン: 808をしっかり効かせつつもボーカルやパッドの邪魔をしないように、キックに合わせたソフトなサイドチェインを用いる。サブ域のEQで不要な倍音を落とす。
- ハイハットのグルーヴ形成: ハイハットは細かい16分/32分ロールを入れつつ、ベロシティやタイミングに微妙なランダムさ(ヒューマナイズ)を加え、機械感を和らげる。
- ボーカルチョップの作り方: 短いボーカルフレーズを切り貼りしてピッチやフォルマントを変え、リバーブとディレイで空間へ溶かす。サイドチェインやコンプでビートとの馴染みを作る。
- テクスチャーの重ね合わせ: フィールドレコーディング(雨音、街音、アナログ機器のノイズ)を低音量で重ね、温度感やリアリティを付与する。
- アレンジの余白: チルトラップは“鳴らしすぎない”ことが重要。ブレイクやサビで一時的に音数を絞り、戻ったときに印象を強めるなどダイナミクスを大切にする。
ミキシングとマスタリングの留意点
チルトラップはリスニングやBGM用途で再生されることが多いため、ミックスでも“心地よさ”が最優先されます。低域は濁らせずに存在感を保ち、中域はボーカルやメロディが心地よく届くように帯域整理を行う。リバーブやディレイはプリ/ポストフィルターで不要な低域をカットし、ステレオイメージは広げすぎないほうがカフェやヘッドホン再生で疲れにくい結果になります。
用途とリスニングシチュエーション
チルトラップは集中して作業する際のBGM、通勤・通学中のリラックスタイム、カフェやラウンジのバックグラウンドミュージックなど、“ながら聴き”の領域で支持されます。また、映像作品のBGMやCM音楽にも適しており、軽やかな感情表現を音で演出するのに向いています。
代表的なプロデューサーとリスナーにおすすめの楽曲
ジャンル境界が曖昧であるため「このアーティストはチルトラップの代表」と断言するのは難しいですが、以下はチルトラップ的な要素を多く持つプロデューサーや参考になるサウンドの例です(ジャンル横断的に聴かれることが多い点に留意してください)。
- Flume、ODESZA、Mura Masa: メロディックでアンビエントなエレクトロニック・プロダクションにトラップ由来のビート感を取り入れている。
- Petit Biscuit、San Holo: ポップ寄りのメロディーとエレクトロビートを融合させた作品が多く、チルトラップ的な雰囲気を持つ楽曲がある。
- サウンドクラウド/YouTubeのインディープロデューサー群: SoundCloudやYouTubeチャンネル(Majestic Casual等)で発掘されるトラックは、チルトラップの感性に近いものが多い。
シーンの広がりと配信/プレイリスト文化
チルトラップはプレイリスト文化と非常に相性が良く、SpotifyやApple Musicの「chill」系や「lofi / chill」プレイリスト、YouTubeの24時間配信チャンネルなどで消費されることが増えています。インターネット上での発見が中心で、SNSや短尺動画(TikTok等)でフックとなるメロディやボーカルチョップがバイラル化する事例も見られます。
批評的な視点と今後の展望
一方でチルトラップは「個性の薄さ」や「似通った音作り」が指摘されることもあります。ジャンルとして成熟するには、より独自の音楽語彙や地域性、表現の多様化が求められるでしょう。技術面ではAIやジェネレーティブ音楽の導入、ハイブリッドなアコースティック×エレクトロの試みなどが今後の潮流として注目されます。
まとめ:チルトラップの魅力
チルトラップは、トラップ由来のリズム的な魅力とアンビエント/メロディックな音響美を結びつけたジャンルです。制作面では音作りの繊細さや空間表現の巧みさが求められ、リスナーにとっては「集中しやすく、気分の切り替えにも使える」柔らかい音楽体験を提供します。ジャンルの輪郭はあいまいですが、その柔軟性こそがチルトラップの強みでもあります。
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参考文献
- Trap music — Wikipedia
- Trap (EDM) — Wikipedia
- Harlem Shake (song) — Wikipedia (Baauer)
- SoundCloud (楽曲発掘プラットフォーム)
- Majestic Casual — YouTube チャンネル
- Splice — How to Make Trap Beats(制作ガイド)
- iZotope — What is Trap Music?(解説記事)
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