紹介予定派遣とは?メリット・注意点・導入の実務完全ガイド(人事・転職者向け)
はじめに — 紹介予定派遣(しょうかいよていはけん)とは
紹介予定派遣は、派遣労働者を一定期間、派遣先企業で働かせたのち、派遣期間終了後に派遣先と派遣労働者の双方が合意すれば直接雇用(正社員または契約社員等)に切り替えることを前提とした雇用形態です。労働者派遣法に基づく制度であり、採用ミスマッチを減らすための「試用期間付き採用」の仕組みとして広く活用されています。
制度の仕組み(当事者と役割)
- 派遣会社(派遣元): 労働者と雇用契約を結び、雇用保険や社会保険の手続き、賃金支払いなどを担当します。派遣先との契約に基づき、労働者を派遣します。
- 派遣先企業: 実際の業務指示を行い、採用の可否を評価します。派遣期間終了後、直接雇用(採用)するかどうかを判断します。
- 労働者(派遣社員): 派遣元に雇用されつつ、派遣先で働き、勤務実績や適性が評価されます。
重要なのは、紹介予定派遣の期間中は法的には派遣元が雇用主であり、直接雇用は派遣期間終了後に派遣先と労働者の合意で成立する点です。
派遣期間の設定と実務上の運用
紹介予定派遣の派遣期間は、通常は数週間〜6か月程度を設定することが一般的です。企業の業務や職種、合意内容によって短期(1〜3か月)や長期(6か月近く)まで幅があります。派遣期間中に、職務適性・スキル・職場の相性・労働条件などを総合的に評価します。評価基準や評価スケジュールは派遣元・派遣先で事前に取り決めておくことが望ましいです。
メリット — 求職者(派遣社員)側)
- 実働で職場を見極められる: 書類面接だけでは分からない職場文化や業務内容を実際に体験できる。
- ミスマッチの低減: 双方が合意する形での直接雇用のため、入社後の早期離職リスクが下がる。
- 短期でのキャリア選択: 正式採用に至らなかった場合でも、派遣期間で得た経験やネットワークを活かせる。
メリット — 企業(派遣先)側
- 採用リスクの低減: 採用前に実務能力や職場適応力を確認できる。
- 採用コストの効率化: 不適合だった場合は直接採用によるコストを削減できる(ただし派遣手数料等は発生)。
- 短期間での人員補填が可能: 採用決定までの即戦力が必要な場面で有効。
注意点・リスク(求職者)
- 雇用の不確実性: 派遣期間終了後に必ず採用される保証はない。また、採用条件(雇用形態・給与など)が面接時の想定と異なる可能性がある。
- 待遇・権利の確認: 派遣期間中の賃金、社会保険加入状況、有給休暇の取り扱い等は派遣元との契約内容を確認すること。
- キャリアの観点: 派遣期間が短期間で切れると職歴に空白が出る場合があるため、履歴書の記載方法等を事前に検討する。
注意点・リスク(企業)
- 評価バイアスの可能性: 短期間で本来の能力を発揮できないケースもあるため、評価方法や業務アサインの慎重な設計が必要。
- 法的・契約的リスク: 労働条件や雇用推進プロセスに関して派遣元との契約を正しく整備しないとトラブルになる。
- コスト面: 派遣手数料や入社に至らなかった場合のリプレースコストを織り込む必要がある。
導入の実務ポイント(契約書・評価・コミュニケーション)
- 事前合意書の明確化: 派遣期間、業務内容、評価項目、評価時期、報酬(派遣期間中の賃金)、社会保険の扱い、採用後の待遇などを文書で明確にする。
- 評価基準の共通化: スキル要件、定量・定性評価項目、評価者(上司)の訓練を行い評価のブレを減らす。
- 定期的なフィードバック: 派遣元・派遣先・派遣社員の三者で定期的な面談を設け、早期にギャップを是正する。
- 採用合意のプロセス: 派遣期間終了時の採用通知・雇用条件提示のタイムラインを予め定める。
給与・社会保険・雇用保険の取り扱い
派遣期間中は、派遣元が雇用主として給与支払いや社会保険の手続きを行います。社会保険加入(健康保険・厚生年金)は勤務時間等の基準を満たす場合、派遣元が手続きします。雇用保険についても法定どおりの取り扱いです。不明点は派遣元に必ず確認し、就業条件を書面で受け取っておくことが重要です。
直接雇用に至らなかった場合の流れ
派遣期間終了時に派遣先が採用を行わない判断をした場合、派遣契約に従って派遣元が雇用関係を整理します。派遣元が別の派遣先に紹介する場合もありますし、派遣契約満了で退職となるケースもあります。労働者は派遣元と相談のうえ、次の就業先を探すことになります。
導入企業向けチェックリスト(実務)
- 業務要件を職務記述書(JDS)として明確化する。
- 評価期間・評価基準を数値化し、面接や業務で確認すべき行動指標を設定する。
- 派遣元との契約で採用プロセスや手数料、秘密保持等を明記する。
- 派遣社員に対する職場受け入れ体制(担当メンター・OJT計画)を整える。
- 採用後の条件(給与・福利厚生・雇用形態)をあらかじめ社内で決めておく。
求職者(派遣社員)向けチェックリスト
- 派遣元から就業条件説明書を必ず受け取る(賃金、就業時間、休暇、社会保険の加入状況など)。
- 評価の観点・評価タイミングを派遣先・派遣元に確認する。
- 派遣期間中に質問や不安が出たら早めに派遣元に相談する。
- 直接雇用になった場合の条件は文書で受け取るよう依頼する。
よくある質問(Q&A)
- Q: 採用されない場合、派遣期間中の実績は次の就職に活かせますか?
A: はい。具体的な業務経験や習得したスキルは次の職探しで有利になります。派遣元に実績の書面化を依頼することも可能です。
- Q: 紹介予定派遣中に派遣先から直接雇用を打診されたらどうする?
A: 基本的には派遣期間終了後に直接雇用契約を結びますが、派遣元との契約に基づいて手続きを進めます。早期採用の合意が出た場合は派遣元を介して条件調整を行うのが一般的です。
- Q: 採用後の条件(給与など)を事前に交渉できますか?
A: はい。派遣期間中に自身の貢献を示しながら、採用条件について派遣先と派遣元を通じて事前に確認・交渉しておくことを推奨します。
導入成功のためのポイントまとめ
- 事前に明確な職務要件と評価基準を設けること。
- 派遣元・派遣先・派遣社員の三者間で定期的なコミュニケーションを行うこと。
- 評価結果は数値とコメント双方で残し、透明性を保つこと。
- 採用合意の手順やタイムラインを明確にし、双方の期待値をすり合わせること。
おわりに
紹介予定派遣は、両者にとって採用のミスマッチを避ける有効なツールです。ただし、正しく運用するには契約の整備、評価基準の設計、三者間の綿密なコミュニケーションが不可欠です。人事戦略の一環として導入を検討する際は、法令遵守と実務運用の両面で準備を進めることをおすすめします。


