サンバの起源と進化:歴史・楽器・カーニバル・現代の潮流を徹底解説

はじめに

サンバはブラジルを象徴する音楽ジャンルであり、カーニバルと深く結びついた文化現象でもあります。その起源はアフリカ系ブラジル人のリズムと踊りにあり、20世紀初頭から都市部で発展してきました。本稿では歴史的背景、音楽的特徴、代表的な楽器、エスコーラ(サンバ学校)とカーニバルにおける役割、主要な系統と地域差、ダンスや社会的意味、そして現代の国際的広がりまでを、できるだけ正確に、かつ深掘りして解説します。

起源と歴史的背景

サンバのルーツは、アフリカから連れて来られた奴隷たちが持ち込んだ打楽器奏法や呼びかけ応答(コール・アンド・レスポンス)、循環的なリズムパターンにあります。これらはブラジルの各地で先住民音楽やポルトガル系の旋律的要素と混ざり合い、地域ごとの変種を生み出しました。特にバイーア(Bahia)地域の『サンバ・デ・ホーダ(samba de roda)』は、アフロ・ブラジリアンの儀礼的・共同体的な性格を色濃く残しています。

都市文化としてのサンバが形成されたのは主に19世紀末から20世紀初頭のリオデジャネイロで、旧奴隷コミュニティや労働者階級の集まる地区で演奏されるようになりました。しばしば最初の著作権が登録された曲として挙げられるのは、1916年に登録されたエルネスト・ドス・サントス(通称ドンガ)による『Pelo Telefone』で、これが“最初の商業的に認知されたサンバ”とされることがあります。

1920〜30年代にはレコード産業の普及とともにサンバは都市文化として拡大し、詩情を重視した作曲家(サンバ・カンソンやショーロなどと関連)や、コミュニティ単位で組織されるエスコーラ(escola de samba=サンバ学校)が出現しました。第二次世界大戦後には国家的アイデンティティの象徴としての位置づけも進み、カーニバルが国家的な大規模イベントへと変容しました。

楽器とリズムの特徴

サンバは打楽器アンサンブル(バテリア)を中心に構成され、複雑な陰影を持つポリリズムが音楽的核です。一般に用いられる主要な楽器とその役割は次の通りです。

  • スルド(surdo): 低音のバスドラム。拍の重心を支え、バテリア全体のテンポとグルーヴを作る。
  • レピニキ(repinique): 高音域の小太鼓で、指揮やコールを担当。バテリアの合図やソロが担われる。
  • カイシャ(caixa): スネアドラムに相当し、細かいスネアロールやスナップでリズムを引き締める。
  • タンボリム(tamborim): 手で叩く小さな円盤状の太鼓。非常に鋭いアクセントやシンコペーションを生む。
  • パンデイロ(pandeiro): タンバリンに似たフレームドラムで、メロディックかつリズミックな装飾を行う。
  • クイーカ(cuíca): 摩擦式の摩擦音を発するユニークな楽器で、笑い声のような表情豊かな音色が特徴。
  • アゴゴ(agogô)やレコレコ(reco-reco)、ガンザ(ganzá)などの打楽器類: 細かな連続音や装飾的なリズムを補う。
  • カヴァキーニョ(cavaquinho)やギター(violão)、セブンストリング・ギター: 和音やベースライン、メロディの支持を行う弦楽器。

リズム的には一般に2/4拍子で表記されますが、内部では複数の対立するパターンが同時に進行するため、非常に豊かなシンコペーションと推進力が生まれます。バテリアの各楽器は明確な役割分担を持ち、異なる周期のフレーズが組み合わさって“サンバのグルーヴ”を形成します。

エスコーラ(サンバ学校)とカーニバルの構造

サンバ学校は単なる音楽団体ではなく、地域コミュニティの社会的・文化的核です。メンバーは通年で練習や制作に携わり、衣装、山車、ダンス、楽曲(サンバ・エンレード=行進曲)を組み合わせて毎年のカーニバルに向けた壮大な物語(エンレード)を作り上げます。

リオデジャネイロのカーニバルでは、エスコーラのパレードは審査対象となり、音楽性、衣装、美術、ストーリーテリング、バテリアの一体感などが採点されます。1984年に建設されたサンボドロモ(Sambódromo Marquês de Sapucaí)は、これらのパレードを観客に見せるための専用会場であり、現在も世界で最も有名なカーニバル会場の一つです。大会運営組織(リガス=Ligaなど)はパレード順や採点方式を管理し、優勝を巡る競争は非常に激しいものです。

サンバの系統と地域変種

サンバには多様なスタイルが存在し、それぞれ地域や歴史的背景によって色合いが異なります。主要な系統を挙げると:

  • サンバ・デ・ホーダ(samba de roda): バイーア地方を中心とする伝統的な形式で、踊りと歌、手拍子と打楽器が一体となるコミュニティの儀礼的な音楽。
  • サンバ・エンレード(samba-enredo): エスコーラのパレードで演奏される行進曲。分かりやすいメロディと掛け声で群衆を盛り上げる。
  • サンバ・カンソン(samba-canção): 20世紀中盤に登場した、歌詞や情緒を重視する緩徐なサンバ。MPB(ブラジリアンポップ)との接点も強い。
  • パルチード・アルト(partido alto): 即興的なコール&レスポンスと詩的な競演が特徴で、リズム的な自由度が高い。
  • サンバ・レゲエ(samba-reggae): バイーアの影響を受けた1970〜80年代の新しい担い手で、レゲエやアフロビートの影響を融合させた強靭なビートが特徴。オロドゥム(Olodum)などのグループで知られる。
  • サンバ・ロック/サンバ・ファンクなど: ロックやファンクと融合した近年の派生スタイル。

ダンスとパフォーマンス

サンバにはソロ向けの『サンバ・ノ・ペ(samba no pé)』、社交ダンス的な『サンバ・デ・ガフィエイラ(samba de gafieira)』、そしてサークル形式の『サンバ・デ・ホーダ』など、複数のダンス形態があります。カーニバルで見るのは主に短いフィートワークと高いヒールや羽飾りを伴うサンバ・ノ・ペで、表現性とショーマンシップが重視されます。一方でガフィエイラはパートナーで踊るタンゴに近い社交ダンスとして発展しました。

社会的・政治的役割

サンバは単なる娯楽を超え、ブラジル社会の階層・人種・地域の問題を映す鏡でもあります。エスコーラはしばしば地域の若者への教育や職業訓練、社会福祉の場として機能し、差別や排除に対する抵抗の表現としても用いられてきました。また、歌詞やテーマで歴史や社会問題を扱うことで、コミュニティの声を広く訴えるプラットフォームにもなっています。

国際化と現代の潮流

20世紀中盤以降、映画やラジオ、レコード、そして近年のデジタル配信を通じてサンバは国際的に広まりました。ミュージシャンやダンサーが欧米やアジアに招かれる機会も増え、ジャズやポップ、エレクトロニカなどとの融合による新しい表現が生まれています。ボサノヴァはサンバのリズムをジャズ的感性で洗練させたもので、ジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンらによって世界的な評価を得ました。

同時に、伝統的なサンバを守る動きも活発です。地域のサンバ・デ・ホーダは2005年にユネスコの無形文化遺産に登録されるなど、文化遺産としての価値が国際的にも認められています。

学ぶ・聴く・体験するためのポイント

  • 基礎リズムを体感する:スルドの重心とタンボリムのシンコペーションを身体で感じることが重要です。
  • バテリアの各楽器を理解する:役割を知ることでアンサンブルの仕組みが見えてきます。
  • 地域差を聴き比べる:リオ、サルバドール、サンパウロなどで演奏されるサンバには特色があります。
  • カーニバルの映像やパレード録音を観る:エスコーラの表現力や構成の巧妙さが学べます。

結論

サンバはリズム、踊り、共同体的実践が一体となった複層的な文化です。歴史的にはアフリカの影響を強く受けつつ、ブラジルという多文化環境の中で絶えず変容・拡張してきました。カーニバルに象徴される祝祭性と、日常生活の中で育まれるコミュニティ性の双方を持ち合わせているため、音楽としてだけでなく社会学的・文化人類学的に見ても非常に興味深い対象です。現代においては伝統の保存と国際的な創造性の両立が課題であり、今後も多様な展開が期待されます。

エバープレイの中古レコード通販ショップ

エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

エバープレイオンラインショップのバナー

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery

参考文献