ラインアレイスピーカー完全ガイド:原理・設計・導入のポイント
ラインアレイスピーカーとは
ラインアレイスピーカー(ラインアレイ)は、縦方向に複数の同一または類似のスピーカーユニットを等間隔で並べて構成される音響システムの一種です。コンサート、野外フェスティバル、劇場、スタジアムなどで長距離にわたり均一な音圧分布と指向性を得るために広く用いられています。一般的にモジュール化されたキャビネット群を上下に連結して“垂直方向の線状音源”を形成します。
基本原理:点音源と線音源の違い
音源の放射挙動は、音波の波長に対する音源の大きさによって大きく変わります。理想的な点音源は全方向(球面)に音を放射し、距離が倍になると音圧は約6 dB低下します(逆二乗則)。一方、理想的な無限長の線音源では、音の減衰は距離の一次関数に従い、距離が倍になったときの音圧低下は約3 dBにとどまります。ラインアレイはこの“線音源的な挙動”を有限長のアレイで実現し、中・遠距離に渡って減衰を緩やかにすることで長射程での均一な音圧を可能にします。
周波数依存の指向性とアレイ長の関係
ラインアレイの指向性は周波数によって変わります。低域では音波の波長がアレイ全長に比べて長く、アレイ全体が単一の点音源のように振る舞うため指向性は得られにくいです。逆に高域では波長が短くアレイの物理長に比べ小さくなるため、強い指向性(狭いビーム幅)を示します。一般に“有効アレイ長(音が整合的に放射される長さ)”が長いほどビームは細くなり、投射距離は伸びます。
ユニット間隔とグレーティングローブ(回折)
アレイを構成する単位ユニット(モジュール)間の間隔は、望ましくない副放射(グレーティングローブ)を防ぐ上で重要です。高域でのグレーティングローブを回避するためには、ユニット間のセンター間隔がその周波数における半波長(λ/2)以下であることが望ましいとされます。実務では、高域を補うホーンや波導(waveguide)設計、デジタル処理による補正などを組み合わせて実用化しています。
ビームフォーミングとDSP処理
近年のラインアレイは各ユニットにアンプとDSPを内蔵するアクティブ方式が主流です。DSPは遅延(ディレイ)と振幅制御を用いて垂直方向の放射パターンを設計(ディレイシェーディング)し、指定した聴取エリアに音圧を集中させたり、フリンジを低減したりできます。さらにFIR/IIRフィルタによる位相整合、イコライズ、ミニマイズド・リフレクションなどの補正をリアルタイムで行い、空間に応じた最適化が可能です。
物理的設計:モジュール設計とスプレイ角
ラインアレイは多数のモジュールを連結するため、個々のキャビネット形状、ユニット配置、波導形状、重量配分、リギング(吊り構造)が重要です。モジュール間の“スプレイ角”を変えることで垂直方向のカバレッジを形成します。会場の前方は狭い角度で遠投、近接は大きな角度で広いカバレッジを狙う“カーブ(アレイセグメント)”を調整するのが一般的です。安全面では荷重・トルク計算、ブロック耐力、風荷重なども考慮する必要があります。
サブウーファーとの連携と低域制御
ラインアレイ単体では低域の指向性制御に限界があるため、低域は専用のサブウーファー群で補います。低域の指向性を制御する方法としては、カーディオイドサブ(前方に多く、後方を抑える配置)、エンドファイヤーアレイ(位相を利用して指向性を作る)、スタックまたはフローン(地面反射を利用)などがあります。低域の相互作用(位相・タイムアライン)を正確に行わないと、ある周波数帯で打ち消しが発生してしまうため、DSPでの整合が不可欠です。
音響測定とシステム最適化
実運用では、測定機器(測定マイク、RTA、Smaart、FledermausやEASEなどのシミュレーションツール)を用いて周波数特性、位相特性、指向性を確認しながら調整します。重要なのは単一ポイントでの最大SPLではなく、会場内の複数ポイントでの均一なSPLとインパルス応答(残響時間や反射遅延)を追い求めることです。インパルス応答を利用したFIR補正や遅延調整、フィールド測定に基づくEQカーブ適用が有効です。
利点と限界
- 利点:長距離での均一な音圧分布、指向性による不要な反射の抑制、遠方での高SPL確保。
- 限界:低域の完全な指向性制御は困難で、システムが大掛かりでコストと設置の難度が高い。誤った配置や調整で位相のキャンセルが生じやすい点。
導入上の実務ポイント
- 会場解析から始める:観客エリアの寸法、障害物、天井形状、反射面を把握すること。
- カバレッジの設計:目標となる垂直・水平のカバレッジ角を設定し、モジュール数とスプレイ角を決定する。
- 現場での測定とチューニング:設置直後に複数ポイントで測定し、DSPで遅延・EQを調整する。
- 安全管理:フライング時の荷重計算、ブリッジやトラスの許容荷重、風速制限などを厳守する。
運用事例と注意点
スタジアムや屋外フェスでは、ラインアレイの長尺アレイを高くフライングして遠距離まで音を届かせます。屋内劇場では反射を抑えつつ前方席と後方席を均一にカバーするために短めのアレイと精密な遅延制御を用います。小規模現場ではラインアレイの利点が活きない場合もあるため、インストール環境と必要性能を見極めて選択することが重要です。
将来のトレンド
DSPの高性能化と計算能力の向上により、より精密なビームフォーミング(水平・垂直両面での能動的指向性制御)、自動チューニング、マルチポイント最適化が進んでいます。小型・軽量化したモジュールや高効率アンプ技術、複合材料の採用により、運搬性と耐久性も改善されています。さらに、会場内の音響情報をリアルタイムにフィードバックして自動補正するようなシステムも普及しつつあります。
まとめ:成功するラインアレイ運用の鍵
ラインアレイは強力なツールですが、正確な物理理解と綿密な設計・調整がなければ期待した性能は得られません。周波数依存の指向性、ユニット間隔、DSPによる遅延・位相制御、低域の設計、そして現場での測定と反復チューニングが成功の鍵です。導入前にシミュレーションと現場計測を組み合わせ、技術的な余裕を持ったシステム設計を行ってください。
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参考文献
- Line array — Wikipedia
- L-Acoustics — Technology & Knowledge
- Meyer Sound Laboratories — Technical Resources
- d&b audiotechnik — Product & Technology
- Audio Engineering Society (AES) — E-Library
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