ドゥヌンバ(Dununba)徹底解説:構造・奏法・文化的背景から選び方と手入れまで
ドゥヌンバとは何か — 用語と概念の整理
ドゥヌンバ(dununba、doundounba、dunun などの表記揺れあり)は、西アフリカ、特にマンデ(マリ、ギニア、セネガル周辺)の打楽器アンサンブルにおける大型の低音ドラムを指します。一般に「ドゥヌン(dunun/doundoun)」と総称される胴太の横置き太鼓群の中で、最も低音域を担うものがドゥヌンバ(dununba)です。
しばしば「ドゥヌン」は3台編成(上から高音のケンケニ〈kenkeni〉、中音のサングバン〈sangban〉、低音のドゥヌンバ〈dununba〉)で用いられ、これらがベル(金属製の鐘)やジェンベ(djembe)の掛け合いと組み合わさって伝統的なリズムを形成します。
歴史と文化的背景
ドゥヌンバを含むドゥヌン一族の楽器は、マンデ系の社会で長く社会的・儀礼的な役割を果たしてきました。婚礼、出産、葬儀、農耕祭、戦勝の祝典、年中行事、ダンスの伴奏など、コミュニティの重要な場面で演奏されています。楽器とリズムは口承で伝えられ、特定のリズムは部族や村、家系に紐づくことがあります。
また「ドゥヌンバ」は楽器名であると同時に、力強さや男性的な踊りを象徴するリズム/ダンスの名前として使われることもあります。20世紀後半以降、西洋や世界音楽圏でもジェンベアンサンブルが普及する中で、ドゥヌンバの音色と演奏法も国際的に広まりました。
構造・素材:何でできているか
伝統的なドゥヌンバは次の要素で構成されます。
- 胴体:一本の原木をくり抜いた円筒形またはやや桶状の木製胴。現地ではアフリカ産の硬木が好まれます(種類は地域により異なる)。
- ヘッド(皮):通常は牛皮や山羊皮などの天然皮革。サイズが大きいドゥヌンバでは厚めの牛皮が使われることが多く、深い低音を得ます。
- 張り具・金具:伝統的にはロープや皮革紐を用いて張りを調整しますが、近年は金属製のターンバックル(テンショナー)を用いた機械的なチューニングが施される楽器も多いです。
- 付属品:演奏時にベル(金属製の打楽器)や革バッジ、装飾紐などが付けられることがあります。ベルはリズムのタイムライン(グルーヴ)を明瞭にする役割を果たします。
音響的特徴と調律
ドゥヌンバは低域の基音(低いドゥン音)を主に出すドラムです。胴の体積と皮の厚さにより低音の深さと余韻が決まり、ヘッドの張力でピッチを調整します。伝統的な方法ではロープの結び目を巧みに利用して張りを均等にし、演奏前後に微調整します。現代品はターンバックル式で安定したチューニングが可能です。
アンサンブルでは、ベルが刻む高音の周期(タイムライン)に対して、ドゥヌンバはワンと呼ばれる強拍を支え、サングバやケンケニが細かい装飾的なフィギュレーションを施します。この上下の音域と役割分担が、マンデ音楽特有のポリリズムを生み出します。
演奏法・テクニック
ドゥヌンバの演奏法の基本は以下の通りです。
- 配置:横向きに置かれ、演奏者は座っても立っても良い。多くの場合、胴は足元や専用の台に乗せられます。
- スティック:片手または両手にスティック(木製のバチ)を持って叩く。大きな低音を出すために太めで重いスティックが使われます。
- 基本的な打ち方:低音を狙って胴の中央部をまっすぐ打つ。アクセントやゴーストノートを加えてリズムにニュアンスを与える。時にヘッドの縁付近を叩いて打ち分けることもあるが、dununの設計上は中央寄りを叩いて低音を出すことが多い。
- ベルとのコンビネーション:ドゥヌンバはベルが刻む反復パターンに合わせてアクセントを取る。ベルのリズムはアンサンブルのテンポと構造を決めるため、ドゥヌン奏者はベルと密接に同期する。
アンサンブルにおける役割
ドゥヌンバはリズムの“土台”を担い、ダンサーやジェンベ奏者の基準となる拍を提供します。典型的な3台編成では:
- ドゥヌンバ(低音):大きなワンを打ち、楽曲全体の重心を作る。
- サングバ(中音):ドゥヌンバとケンケニの間で中核的リズムを繋げる。
- ケンケニ(高音):速いフィギュレーションや応答を担当し、装飾的なパターンを刻む。
これらがベルのタイムラインと重なり合うことで、マンデ系のポリリズムが完成します。特にドゥヌンバは“呼びの音”としてダンサーの動きや休符を促す役割も持ちます。
代表的なリズムとレパートリー
ドゥヌンバが使われるリズムや曲名は地域や民族によって多様ですが、共通して次のような場面で用いられます。
- 祝い事(結婚式、成人式など)に伴う活気あるダンス曲
- 労働歌や収穫祭などコミュニティを鼓舞する儀式音楽
- 戦いの勝利や力を誇示するための「力強い」ダンス(ドゥヌンバ自体がその象徴となる場合もある)
西洋の楽曲や現代音楽でもサンプリングや編曲を通してドゥヌンの要素が取り入れられることが増え、伝統的なレパートリーは新しい文脈で再解釈されています。
地域差・変種
マンデ文化圏内でも地方差が豊富です。たとえばギニア、マリ、コートジボワール、セネガルなどで形状や寸法、張り方、奏法に微妙な違いが生まれます。さらに西アフリカ以外でも、ディアスポラ(移民社会)を通じて楽器がローカライズされ、素材やセッティングが変化しています。
楽器の購入・選び方
購入時のポイント:
- サイズ(音域):目的が伝統演奏かワールドミュージック系の合奏かで適切なサイズを選ぶ。
- 素材:胴の木質感とヘッドの素材を確認。大きな低音を求めるなら厚めの牛皮と容量のある胴を選ぶ。
- 張り具合とチューニング方式:ロープ式は伝統的で音色の変化が大きい。ターンバックル式はメンテナンスが楽で安定する。
- 付属のスティックとケース:輸送や屋外使用を考えると、保護ケースや良質なスティックが付いていると安心。
手入れ・メンテナンス
長く良い音を保つために:
- 直射日光や極端な湿度変化を避ける。皮は湿度に敏感で、乾燥でひび割れ、湿気で弛みが生じる。
- 張りの微調整は少しずつ行う。急激なテンション変更は皮を痛める。
- 皮に栄養を与える専用のオイルやコンディショナーを使う場合は、素材に適したものを少量で行う。
- 亀裂や破れが出たらプロの職人に張替えを依頼する。胴のクラックも早めに補修すること。
学び方・上達のコツ
ドゥヌンバ演奏は耳で学ぶことが極めて重要です。効果的な学習法:
- 現地の録音や名演奏を繰り返し聴き、ベルや他のドラムとの関係性を体得する。
- 可能であればマンデ音楽に通じた師匠やワークショップに参加する。アンサンブル経験が上達を加速する。
- メトロノームや録音を使って基礎パターンを精度高く練習する。数小節のフレーズを正確に反復する習慣をつける。
- ダンサーやジェンベ奏者と合わせる練習を積み、呼吸やアクセントの合わせ方を学ぶ。
今日のドゥヌンバ:伝統から現代へ
グローバル化とワールドミュージック市場の発展により、ドゥヌンバは伝統的な儀礼の枠を越えて、教育、舞台芸術、ポピュラー音楽、音楽療法など様々な文脈で利用されるようになりました。楽器製作も職人技と工業的な加工が混在し、輸出向けや学生向けの安価で扱いやすいモデルも生まれています。
まとめ — ドゥヌンバを理解するための要点
ドゥヌンバは単なる低音ドラムではなく、マンデ社会のリズム体系と舞踊文化の中核をなす存在です。楽器の物理的特徴、アンサンブル内での役割、文化的背景を理解することで、演奏や選定、維持管理がより深い意味を持ちます。伝統を尊重しつつ、現代のコンテクストでも柔軟に使われることがドゥヌンバの魅力です。
参考文献
- Dunun - Wikipedia
- djembe | Britannica(ドゥヌンとジェンベの関係についての解説を含む)
- Smithsonian Folkways - West African drumming(関連録音や解説を検索)


