RFIDタグ徹底解説:仕組み・規格・導入ポイントとセキュリティ対策

はじめに:RFIDタグとは何か

RFID(Radio Frequency Identification)タグは、無線周波数を利用して物体の識別や追跡を行う自動認識技術です。バーコードと比べて非接触・複数同時読み取り・耐久性に優れるため、物流、製造、流通、医療、アクセス管理、電子パスポートなど幅広い分野で利用されています。本稿ではRFIDタグの基本構造、動作原理、周波数帯と規格、典型的な用途、導入時の実務的ポイント、セキュリティ上のリスクと対策、今後のトレンドまで詳しく解説します。

基本構造と動作原理

RFIDタグは大きく分けて「アンテナ」と「チップ(IC)」、およびタグ基材(ラベルやハウジング)で構成されます。タグの種類によっては内蔵バッテリを持つアクティブタグや、バッテリを持たないパッシブタグ、バッテリ補助のセミパッシブ(バッテリアシスト)タグがあります。

  • パッシブタグ:リーダーからの電波を受けて電力を得て応答する。コストが低く、耐久性やサイズ面で有利。近距離~中距離用途に多用される。
  • アクティブタグ:内蔵バッテリで自ら電波を送信できる。読み取り距離が長く、センサーやGPSなどの機能を併せ持つことが可能だが高価で大型。
  • セミパッシブ(BAP)タグ:内部バッテリで内部回路を稼働させつつ、通信はバックscatterなどで行う。センサー機能を低消費電力で実装できる。

動作原理は周波数帯により異なります。LF/HF帯(低周波/高周波)では主に誘導結合(近接結合)を用い、アンテナコイル間の磁界でエネルギーとデータをやりとりします。一方、UHF帯では電波の反射(バックscatter)を利用し、より長距離で高速通信が可能です。

周波数帯と代表的な特性

主な周波数帯と特徴は以下の通りです。

  • LF(低周波):約125kHz前後 — 金属や液体に比較的強く、動物のマイクロチップや車両アクセスで利用。読み取り距離は数センチ程度と短い。
  • HF(高周波):13.56MHz — NFC(近距離通信)はこの帯域の一部。図書館、スマートカード、電子パスポート、決済などで多用。読み取り距離は数センチ~1m程度(用途による)。
  • UHF(超高周波):おおむね860〜960MHz帯 — 物流向けの長距離読み取り(数メートルから十数メートル)が可能。アンテナ設計や環境の影響(特に金属・液体)を受けやすい。
  • マイクロ波帯(例:2.45GHzなど) — 特殊用途や一部の通信技術で利用されることがあるが、一般的なRFIDではLF/HF/UHFが主流。

周波数割当や送信出力の規制は地域ごとに異なるため、導入時は対象国の規制(周波数帯域、送信出力、チャンネル等)に従う必要があります。

主要な規格とプロトコル

RFIDには複数の国際規格が存在します。代表的なもの:

  • ISO/IEC 18000シリーズ:無線周波数空間でのRFID通信を規定するシリーズ(各周波数帯別にパートがある)。
  • EPCglobal / GS1(例:EPC Gen2、ISO 18000-6C):UHF物流用途で広く採用される規格。EPC(Electronic Product Code)体系に基づく識別が行われる。
  • ISO/IEC 14443・15693:13.56MHz帯の近距離カード向け規格。NFCはこれらの上位互換的な仕様や相互運用性を提供する事が多い。
  • NFCフォーラム:NFC機器間の相互運用性やデータフォーマット(NDEF)などを定義。

特にUHFのEPC Gen2は物流向けのデファクトスタンダードで、タグメモリの構造(EPC、TID、Userメモリ等)やアンチコリジョン(複数タグ同時読み取り)などが規定されています。

典型的な用途と事例

  • サプライチェーン・物流:パレットや個品の自動在庫管理、入出荷トレース。大量のアイテムを迅速に読み取れるUHFが多用される。
  • 小売:商品管理、セルフチェックアウト、防盗タグ。RFIDによる棚卸の効率化で労務削減が期待される。
  • 資産管理:医療機器、工具、IT資産などのトラッキング。タグに寿命や校正情報を持たせることができる。
  • アクセス制御・決済・パスポート:MIFARE系カード、NFC決済、電子旅券(ePassport)はHF帯の典型例。セキュリティ要件が高い分野である。
  • スマートシェルフ・IoT連携:温度センサー内蔵タグや動体検知タグを用いてサプライチェーンでの温度監視や状態監視を行う事例。

導入時の実務的ポイント

RFIDシステムはハードウェア(タグ、リーダー、アンテナ)、ソフトウェア(ミドルウェア、データベース)、業務プロセスが密接に関係します。注意点:

  • タグ選定:用途、読み取り距離、環境(金属・液体の有無)、取り付け場所、耐候性、コストを考慮。金属面用タグや液体近傍用の特殊タグもある。
  • リーダー・アンテナ配置:アンテナの向き、偏波、トンネルやゲート通過時の設計、複数アンテナの干渉対策を行う。現地でのフィールドテスト(サイトサーベイ)は必須。
  • 規格・データ設計:EPCや業務IDの付与ルール、データの永続性(履歴保持)やLAN/クラウド連携を設計する。
  • ミドルウェア:大量タグの読み取り結果を正規化・デデュープするためのミドルウェアと、ERP/WMS等との連携は重要。
  • コスト評価:タグ単価だけでなく、リーダー、アンテナ配備、インフラ、ソフトウェア、運用工数を含めたTCO(総所有コスト)で評価する。

セキュリティとプライバシーの課題

RFIDは無線通信であるため、盗聴(イーブスドロップ)、タグの複製(クローン化)、リレイ攻撃、スキミングなどのリスクがあります。主な対策:

  • 認証・暗号化:相互認証やタグ内データの暗号化(AESなど)を利用する。高セキュリティ用途ではDESFireやMIFARE DESFire EVx、ISO/IEC 29167(RFIDセキュリティ)等の採用を検討する。
  • アクセス制御:メモリ領域に読み取り/書き込みのパスワードやアクセス条件を設定する。『kill』コマンドでタグを無効化する機能を使える場合があるが、取り扱いは慎重に。
  • 物理的対策:屏蔽(フォイルケース、ファラデー袋)、タグ配置の工夫、ロック機構の併用。
  • 運用/法的対策:顧客や従業員に対するプライバシー通知、取得データの保持方針やアクセスログ管理を整備する。

実運用では、セキュアな鍵管理、定期的な脆弱性評価、既知の脆弱なタグ(暗号が弱い旧型MIFARE Classicなど)は避けることが推奨されます。

環境要因とパフォーマンス指標

RFIDの性能は環境に大きく影響されます。金属表面や水分はUHFの読み取りを阻害する一方で、LFはこれらの影響を受けにくい傾向があります。導入評価で重視する指標:

  • 読み取り率(Read rate)/読み取り成功率
  • 在庫棚卸スピード(Throughput)
  • 読み取り距離(実測値)
  • 誤検出(False positive)や見落とし(False negative)の発生率

実測テストを行い、業務要件(例えば、ゲートを通過するすべてのパレットを確実に読み取る等)を満たす調整が必要です。

コスト動向とタグ選択の目安

パッシブUHFタグは大量導入で数セント~数十セント台まで低下しており、用途と数量によっては非常にコスト効果が高くなります。HF/NFCタグは決済やカード用途での機能要件により価格帯が異なります。アクティブタグは数百円~数千円、センサー付きや特殊耐久仕様はさらに高価になります。選定時は単価だけでなく読み取り精度、寿命、取り付け工数、廃棄時の取り扱いも考慮してください。

導入事例の成功要因と失敗しやすいポイント

成功するプロジェクトは、初期段階で業務フローの再設計、現地フィールドテスト、ステークホルダーとの調整、計測基準の明確化、段階的な展開(パイロット→スケール)が行われています。一方、失敗例としてはタグやアンテナの選定不足、現地環境でのテスト不足、システム連携(ERP/WMSなど)を後回しにした点が多く見られます。

今後のトレンド

  • センサ統合タグ:温度、湿度、衝撃などのセンサーを内蔵したタグが増え、コールドチェーン管理や品質保証での利用が拡大。
  • 印刷型・フレキシブルRFID:低コスト化と薄型化により新しい用途が拡大。
  • IoT/ブロックチェーン連携:トレーサビリティや改ざん防止のためのクラウド連携、分散台帳との統合が進む。
  • ハイブリッド技術:UHFの長距離読み取りとNFCの近接セキュリティを組み合わせる等、用途に応じた複合ソリューションが増加。

まとめ:導入判断のチェックリスト

  • 業務要件(識別精度、読み取り距離、耐久性)を明確化しているか
  • 対象環境での現地試験(サイトサーベイ)を実施したか
  • 規格・セキュリティ要件(暗号、アクセス制御)を満たすタグを選定しているか
  • ミドルウェア/データ連携と運用体制(鍵管理、ログ、保守)を整備しているか
  • トータルコスト(タグ、リーダー、設置、運用)を評価しているか

参考文献