デシカント式除湿機の仕組み・メリットと選び方ガイド(冬場・低温に強い理由)
はじめに:デシカント式除湿機とは
デシカント式除湿機(デシカント除湿機)は、シリカゲルやゼオライトなどの吸湿性材料(デシカント)を用いて空気中の水分を取り除く機器です。日本で家庭用として流通している除湿機は一般に「冷凍式(コンプレッサー式)」が多い一方、低温や低湿環境での性能維持や細かい湿度コントロールが必要な用途ではデシカント式が有利になることがあり、近年再評価されています。本稿では仕組み、種類、冷凍式との比較、選び方、メンテナンス、実際の活用シーンまでを詳しく解説します。
デシカント式の基本的な仕組み
デシカント式除湿は「吸着(adsorption)」を利用します。空気を吸い込むと、吸湿材の表面に水分子が付着・吸着されて空気から水分が除去されます。吸湿材が水分で飽和したら、加熱(または別の回路での温度差)により吸湿材から水蒸気を放出(再生)し、その水蒸気を排気または凝縮して回収します。
代表的な構成要素は次の通りです。
- 吸湿材(シリカゲル、ゼオライト、分子ふるいなど)
- 吸着・再生を行うローター(回転式の「サープションホイール」)または固定式カートリッジ
- 吸気用ファンと再生用の加熱部(電気ヒーターなど)
- 水タンクまたは連続排水口、場合によっては再生空気の凝縮器
種類と動作方式
デシカント式にはいくつかの方式があります。用途と規模で使い分けられます。
- ローター(サープションホイール)式:回転する円盤状の吸湿材に交互にプロセス空気(除湿したい空気)と再生空気(加熱して水分を吹き飛ばす空気)が流れる。家庭用から業務用・産業用まで幅広く使われる連続式方式。
- カートリッジ/容器式:吸湿材を内蔵したカートリッジがあり、飽和したら取り出して加熱・乾燥させる、もしくは交換する方式。小型の携帯乾燥剤や一部の家庭用製品に見られる。
- 化学式(吸湿剤交換タイプ):塩化カルシウムなどを用いる使い捨て型の除湿剤も「デシカント(吸湿)」に分類されるが、ここで述べる電動式デシカント除湿機とは用途が異なる。
冷凍式(コンプレッサー式)との違い
冷凍式は、空気を冷却して露点以下にし、コイル上に結露させることで水を取り出す方式です。両者の特徴を比較すると次のようになります。
- 低温性能:デシカントは低温でも吸湿能が落ちにくく、氷点下や暖房をしない寒い部屋でも効果を発揮する。一方、冷凍式はコイルの霜取りや効率低下が起きやすく、一般に室温が15℃以下では性能が落ちる。
- 除湿可能下限湿度:デシカントは低相対湿度(低RH)まで乾燥可能で、例えば物品の乾燥や低湿環境が必要な用途で有利。冷凍式は相対湿度を極端に低くするのが苦手。
- 消費電力と効率:暖かく湿った条件では冷凍式の方が消費電力当たりの除湿量(効率)が良いことが多い。デシカントは再生のためにヒーターを使うため、同等の除湿量を得るには電力が大きくなる傾向がある。
- 排気・温風吹き出し:デシカントは再生過程で熱を発するため排気が温かくなる。暖房効果がある反面、夏季の居室での使用は暖房感が気になることがある。
- 騒音:両方式とも機種差はあるが、デシカントは加熱用ファンの音やローターの回転音がする。静音設計のものもある。
デシカント式のメリット
- 低温・低湿下でも除湿性能を維持できるため、冬季の結露対策や寒冷地の室内除湿に強い。
- 低相対湿度(例:40%台やそれ以下)にしやすく、カビ対策や精密機器・資料保存、木材乾燥などに向く。
- 冷媒(フロン/代替冷媒)を用いない機種では冷媒漏れリスクがないため環境面や設置自由度で有利。
- 吸湿材の特性を利用すれば非常に精密な湿度制御が可能な設計もある。
デシカント式のデメリット
- 一般に電力あたりの除湿効率は冷凍式より劣るため、ランニングコストが高くなる場合がある(温度・湿度条件に依存)。
- 加熱による暖かい排気が発生するため、夏場や暑い部屋での使用は不快に感じることがある。
- 吸湿材やローターは固着や汚れにより性能低下することがあり、適切なメンテナンスが必要。
購入時のチェックポイント(家庭用を想定)
購入前に見るべきポイントを挙げます。用途や設置環境に応じて優先順位を付けましょう。
- 除湿能力(L/日)と電力消費(W):同じ除湿量でも消費電力が変わる。商品説明の「消費電力当たりの除湿量(L/kWh)」や年間電気代の目安を確認する。
- 適用床面積/適用温度範囲:低温環境で使うなら「0℃対応」などの記載があるかを確認。
- 湿度設定の幅と精度:目標RHを細かく設定できるかどうか。資料保存や機器保護なら精密な制御が必要。
- 排水方式:水タンク、連続排水(ドレンホース)どちらか。長期運転や留守中に運転するなら連続排水が便利。
- 騒音(dB):居室で使うなら運転音をチェック。特に夜間や寝室使用時は重要。
- フィルターや吸湿材のメンテナンス性:フィルター掃除や吸湿材の交換・清掃が簡単か確認。
- 重量とサイズ:設置場所や移動のしやすさ。デシカントはヒーターやローターを備える分、筐体が大きくなる傾向がある。
日常の使い方・メンテナンス
性能を長持ちさせるための基本的な手入れと注意点です。
- フィルターの定期清掃:吸気フィルターにホコリがたまると吸湿能力が落ちる。メーカー推奨の頻度で洗浄・交換する。
- 水タンクやドレン経路の清掃:水タンク内やドレンホースに雑菌やヌメリが発生すると臭いの原因になるため、定期的に洗う。
- 吸湿材の点検:ローター式は一般に長寿命だが、ホコリや油分の付着で性能低下する場合がある。機種によっては交換が可能。
- 設置場所の留意点:熱や排気の影響を受けやすい場所(衣類や可燃物の近く)を避ける。十分な吸排気の余裕を確保する。
- 長期間使用しない場合:乾燥状態で保管し、ホコリが入らないようにする。可能なら取り扱い説明書に従った短時間運転で乾燥処理を行う。
よくある誤解とQ&A
- Q:デシカント式は電気代が必ず高いの?
A:条件による。低温条件では冷凍式が効率を落とすため相対的にデシカントの方が有利になる場合もある。暖かく湿った環境では冷凍式の方が効率的なことが多い。 - Q:デシカントは火事の危険がある?
A:内部に電気ヒーターを用いるため設置やメンテナンスを誤るとリスクはあるが、メーカーの安全基準を満たす設計になっている。可燃物の近くに置かない、通風を塞がないなどの基本を守ることが重要。 - Q:冷凍式より寿命が短い?
A:吸湿材やローターの劣化は使用状況次第である。適切なメンテナンスを行えば長期間安定して使える機種も多い。
実際の活用シーン
- 寒冷地や冬季の結露対策:窓ガラスや壁の結露を抑えカビ発生を防ぐ。
- 物品・資料の保存:美術品、書類、楽器、精密機器など湿度管理が重要な保存環境。
- 衣類・靴の乾燥:浴室や狭い室内での衣類乾燥を行うモデルもある(ただし暖かい排気に注意)。
- 産業・業務用途:塗装ブース、薬品・半導体製造など低湿が求められる工程。
まとめ:どんな人に向いているか
デシカント式除湿機は、寒冷地・冬季・低相対湿度での運用や、精密な湿度管理が必要なケースに向きます。家庭での選択では、使用する季節や設置場所、目標とする湿度レベル、ランニングコストの許容範囲を踏まえて冷凍式と比較検討するとよいでしょう。どちらの方式にも一長一短があるため、用途に合わせた最適な機種選びが重要です。
参考文献
- Desiccant dehumidifier - Wikipedia
- U.S. Department of Energy: Dehumidifiers
- ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)(湿度管理・除湿理論の専門情報源)


