Hammond B-3徹底解説:仕組み・サウンド・歴史・メンテナンスとレズリーの使いこなし方
はじめに — なぜB-3は特別なのか
Hammond B-3(以下B-3)は、20世紀後半のポピュラー音楽において最も象徴的な電子オルガンの一つです。ジャズ、ゴスペル、ブルース、ロック、ファンク、ソウルなど幅広いジャンルで独自の存在感を放ち、今なおスタジオやステージで愛用されています。本稿ではB-3の歴史、内部構造、演奏表現(ドローバー、パーカッション、ビブラートなど)、レスリースピーカーとの関係、代表的な奏者や録音・マイキング、現代におけるクローンやメンテナンスの要点まで、できる限り詳しく掘り下げます。
歴史的背景とモデルの位置づけ
Laurens Hammondと技術者John M. Hanertが開発した初期のHammondオルガンは1935年に登場しました。B-3はその後継機のひとつとして1954年に発売され、同年にC-3などのモデルもラインナップされました。B-3は内部機構(トーンホイール・ジェネレーターやドローバー操作系)を重視したスタイルで、1974年頃まで製造され続け、以後も中古市場やステージで高い需要を保ちました。1980年代以降、Hammondブランドは時代の変化に合わせてデジタル化・再販路を経て復活しており、現代のモデルやエミュレーションはB-3の音色を模した設計を特徴としています。
仕組み — トーンホイールと発音の核心
B-3のサウンドの核は「トーンホイール・ジェネレーター」です。複数(伝統的には91個とされる) の金属製トーンホイールがモーターで回転し、それぞれのトーンホイールに対して固定されたコイル(ピックアップ)が電磁誘導により交流信号を生成します。これら基本波形を組み合わせることで、管楽器やパイプオルガンとは異なる太く独特な倍音構造を作り出します。トーンホイールは機械的・電気的に安定している反面、経年により軸受や接点の摩耗、潤滑油の劣化が発生し、これが音色変化やトラブルの原因になります。
ドローバー操作と音色設計
B-3のフロントパネルに並ぶドローバーは、オルガニストがリアルタイムで倍音構成をコントロールするためのインターフェースです。各ドローバーは特定のフットエイジまたは倍音に対応しており、引き具合で音量比を変えて音色を作ります。ドローバーの組み合わせはプリセット的なコードではなく手動で無限の音色変化を生み、ジャズのウォームなパッド、ファンクのカッティング、ロックのリード的サウンドまで幅広く対応します。
パーカッションとビブラート/コーラス
B-3には「ハーモニック・パーカッション」と呼ばれる機能があり、アタックに短いアタック成分(通常は2倍音や3倍音等)を加えることで音の立ち上がりを際立たせます。これによりリード的なフレーズが強調され、音楽的な表現範囲が広がります。また、内部にはビブラート/コーラス回路が搭載され、これをオンにすると微妙なピッチ変動(ビブラート)や倍音の広がり(コーラス)を得られます。これらはレスリースピーカーと組み合わせることで、よりダイナミックな揺れと空間感を生みます。
レスリースピーカーとの関係 — 回転が作る空間表現
B-3の音を語る上でレスリースピーカー(Leslie)はほぼ不可分です。レスリーは回転するホーンとロータリードラムを備え、ドップラー効果と位相変化により独特の揺れとステレオ感を生み出します。レスリーは通常「スロー(Chorale)」と「ファースト(Tremolo)」の二段階切替があり、演奏の緊張感やスイング感を瞬時に変化させられます。スタジオではホーン側とバスドラム側を別々にマイキングして立体的に録るのが定石で、適切なマイク選択と距離がサウンドの決め手になります。
代表的な奏者と名演
B-3を象徴する奏者にはジャズのJimmy Smith(B-3をソロ楽器化した先駆者)、ゴスペルとR&BでのBooker T. Jones、ロックでのJon Lord(Deep Purple)、ファンク・ソウル系のBilly PrestonやBooker T. & the M.G.'sのような存在が挙げられます。近年ではJoey DeFrancescoやLarry Youngなど、B-3サウンドを現代に継承・発展させるプレイヤーも多数います。各奏者はドローバーの引き方、ペダルの使い方、レスリーのスピードコントロールを駆使して個性的な語り口を作り上げました。
録音・ライブでの使い方とマイキング
ライブではレスリーをそのままステージに置くことが多く、会場音響との相互作用を考慮する必要があります。スタジオ録音では一般にホーン(高域)側にコンデンサやリボン、低域ドラム側にダイナミックを使うことが多く、ステレオ感を得るために左右に分けた録り方が推奨されます。マイクの距離と角度で回転の位相差やモアレ感が変わるため、微調整が重要です。エフェクトは通常最小限に留め、オルガン本来の倍音構造とレスリーの揺れを活かすのが定石です。
メンテナンスと修理の要点
トーンホイール機構、モーター、接点(キーコンタクト)、ドローバー・スライダー、レスリーのベルトや軸受は経年劣化しやすい箇所です。典型的なメンテナンス項目は潤滑(適切なオイルやグリースの使用)、接点クリーニング、モーターの整備、ドローバーの清掃、さらにはトーンホイールのバランス確認や整列です。多くの修理は専門家や経験あるテクニシャンに依頼するのが安全で、DIYで手を入れる場合は電源や高電圧部(旧型の回路には高電圧が存在する場合がある)に注意が必要です。
B-3と類似・後継機、デジタル化の流れ
物理的なトーンホイールを持つオリジナルB-3は重量も大きく扱いが難しいため、70年代以降は軽量化・電子化・デジタル化が進みました。1980年代以降、Hammondブランドはデジタル技術を取り入れたモデルを発売し、近年はモデリング技術でトーンホイール+レスリーの挙動を高精度に再現する機種(Hammond-Suzuki製のデジタルオルガンや専用プラグインなど)が普及しています。デジタル機はメンテナンス性や可搬性に優れ、スタジオ用途やツアーに便利ですが、物理的なトーンホイールが生む微細な非線形特性を求める愛好者はオリジナルにこだわる傾向があります。
購入ガイドと選び方のポイント
中古のB-3を購入する際は、トーンホイールの状態、モーターの回転安定性、キーやスイッチの反応、ドローバーの動作、レスリー(もし付属していれば)の駆動状態と音出しを必ず確認してください。見た目だけでなく通電試験と実演が可能なら弾いて確かめること。修理履歴や整備記録があれば安心材料になります。予算や用途に応じてはデジタル復刻版やモデリング機器を選ぶのも現実的な選択です。
まとめ — B-3が残す影響と現代への橋渡し
Hammond B-3は単なる楽器を超え、音楽表現の一部を形成してきました。機械的なトーンホイールと人間の操作が織りなす有機的な倍音構造、レスリーを介した空間的な揺れ、そして奏者の手によるダイナミクスは、デジタル時代になっても色あせることはありません。現代ではデジタル技術による再現性も高まり、オリジナルとデジタルの双方が共存し、それぞれの利点を活かした使われ方が続いています。
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参考文献
- Hammond organ — Wikipedia
- Hammond B-3 — Wikipedia
- Leslie speaker — Wikipedia
- Hammond Organ Company — 公式サイト
- Jimmy Smith — Wikipedia(代表的奏者)
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