キヤノン EOS 70D 徹底レビュー:デュアルピクセルで生まれ変わったAPS-C一眼の実践ガイド

概要:EOS 70Dとは何か

キヤノン EOS 70Dは2013年に発表された中級者向けのデジタル一眼レフカメラです。APS-Cサイズの約2,020万画素センサーとキヤノンの映像処理エンジンDIGIC 5+を搭載し、発表当時注目を集めた最大の特徴は「Dual Pixel CMOS AF(デュアルピクセルCMOS AF)」の採用でした。これによりライブビューや動画撮影時のオートフォーカス性能が大幅に向上し、従来の一眼レフが苦手としていた動画AFやスムーズな被写体追尾が実用レベルになった機種です。

主な仕様の要点

  • 有効画素数:約2,020万画素(APS-Cサイズ CMOSセンサー)
  • 画像処理エンジン:DIGIC 5+
  • オートフォーカス:光学ファインダー時は19点(すべてクロスタイプ)AF
  • ライブビュー/動画AF:Dual Pixel CMOS AF(像面位相差方式)
  • 連写性能:最高約7コマ/秒(連続撮影)
  • ISO感度:標準100〜12,800(拡張で25,600相当まで)
  • 動画:フルHD(1080p) 30/25/24fps、720p 60/50fps 等
  • 液晶モニター:3.0インチ バリアングル式タッチパネル(約104万ドット)
  • ワイヤレス:内蔵Wi‑Fiによるリモート撮影と画像転送
  • 記録メディア:SD/SDHC/SDXC(UHS-I対応)
  • 電源:LP‑E6バッテリー(CIPA準拠の撮影可能枚数は条件により前後します)

Dual Pixel CMOS AFの仕組みと意義

従来のコントラストAFはピントを合わせる際に前後を往復して最適点を探すため、動画やライブビューでのフォーカス移動は遅く、合焦した瞬間にカクつきが出ることがありました。Dual Pixel CMOS AFは、各画素に2つのフォトダイオードを持たせることで、位相差検出を像面上で行い、従来の位相差AFに近い高速で滑らかな補正を可能にします。

結果として、動画撮影中の追従性が向上し、フォーカスチェンジ(被写体AからBへ移行する際の描写の滑らかさ)が大きく改善されました。これにより一眼レフが動画用途でも使いやすくなり、ハイブリッドに撮影を行うユーザーにとっては画期的な進化と言えます。

画質とセンサー性能(静止画)

2,020万画素のAPS-Cセンサーは日常のスナップ、ポートレート、風景まで幅広く使える解像性能を持っています。中級機としては高感度性能も妥当で、ISO感度を上げても実用範囲を保ちやすいセッティングが可能です。

ただし、近年のセンサーと比較するとダイナミックレンジや高感度ノイズ処理は世代差が出ます。特に暗部からの持ち上げ(露出補正やRAW現像での露光補正)や高感度ノイズ耐性では最新世代のAPS-C搭載機(例えば80D以降の改良機やデュアルピクセル進化機など)に一歩譲る点があります。それでもRAW現像で適切に処理すれば十分に高品質な仕上がりが期待できます。

AF性能と連写の実用性

光学ファインダー時のAFは19点すべてクロスタイプとされ、中央付近の測距性能が高く、動体撮影でも実用的です。ただしAF範囲の広さや被写体検出の高度さは上位機や後継機に比べると限定的で、被写体が画面端にある状況ではフォーカス再配置や追従に工夫が必要です。

連写は最高約7コマ/秒とスポーツや子ども写真など動きのある被写体に対応可能な水準です。連写時のAF追従は状況によってばらつきがありますが、比較的安定した結果を出すことができます。

動画撮影での使い勝手

EOS 70Dの動画機能は、Dual Pixel CMOS AFの恩恵を最も実感できる部分です。フルHD撮影でのAFの滑らかさは当時の他社機と比較しても秀でており、手持ちでのドキュメンタリー撮影やVlog、イベント記録などに向いています。

外部マイク端子を備えているため音声収録も可能ですが、同時にシャッター音やAF駆動音に気をつける必要がある場面もあります。マニュアル露出やマニュアルフォーカスも選択できるので、クリエイティブなコントロールもしやすい構成です。

操作性・ボディ設計・ファインダー

70Dのボディは堅牢でグリップがしっかりしており、長時間の撮影でも扱いやすい設計です。バリアングルのタッチ液晶は可動域が広く、ローアングルやハイアングル、前面を向けた自撮り的な使い方にも対応します。タッチ操作によりライブビューでのAFポイント選択や撮影メニューの操作が直感的に行えます。

光学ファインダーは実用的な視野率と見え味を持ち、ファインダー撮影の感覚は従来の一眼レフユーザーに馴染み深いものです。重量は同クラスとしてはしっかりした質量感があり、安定した撮影を支えます。

レンズ選びとアクセサリー

EOS 70DはキヤノンのEF/EF‑Sマウントに対応しているため、豊富なレンズ資産を活用できます。以下は用途別の代表的な選択肢です。

  • スナップ・万能ズーム:EF‑S 18‑135mm STM(手ブレ補正付きでコストパフォーマンスが高い)
  • ポートレート:EF 50mm F1.8 STM(フルサイズ換算で約80mm相当、明るい単焦点でボケが得やすい)
  • 標準高画質:EF 17‑55mm F2.8 IS USM(APS‑C専用の高性能標準ズーム)
  • 広角風景:EF‑S 10‑22mmやEF 16‑35mm(フルサイズ対応)
  • 望遠:EF 70‑200mm(IS付きのLレンズなどで遠景やスポーツに有効)

動画用途ではSTMやUSMといった静かな駆動のレンズを選ぶとAF駆動音が収音に入りにくく、Dual Pixel AFの滑らかさと相性が良いです。

実践的な撮影テクニック

以下は70Dの性能を生かすための具体的なポイントです。

  • ライブビューでのAFを活用:動く被写体を撮る場合、Dual Pixel AFを使えば背面液晶でスムーズに追従できます。タッチで被写体を選択して追従を開始しましょう。
  • RAWでの撮影と現像:ダイナミックレンジの広げ方やホワイトバランスの追い込みはRAW現像で行うと良い結果になります。
  • 高感度は抑えめに:暗所ではISOを上げすぎず、三脚や高解像度のレンズで対応することでノイズを抑えた画質を得られます。
  • 動画のフォーカスワーク:スムーズな被写体移動ではAF速度を調節できる機能やマニュアルフォーカスでのリニアな操作を併用すると自然な映像になります。
  • Wi‑Fiの活用:リモート撮影や撮った画像のスマートフォン転送で現場での確認やSNS投稿を効率化できます。

長所と短所(総合評価)

長所:

  • Dual Pixel CMOS AFによるライブビュー/動画AFの優位性。
  • 扱いやすいボディと直感的なタッチ操作。
  • 20MPの解像度と中級機としてのバランスの良さ。
  • 豊富なEF/EF‑Sレンズ資産が使える点。

短所:

  • 現在の最新センサーと比べると高感度ノイズやダイナミックレンジで劣る場面がある。
  • AFポイントのカバー範囲が画面全体にわたる最新機と比較して限定的。
  • 動画機能では4K非対応(発表当時は主流ではなかった)で、将来的な動画用途の拡張に制約がある。

中古購入・運用のポイント

70Dは中古市場でも人気があり、コストパフォーマンスの高い選択肢です。購入時は以下をチェックしてください。

  • シャッター回数:中級機としては使用頻度により劣化が出るため、可能なら確認する。
  • 液晶やファインダーの傷、内部のカビ・埃:フォーカスや画質に直結するためチェックが必須。
  • バッテリー・充電器の有無とバッテリー寿命:LP‑E6は広く流通しているが予備バッテリーも検討する。
  • Wi‑Fi機能の動作確認、端子(マイク・リモート端子)の物理的損傷がないか。

現代の用途における立ち位置とおすすめユーザー

EOS 70Dは発表から時間が経っていますが、いまだに有用な機材です。特に次のようなユーザーに向いています。

  • 写真と動画を両立して撮影したいハイブリッドユーザー。
  • コストを抑えつつ、タッチ液晶やバリアングルを重視するクリエイター。
  • 豊富なEF/EF‑Sレンズを使い回したい既存のキヤノンユーザー。

一方、4K動画や最新の高感度性能、より広いAFカバレッジを必要とするプロ用途には、後継機やフルサイズ機の検討が適切です。

まとめ

キヤノン EOS 70Dは、Dual Pixel CMOS AFによって一眼レフのライブビューと動画性能を大きく進化させた意義深いモデルです。静止画の画質、操作性、レンズ互換性のバランスが良く、中古市場でのコストパフォーマンスも高いのが魅力です。最新機と比べるとセンサー性能や動画解像度では差がありますが、用途と予算を見極めれば現在でも充分に活躍する一台です。

参考文献