建築・土木向けLAN配線ガイド:設計・規格・施工から保守までの実務ポイント

LAN配線とは — 建築・土木に関わる位置づけ

LAN配線は、建物内外での情報通信インフラを構築するための基盤工事です。オフィス、商業施設、工場、公共建築などにおいて、ネットワーク接続を安定・高速に行うためのケーブル、コネクタ、配線経路、配線盤(配線架)を設計・施工・保守することを指します。建築設計段階からの配慮が必要で、他設備(電気、空調、防火)との整合が重要です。

基本構成と用語(構造化配線システム)

一般的な構造化配線は以下の要素で構成されます。

  • エントランス施設(Entrance Facility):外部回線の引込み点。
  • 機器室/データセンタ(Equipment Room/Server Room):コアスイッチやサーバ配置。
  • 配線室/テレコムルーム(Telecom/Telecom Closet):フロアごとの配線集中点。
  • 水平配線(Horizontal Cabling):配線室から各ワークエリアまでのケーブル(通常100m以内)。
  • ワークエリア配線(Work Area):壁面や床下からのエンドデバイス接続。

この構造化配線の考え方により、将来の機器交換やフロア変更時の柔軟性が高まります。

規格と標準(知っておくべき国際規格)

  • ISO/IEC 11801:グローバルなカテゴリ仕様と性能要件を定める。
  • TIA/EIA-568:米国発の商用ビル配線標準。水平配線やコネクタの仕様が詳述。
  • IEEE 802.3:Ethernetの物理層(100BASE-TX、1000BASE-T、10GBASE-T など)を規定。

日本国内ではこれら国際規格を参照しつつ、建築基準法や消防法などの法令・地方自治体の基準に従って施工する必要があります。

ケーブルの種類と選定ポイント

配線工事で多く使われるケーブルは主に銅線ケーブルと光ファイバーです。用途に応じて選定します。

  • 銅線(ツイストペア)
    • UTP(Unshielded Twisted Pair):もっとも一般的。コストと取り扱い性が良い。
    • FTP/STP(Foiled/Shielded):遮蔽により外来ノイズに強い。接地・ホールディングに注意。
    • カテゴリ(Cat5e, Cat6, Cat6A, Cat7, Cat8):周波数帯域と伝送容量が上位カテゴリほど高い。Cat6は1GbEに適合、Cat6Aは10GbEまで安定、Cat8はデータセンタ等で短距離40GbE/25GbE向け。
  • 光ファイバー
    • マルチモード(OM1/OM2/OM3/OM4/OM5):短中距離でコスト有利。OM3/OM4は10G以上に対応。
    • シングルモード(OS1/OS2):長距離伝送に適する。将来性が高い。
    • コネクタ:LC/SC/STなど。機器側と整合させる。

選定時の判断基準は、必要帯域、将来拡張性、工事予算、敷設経路(曲げ・引張り条件)、電磁干渉環境、そしてPoE利用の有無などです。

設計上の重要ポイント

  • 配線距離:標準的な水平銅線配線は端末から配線室まで100m(パッチコード等含む)を目安に設計。
  • 配線経路と配管容量:将来の増設を見越してトラフやダクトに余裕のある経路を確保。ケーブルバンドルでの容量制限を考慮。
  • 電力線との分離:電磁ノイズ対策のために電力線・照明線とは一定の距離を確保(具体的距離は規格・設計条件による)。
  • 避雷・アース:屋外からの引込やシールドケーブル使用時は適切な接地処理が必要。
  • 火災対策:天井裏やダクト内では難燃性・低煙ガス(LSZH)ケーブルの採用や配線方式の選定を建築基準・消防基準に合わせて行う。

施工時の実務(品質を左右するポイント)

  • 曲げ半径:銅ケーブルはケーブル径の約4倍以上、光ファイバーは製品により異なるが概ね10倍以上を確保。
  • 引張力:メーカー指定の最大引張り荷重を超えないこと。過大引張は断線や性能劣化を招く。
  • ツイストの保護:コネクタ接続時にツイストを解く長さを最小限にし、NEXTや減衰に悪影響を与えないようにする。
  • シールド接続:STP/FTP使用時はシールドを確実に接地しないと逆にノイズ源となることがある。
  • 配線の取り回し:パッチパネルやラック内での余長処理、結束バンドの過度な締め付けを避ける。
  • PoEと発熱:高出力PoE(802.3at/bt)ではバンドル内の発熱により伝送性能が低下する場合があるため、ケーブル選定と束数制限、熱管理を検討。

試験と検収(品質保証の必須工程)

施工後は必ず通信性能を検査・証明することが求められます。主な試験項目は以下です。

  • ワイヤマップ(線順・短絡・断線)
  • 長さ・インピーダンス測定
  • 減衰(Attenuation)
  • 近端/遠端クロストーク(NEXT/PSNEXT)
  • 帰還損失(Return Loss)および遅延スキュー(Delay Skew)
  • 認証試験(Cat6/Cat6A等の規格適合の証明書発行)

認証ツールはFluke Networksなどの専用認証器を使用して、規格に基づく合否判定を行います。検収書類は保守時に重要な資産となります。

保守・運用管理

  • ラベリングと図面:配線タグ、パネルのポート番号、配線経路図を整備しておくことがトラブル対応を早める。
  • 予備配線:将来的な増設を想定して予備ケーブルや空きダクトを確保しておくとコスト削減になる。
  • 定期点検:物理的損傷、接地状態、パッチコードの摩耗、性能劣化の兆候を定期確認。
  • 変更管理:配線変更は必ず記録・ラベル更新し、テストを行う。

法令・安全面の注意

配線工事は建築法規、消防法、電気に関する基準等の影響を受けます。特に避けるべきポイントは:

  • 防火区画の侵害:ケーブル貫通部は防火処置(防火パテ等)を施工。
  • 難燃性要件:特定の場所(劇場・通路天井など)では難燃・低煙ケーブルの指定がある場合がある。
  • 電気設備との安全距離:高圧機器付近や大電流配線との近接は避ける。

具体的な適用法令や地方基準はプロジェクトごとに確認してください。

将来対応(将来性を見据えた実務上の考え方)

  • 帯域余裕の確保:現状より一つ上位のカテゴリ(例:Cat6→Cat6A、銅から光ファイバー)を採用すると長期的コストメリットがある場合が多い。
  • 分散化と集中化のバランス:エッジコンピューティングやIoT増加を踏まえ、フロアごとの配線容量と機器室の設計を慎重に。
  • 光ファイバーの活用:バックボーンは原則として光ファイバーを採用し、距離性能やノイズ耐性を確保。

まとめ

LAN配線は単なるケーブル敷設ではなく、建築設計・安全規制・将来拡張性を含めた総合設計です。適切な規格遵守、品質管理、試験・証明、そして運用管理が整って初めて信頼性の高いネットワーク基盤になります。プロジェクト初期段階でICT設計者と建築・設備担当が連携することが、工期短縮とトラブル低減につながります。

参考文献