配管のトラブルを防ぐための完全ガイド:エア抜きバルブ(空気弁)の種類・設置・維持管理と選定ポイント
エア抜きバルブとは — なぜ重要か
エア抜きバルブ(空気弁)は、水道・下水・給排水・農業用水・工業配管など、流体を扱う配管系において配管内に蓄積した空気や真空(負圧)を自動的に排出または吸引するための機器です。配管内に空気が存在すると流量低下、圧力損失、騒音、誤作動、さらにはウォーターハンマー(サージ)による破損や継手の損傷など重大なトラブルを招きます。そのため、適切な種類の空気弁を適所に設けることは配管設計・運用上の基本です。
エア抜きバルブの主な種類と用途
- エアリリースバルブ(Air release valve):運転中に少量の空気(気泡)を継続的に排出する目的。流速がある状態で配管内に溜まる小さな空気を除く。
- エアベント・バキュームバルブ(Air/vacuum valve):配管の充填時に大量の空気を一気に排出し、配管の排水時や急激な流量変化で負圧が生じた場合に外気を取り込んで真空を防止する。一般に口径が大きく、迅速な吐出・吸引が可能。
- コンビネーションエアバルブ(Combination valve):上記2機能を一体化したもの。運転中の微小排気と、充填/排水時の大量排気を1台でまかなう。
- 手動バルブ(Manual air valve):現場で手動操作により空気を抜く。維持管理や緊急時の一時対応で使用。
構造と動作の原理
代表的な自動弁はフロート型とオリフィス型があり、次のように機能します。
- フロート型(Float-operated):内部にフロート(浮子)を持ち、水位が上がるとフロートが弁座を押さえ閉止、空気がある場合は水位が下がり弁が開いて空気を排出する。バキューム時は逆に外気を取り込む機構を持つものが多い。
- オリフィス型(Orifice type / 気泡除去型):小さなノズルや狭小開口を介して連続的に微小気泡のみを排出する。流速と圧力差で動作する単純構造が特徴。
設置位置と向きの注意点
- 配管の最高点(ピーク)や長距離ラインの区切り点、ポンプ吸込側や吐出側の高点に設置する。高点で空気が集まりやすいため。
- バルブは一般に垂直取付(上向き)で設置する設計が多い。仕様書に従い取付方向を守ること。
- バルブ前後には遮断弁(バイパス、サービス弁)やドレインを設け、点検・交換時に配管を排水して作業できるようにする。
- 埋設配管の場合は点検ボックスやハンドホールを設置してアクセス性を確保する。
選定・口径決定のポイント
エア抜きバルブの選定は単に口径合わせするだけでなく、運用条件を踏まえる必要があります。
- 管径・流速:運転中に発生する気体の排出量は流速やライン長に依存する。大口径配管では充填時に大量の空気が出るため大型のバキューム対応弁を選ぶ。
- 最大許容圧力:配管の最大圧力(設計圧)に耐えること。弁の定格圧力(PN、psi)を確認する。
- 流体の種類:水以外(薬液・スラリー等)では弁の材質・シール材が耐食性・耐摩耗性を満たす必要がある。
- 温度範囲:高温流体や凍結条件下では仕様の確認が必須。
- メーカーの性能曲線:充填時の空気流量(瞬時吐出能力)や運転中の連続放気能力を示すカーブを参照して選定する。
材質と耐久性
一般的な材質は鋳鉄(CI)、延性球状鋳鉄(DI)、鋼(steel)、ステンレス(SUS)、青銅など。内面は防食塗装やエポキシコーティングが施されることが多い。接液部のシール材はNBR、EPDM、PTFEなどが使われ、流体・温度に応じて選ぶ。
維持管理・点検の実務
- 点検頻度:通常は年1回以上、重要施設や劣化しやすい環境では半年ごとを推奨。
- 点検項目:外観、リーク(連続滴下)、フロートの動作、弁座の磨耗、シール材の劣化、蓋のボルト緩み、周辺の排水・ドレインの詰まりなど。
- 交換部品:弁座(シート)、フロート、Oリングが消耗交換部品になる。製品ごとの推奨交換周期に従う。
- 冬期対応:凍結リスクのある地域では保温・電気ヒーターや凍結防止措置を行う。
よくあるトラブルと対策
- 「空気が抜けない/連続してエア噛みが発生」:弁座の損傷、内部スケール・ゴミ噛み、弁サイズ不足が原因。清掃・シート交換または大容量弁への交換を検討。
- 「水が漏れる(弁からの滴下)」:シール不良、フロートの沈下、フロート穴の詰まり。点検で部品交換・清掃。
- 「ウォーターハンマー」:配管内に大きな空気ポケットが残っていることが多い。高点への追加設置や適切なバルブ選定で空気の溜まりを防止。
規格・ガイドライン
配管用空気弁に関する設計指針や標準は各国・団体で異なりますが、世界的にはAWWA(American Water Works Association)のガイドライン(例:AWWA C512等)やメーカーの設計・施工マニュアルが参照されます。日本国内では日本水道協会(JWWA)や各自治体の設計基準、メーカー技術資料を確認することが重要です。
設計者への実践的アドバイス
- 配管計画段階で高点・低点の空気挟み込みを想定してエア弁配置を行うこと。見落としは運転開始後のトラブルの原因になる。
- ポンプ配管では吸込側と吐出側の両方を検討し、ポンプ停止時の負圧や起動時の充填を考慮した弁を選ぶ。
- 施工時に仮配管で充填試験を行い、実際の吐出・吸入量を確認して最終選定を行うと良い。
- ランニングコストも考慮して、長寿命の材質選定と保守しやすい取付を優先する。
まとめ
エア抜きバルブは一見地味な機器ですが、配管系の安全性・効率性を左右する重要部品です。用途(運転中連続排気か充填時の大量排気か)、配管条件(管径・圧力・流体)、設置環境(埋設・屋外・腐食性環境)を正しく評価し、適切な種類とサイズを選ぶことがトラブル回避の鍵です。設計段階から点検・保守計画まで一貫して考慮することで、設備の信頼性を高められます。
参考文献
- American Water Works Association (AWWA) — 公益団体(エアバルブに関する規格や技術資料の入手先)
- 日本水道協会(JWWA) — 水道関連の設計・施工指針や技術資料
- Val-Matic Valve & Manufacturing Corporation — エアバルブ技術資料(製品カタログ・選定ガイド)
- AVK 日本 — 空気弁の製品情報と設置・点検マニュアル
- Xylem(旧Flygt等) — 流体機器メーカーの技術資料
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