スラリーとは?土木・建築での種類・設計・施工・環境対策を徹底解説

はじめに:スラリーの定義と重要性

スラリー(slurry)は、固体微粒子が液体中に懸濁した流体を指し、建築・土木現場では掘削泥水、ベントナイトスラリー、セメントスラリー(グラウト)、鉱山や産業廃棄物の輸送など、用途が非常に広い材料です。スラリーは掘削の安定化、土留め、地盤改良、注入工(グラウト)など多くの工程で欠かせない役割を果たします。本コラムでは、種類・物性・配合設計・施工管理・試験法・環境対策まで、実務で必要な知識を詳しく解説します。

スラリーの主な種類と用途

  • ベントナイトスラリー(泥水):トレンチやケーシングなしでの掘削、切り羽保持、スラリーウォール(遮水壁)の形成などに使用。高い粘性と粘土鉱物によるゲル化特性を持つ。
  • セメントスラリー(セメントグラウト):空洞充填、注入グラウト、地盤改良、止水材として用いる。流動性と硬化後の強度が重要。
  • 化学系スラリー(ポリマー系):ポリアクリルアミド(PAM)、ポリマー増粘剤、分散剤を用いた掘削泥水や浚渫用スラリー。固液分離や流動性調整に効果的。
  • 砂・鉱物スラリー:コンクリート原料やスラリー輸送、鉱石のスラリー輸送など。固体濃度が高い場合、配管・ポンプ選定に注意が必要。
  • ベントナイト+セメント混合スラリー(セメントバイディング):一部の注入工や安定化工で使用。ベントナイトの流動性とセメントの強度を組み合わせる。

スラリーの物性とレオロジー(流動特性)

スラリー設計の中心はレオロジーの理解です。主に注目すべき指標は密度(比重)、粘度、降伏応力(yield stress)、ゲル強度、流動特性(ニュートン流体か非ニュートンか)です。多くの土木用スラリーはシアーに依存する非ニュートン流体で、時間依存性(チキソトロピーやレオペクシー)を示すものがあります。

例えばベントナイトスラリーは低せん断で高粘度・ゲル形成し、静置時に固形分の沈降を抑えますが、攪拌時には流動化して輸送しやすくなります。セメントスラリーは初期は流動性を重視しますが、硬化反応(セメント水和)により強度を発現します。

配合設計と添加剤の役割

スラリーの配合設計では目的(安定化、止水、強度、流動性維持、流出防止等)に応じて固液比や添加剤を決定します。代表的な添加剤と役割は次の通りです。

  • 分散剤(リポマイザー等):高固形分での流動性を確保。
  • 粘度調整剤(ベントナイト、セルロース誘導体等):ゲル形成や懸濁安定化。
  • 流動化剤/減水剤(セメント系):セメントスラリーの流動性向上・水量低減。
  • 凝結遅延剤/早強剤(セメント系):施工時間の調整や早期強度確保。
  • フロック形成剤(フロックラント、PAM等):沈降物の凝集や脱水助剤として使用。
  • 防止剤・防塩剤:腐食や化学反応を抑える目的。

施工機器とプロセス

現場での主な機器は攪拌タンク、ムードミキサー(mud mixer)、ポンプ(遠心・容積式)、泥水タンク、スレートシェーカー、デカンターや遠心分離機、フィルタープレスなどです。掘削や注入ではスラリーを循環させながら切り屑の運搬や地盤への注入を行います。

施工プロセスの基本は次の通りです:配合→攪拌→輸送(ポンプ)→注入または掘削循環→回収・処理。ポンプ選定は固形分濃度、粒径分布、必要揚程・流量、腐食性などを考慮します。高固形分のスラリーは遠心ポンプより容積式ポンプが適する場合があります。

品質管理と現場試験法

品質管理ではスラリーの密度(泥水比)、粘度、pH、含有固形分、温度、流動化時間などを継続的にモニタリングします。代表的な試験機器・手法:

  • マッドバランス(mud balance):比重測定。
  • ファン粘度計(Fann viscometer)やコーン・プレート型粘度計:レオロジー指標。
  • マシュファンネル(Marsh funnel):ドリル泥水の簡易粘度評価。
  • APIフィルタープレス(または同等):フィルター損失(fluid loss)評価。
  • 沈降試験・固形分測定:脱水性や凝集挙動の評価。
  • セメントグラウトならば硬化試験(圧縮強度)や含水率、透水係数測定。

設計上の留意点(現場でよく起きる課題)

  • 固形分の安定化:沈降や分離はポンプ詰まりや品質低下を招く。定期的な攪拌や適正な粘度設計が必要。
  • 温度やpHの影響:寒冷地や化学的に活性な地盤では性状が変化するため設計時に考慮。
  • 粒径分布の管理:大きな粒子は配管摩耗や堆積を引き起こす。
  • 長期的な硬化や化学反応:セメント系スラリーでは水和反応による発熱や収縮、亀裂を抑制する設計が必要。
  • 機器選定と保守:遠心分離機やフィルタープレスの運転条件は処理効率に直結。

環境対策と廃棄物処理

スラリー処理は環境面で重要です。排水や廃棄スラリーに含まれる懸濁物、化学添加剤、重金属、油分などは適切に処理しないと水質汚濁や土壌汚染を招きます。一般的な処理手段は次の通りです。

  • 沈降・濃縮:沈殿池やフロック形成により固形分を集中させる。
  • 凝集・フロック化:ポリマー凝集剤(PAM等)で沈降速度を上げる。
  • 物理的分離:脱水機、フィルタープレス、遠心分離機で固液分離。
  • 化学処理:中和、吸着(活性炭等)、薬剤による処理。
  • 再利用:十分に処理された水やスラリーは二次利用(掘削泥水の再利用、散水材、地盤改良材料)を検討。

各国・地域の規制(排水基準、産業廃棄物処理法など)に従い、事前の成分分析と適切な処理計画が必須です。

安全管理と作業上の注意

スラリー作業は滑落、配管破裂、有害ガスや粉じんの発生、化学剤の取り扱いリスクを伴います。主な安全対策:

  • 適切な個人防護具(PPE)の着用(防水手袋、防護メガネ、防塵マスク、長靴など)。
  • 機器の定期点検と圧力・流量の監視。
  • 化学品MSDS(安全データシート)に基づく取り扱いと保管。
  • 作業区域の排水管理と防汚対策(バリア、沈殿池の設置)。

実務的な応用事例

主な実務応用としては以下が挙げられます。

  • トレンチ掘削とトレンチシールド:ベントナイトスラリーで切羽を保持しながら配管布設を行う。
  • スラリーウォール(遮水壁):ベントナイトスラリーで掘削壁を維持し、後にコンクリート等で置換して遮水壁を構築。
  • グラウト注入:セメントスラリーで地盤や構造物の空隙を充填して改良・止水。
  • 掘削泥水管理:シェーカーやデカンターで切り屑を除去し、泥水を再利用。

品質確保のための試験とモニタリング計画(推奨)

現場では以下のような試験・記録が推奨されます。

  • 作業開始前の配合確認試験(密度、粘度、含固率、pH等)。
  • 日次の現場モニタリング記録(ポンプ流量、圧力、泥水比、温度)。
  • 定期的な固形分分析と粒度分布測定。
  • 処理後の排水分析と固液分離効率の評価。

まとめ

スラリーは土木・建築における多機能材料であり、適切な配合設計、レオロジー制御、機器選定、環境対策が施工の成否を左右します。現場ごとの地盤条件や目的に応じて最適化されたスラリー設計と、継続的な品質管理・処理対策を行うことが重要です。実務においては、材料メーカーや専門業者、環境監督と連携し、安全かつ環境負荷の少ない施工を心がけましょう。

参考文献