ダクトハンガーの選び方と設計・施工ガイド:安全性・耐久性を高めるポイント
はじめに:ダクトハンガーの重要性
空調・換気設備におけるダクトハンガーは、ダクトを支持して機能を維持するための基本的かつ重要な要素です。見た目は地味ですが、適切な選定・設計・施工が行われていないと、ダクトのたわみ、異音、断熱材の損傷、さらには落下事故や耐震上の問題につながります。本稿では実務で押さえておくべき種類・材質・荷重計算・取付け・防錆・維持管理・耐震対策などを体系的に解説します。
ダクトハンガーの役割と要求性能
ダクトハンガーの基本的役割は、ダクトの静的荷重と動的荷重(風圧・機器振動・地震力など)を安全に支持することです。要求される性能は以下の通りです。
- 支持強度(静荷重に対する安全率)
- 塑性・弾性変形に対する許容度(たわみや伸縮の吸収)
- 耐食性(屋外・汚染環境での耐久)
- 振動絶縁性能(騒音振動の伝達を抑える)
- 耐火・防火性能(貫通部の防火処理との整合)
主な種類と構造
現場でよく使われるダクトハンガー類は次のように分類できます。
- アングル吊り(角形ダクト向けの金具+ねじ棒)
- U字吊り/バンドタイプ(丸ダクトのバンド吊り)
- スプリングハンガー(熱伸縮や機器振動対策)
- ゴムサポート・アイソレータ(振動・騒音低減)
- 専用ブラケット(壁付け・天井付けの固定支持)
- 耐震ブレース・横桟(地震時の横方向拘束)
用途に応じて単純な金具から、防振機能付き、可動支持(スライド)など複合機能を持つ製品を選定します。
材質と防錆対策
一般的な材質は以下の通りです。
- 鉄製(生地・黒皮):コスト低、屋内の乾燥環境向け
- 亜鉛めっき鋼(電気亜鉛めっき/溶融亜鉛めっき):屋内外で広く使用
- ステンレス鋼(SUS304等):腐食性環境・屋外・温度変化が大きい箇所
- アルミニウム:軽量が必要な場合や一部意匠性重視の箇所
防錆対策としては、めっき処理、塗装、ステンレス化、樹脂被覆などがあります。海岸近接地や化学薬品がある工場など腐食環境ではステンレスや厚付けめっきを検討してください。
荷重計算と支持間隔(設計の基礎)
ダクトハンガーの設計では、まず支持する総重量を把握します。総重量はダクト本体重量+断熱材重量+付属機器(音響処理、ダンパー等)+積雪や氷付着の可能性を考慮した荷重を含めます。空気の自重は通常小さいですが、特殊流体を扱う場合は含めます。
設計荷重に安全率を乗じ、ねじ棒や金具の強度を決定します。実務では安全率1.5〜2.0を採用することが多く、製品カタログや施工基準に沿った選定が基本です。
支持間隔(ハンガー間隔)はダクトの形状・板厚・寸法に依存します。一般的な目安は以下の通りですが、必ずメーカーや設計基準(SMACNA、各社カタログ、JIS相当の資料)で確認してください。
- 小径の丸ダクト(比較的薄板): 支持間隔約1.5〜3.0m
- 大型角形ダクト(肉厚・梁的性状が必要): より短い間隔、1.0〜2.0m程度を採るケースが多い
- 重防音処理や厚い断熱材付き: 支持間隔を短くする
留意点として、長いスパンではたわみが生じやすく、機密性能や勾配維持に影響します。ダクト支点は曲げモーメントを考慮して配置することが重要です。
熱伸縮と可動支持の設計
ダクトは温度変化で長さが変化します(熱膨張)。長尺ダクトや温度差が大きいダクトでは、固定点と可動点(スライド支持)を明確に定め、伸縮の吸収を行います。スプリングハンガーやローラー支持、スリーブとガイドの組合せで対応します。固定点を複数作らないこと、伸縮方向の拘束は熱応力を発生させるため設計上の注意点です。
振動・騒音対策
ファンが近接するダクトや共鳴しやすい細長いダクトでは、振動伝播で騒音問題が発生します。対策として:
- ゴムアイソレータや防振ゴムを介して支持する
- スプリングハンガーで低周波振動を吸収する
- 接触面に防振材を挿入し、直接伝播を断つ
- ダクト自体の剛性を上げ共振周波数を変える
これらを組み合わせ、取り付け前に振動源の特性(周波数・振幅)を把握しておくと効果的です。
耐火・防火・気密上の配慮
ダクト貫通部は建築区画の防火性能に影響します。貫通部にダクトハンガーを入れる場合でも、防火区画の処理(防火ダンパーの設置、貫通部の充填材や防火カバーの使用)と整合させる必要があります。また、気密性能が要求される空調系統では、支持金物がダクト板を局所的に変形させないようパッドやプレートを挟んで取り付けることが推奨されます。
耐震設計のポイント
地震国ではダクト支持は単に重力に対する支持だけでなく、地震時の水平力・慣性力にも耐えるよう設計しなければなりません。耐震補強としては:
- 横架材やブレースで水平方向に拘束する
- ダクトと躯体間に十分なアンカリング(高強度アンカー)を行う
- 伸縮吸収箇所と固定点を明確にすることで余計な応力集中を避ける
- 躯体との取り合い部は建築基準法や自治体指針、業界ガイドラインに従う
詳細な耐震力算定は構造設計担当者と協調して行ってください。現行の建築基準やMLIT等の指針を確認することが必要です。
施工上の注意点と品質管理
- 据付前にハンガーの製品材質・めっき・耐荷重表示を確認する
- ねじ棒・ナットは規定トルクで締め付け、ロックナットやワッシャーを活用する
- ダクト取り付け後にたわみ・勾配・気密性を検査する
- 複数点支持の場合は同一高さに揃え、不要な応力を与えない
- 防錆処理・塗装は現場での傷を補修する
- 貫通部や近接機器へのクリアランスを確保する(点検・保守のため)
現場では図面通りの支持間隔や支持方法になっているかを逐次チェックし、変更が生じた場合は設計担当と協議の上で対応します。
維持管理と点検項目
点検頻度は施設用途によりますが、最低でも竣工時の確認、定期点検(年1回程度)及び大規模改修時に重点的な確認を行います。主な点検項目は:
- 支持金物の緩み・腐食・破断の有無
- ダクトのたわみ、継手の開き、気密材の劣化
- 防振材の劣化(硬化・ひび割れ)
- 防錆コーティングの剥がれや塩害の進行
- 耐震ブレースの緩みや変形
問題が見つかった場合は早期に補修・交換を行い、同様の箇所がないか周辺も確認します。
まとめ:設計・施工・維持の一体化が鍵
ダクトハンガーは単なる金物ではなく、ダクト系統の機能と安全性を直接左右する重要部材です。設計段階で荷重・熱伸縮・振動・腐食・耐震を総合的に検討し、適切な材質と構造を選定すること。施工では取り付け精度と品質管理を徹底し、維持管理で早期の劣化を発見・是正することが長期的な安全性と経済性に繋がります。業界ガイドライン(SMACNA、ASHRAE等)や各種メーカーのカタログを参照し、必要に応じて構造設計者や防振メーカーと連携してください。
参考文献
SMACNA(Sheet Metal and Air Conditioning Contractors’ National Association)
ASHRAE(American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)
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