フート弁(フートバルブ)徹底解説:構造・選定・設置・メンテナンスとトラブル対策
はじめに — フート弁とは何か
フート弁(フートバルブ)は、ポンプの吸込み側末端に設ける逆止弁とストレーナ(ゴミ防止器)を一体化した装置で、ポンプライン内の逆流を防いでポンプの満水(プライム)を維持するために用いられます。地下水井や貯水槽からの汲み上げ、農業用水や灌漑、消防用ポンプ、産業プラントにおける補給システムなど、さまざまな用途で使われています。
フート弁の役割と重要性
主な役割は次の通りです。
- ポンプ停止時の逆流防止(ポンプの自吸保持)
- 吸込み側への異物の侵入防止(ストレーナ機能)
- 吸込み動作時の流れの整流化によるポンプ保護
フート弁が正しく機能しないと、ポンプは再起動時にプライミングが必要になったり、キャビテーションや軸受の過負荷、空転による摩耗の原因になります。したがって、適正な選定と設置、定期的な点検・清掃は非常に重要です。
構造と代表的なタイプ
フート弁は大きく分けて「弁体部」と「ストレーナ部」で構成されます。弁体の形式にはいくつか種類があります。
- リフト式(リフトチェック): 弁体が垂直に上昇して開閉するタイプ。確実に流路が確保できる反面、開閉にある程度の流速が必要。
- スイング式(フラップ式): ヒンジで回転する弁板が開閉する。構造が単純で低流速でも機能するが、ゴミ噛みや着座面の密着不良が起きやすい。
- スプリング付シート(スプリングチェック): 弁体にバネで座を押さえるタイプ。小口径でよく使われ、逆圧に対して速やかに閉止する。
ストレーナは網目(メッシュ)やパンチングプレートなどで構成され、目開きは用途や流体中の懸濁物に応じて選定します。一般に目開きが細かいほど異物捕捉性能は高まりますが、流路抵抗(圧力損失)も増加します。
材質と製造形態
フート弁の材質は用途・流体・環境条件に応じて選びます。
- 鋳鉄、ダクタイル鋳鉄:一般的な淡水用途や経済性を優先する場合
- ステンレス鋼(SUS304、SUS316など):腐食性流体や海水・塩分環境での使用
- 青銅・黄銅:耐食性と機械的加工性を重視する小口径機器で採用
- 樹脂(PVC、PP、PVDF):軽量で耐薬品性が必要な用途、小口径配管に用いられる
ゴム製のシートやシール(NBR、EPDM、フッ素ゴムなど)は弁座のシール性能を高めますが、温度や薬品に対する耐性を考慮する必要があります。
設置上の注意点
正しい設置はフート弁の性能を引き出す上で不可欠です。主なポイントは以下の通りです。
- 吸込み側に必ずフート弁+ストレーナを設置し、ポンプ停止時の逆流を防ぐ。
- ストレーナは井戸底や水底に直接接触させない。底泥や堆積物の攪拌を避けるため、若干浮かせるか専用ブラケットで支持する。
- 吸込み配管は可能な限り一直線にし、曲がりや継手による抵抗を減らす。吸込み段差や高低差がある場合は、空気溜まりができないよう勾配を配慮する。
- 吸込み高さ(吸入揚程)とNPSH(有効吸込み揚程に換算した空気溶存などの余裕)を確認する。フート弁自体の圧力損失を設計に反映する。
- ストレーナの目詰まりを防ぐため、必要に応じて洗浄用アクセスや取り外し可能な構造にする。
設計上の考慮事項:損失とNPSH
フート弁とストレーナは吸込み側の抵抗となり、揚程(ヘッド)損失を発生させます。設計時には次を考慮してください。
- メーカーが提示する圧力損失データ(流量に対するΔp)を採用する。小口径や細かいメッシュは損失が増える。
- 吸込み損失を無視すると、ポンプが必要とするNPSH(必要吸込余裕)を満たせずキャビテーションを誘発する恐れがある。特に高回転・高揚程での設計は注意が必要。
- 吸込み揚程が大きい(吸上げ式)場合、フート弁の閉止不良や微小な漏れで再起動時にプライミングが外れることがある。バイパスや自動プライミング装置の併用を検討することがある。
点検・メンテナンス
フート弁は目に見えない場所に設置されることが多く、トラブルを未然に防ぐための定期点検が重要です。具体的には:
- 定期的な目視/流量確認:流量低下や音・振動の増加はストレーナ詰まりや弁の不具合を示す。
- 点検・清掃スケジュール:ストレーナの洗浄、弁座やシールの摩耗確認を行い、必要に応じて交換する。
- 冬期対策:寒冷地では凍結防止のため管路保温やドレイン(排水)を設ける。水抜きが不十分だと弁体やシールが破損する。
- 腐食・化学攻撃の監視:海水や薬液を扱う場合は表面状態を点検し、腐食が進行したら早期交換する。
故障・トラブル事例と対策
よくあるトラブルとその対策は以下の通りです。
- 目詰まり:流量低下やポンプ過負荷。対策は目開きを見直す、予備フィルタやスクリーンを設置、定期清掃。
- 逆流(弁の閉止不良):シール摩耗や異物噛み込みが原因。弁座・弁体の交換、スプリングの交換、異物除去。
- 腐食・孔食:材質の選定ミス。ステンレスや樹脂製への材質変更、犠牲陽極の採用など。
- 凍結破損:冬期に水が凍結して破損。保温・追い炊きヒーターや水抜きで対処。
選定のポイント(実務向けチェックリスト)
フート弁を選ぶときの実務的なチェックリスト:
- 使用流体の種類と温度、腐食性の有無を確認して材質を決定する。
- 必要流量と最大/最小流量域における圧力損失特性を確認する。
- 目開き(メッシュ)とストレーナの形状を、異物の大きさと流体中の濃度に合わせて選ぶ。
- ポンプの吸込条件(吸上げか淹れ込みか)、NPSH余裕を確認し、吸込み損失を考慮してポンプを選定する。
- 維持管理のしやすさ(分解・洗浄の容易さ、交換部品の入手性)を確認する。
実務上の応用例と注意事例
農業用揚水:土や藻類による目詰まりが頻発するため、粗目の初期スクリーン+細目のフート弁組合せが有効。
井戸ポンプ:井戸の砂や微粒子を吸い込むと弁の着座面を傷つけるため、耐摩耗性の高い材質や交換シールを用意する。
海水取り込み:塩分腐食に強いSUS316や樹脂を選び、定期的なフラッシングを行う。
まとめ
フート弁はポンプシステムの安定稼働のための要素部品です。構造・材質・目開き・設置位置・保守性を総合的に検討して選定することが、長期的な信頼性と省コスト運用につながります。設計段階で吸込み側の損失やNPSHを正確に評価し、現場での点検・清掃計画を明確にしておくことがトラブル防止の鍵です。
参考文献
Grundfos(フラウンドフォス)技術情報(英語/一部日本語)
工業用ポンプ・バルブ各社の製品仕様およびカタログ(例:KSB、EBARA、Grundfos など)
J-STAGE(学術論文・技術論文検索)— フート弁・吸込み系に関する論文検索
投稿者プロフィール
最新の投稿
建築・土木2025.12.24一体型トイレとは?特徴・設計・施工・維持管理を徹底解説(選び方と注意点付き)
IT2025.12.24Headless CMS完全ガイド:仕組み・利点・導入と運用の実践ポイント
ゴルフ2025.12.24ピッチングウェッジ完全攻略:ロフト・打ち方・距離感・選び方のすべて
釣り2025.12.24シーバス完全ガイド:生態から攻略法・タックル・釣り場選びまで徹底解説

