フローティング基礎(浮き基礎)とは|原理・設計・施工・適用・地盤改良との比較を徹底解説
はじめに:フローティング基礎(浮き基礎)とは何か
フローティング基礎(日本語では「浮き基礎」「補償基礎」とも呼ばれる)は、軟弱地盤上で建物荷重を支持するときに、構造物によって地盤に新たに加わる応力(増分有効応力)を小さく抑えるために、あらかじめ土を掘削して取り除くことで建物重量と掘削による土量の重量を釣り合わせる考え方に基づく基礎工法です。深い杭を打つよりも経済的に済むケースがあり、低層〜中高層の建築や一部土木構造物で採用されます。
原理(力学的な背景)
原理はシンプルです。地盤に与える垂直応力増分をゼロに近づけることが目的で、次の関係で概算されます。
- 建物荷重(構造物の実重量や載荷荷重)=掘削により除去される土の重量(有効重量)
単位面積当たりで考えると、必要な掘削の深さ h_e は次のように表せます(簡易式):
h_e ≈ q / γ
ここで q は地盤に加わる平均荷重(kN/m2)、γ は除去される土の単位体積重量(kN/m3)です。地下水位より下を掘削する場合は土の有効重量を考慮し、γ' = γ_sat − γ_w(γ_w は水の単位重)を用います。
理想的には掘削による応力低下と建物荷重による応力増加が打ち消し合えば、地盤の有効応力の増分は小さく、その結果として一次的な圧密沈下(長期沈下)を抑制できます。
適用条件・適用範囲
- 非常に軟弱で厚い粘性土層が広がり、深層支持が高コストまたは困難な場合に有効。
- 掘削が可能で、周辺への影響(湧水、既存構造物の支持力低下など)を管理できること。
- 地盤改良や杭と組み合わせて使うことも多い(例えば部分的に杭+フローティング基礎)。
設計上の考慮点
フローティング基礎を設計する際には、以下の点を検討します。
- 地盤調査:ボーリング調査、動的貫入試験(SPT)、コーン貫入試験(CPT)、一軸圧縮試験・圧密試験などにより、土の圧密特性・強度・地下水位を把握。
- 有効応力の評価:掘削後の有効重量、地下水位の影響、間隙水圧の変動を考慮。
- 沈下予測:掘削で応力増分がゼロに近づいても、材料特性の変化や周辺荷重の偏りで局所的な沈下が発生することがあるため、圧密沈下・即時沈下の計算を行う。
- 安定解析:掘削斜面や残土処理、擁壁やシートパイルによる支保、底版の水平移動・浮き上がり防止、周辺地盤の安定性確保。
- 環境・施工条件:地下水の排水(ディープウェルや井戸ポンプ)、湧水処理、土の処分量と処理方法、工期。
- 耐震時の挙動:地震時の慣性力や液状化リスク、摩擦係数の低下、支持力の変動を考慮し、必要であれば補強を行う。
計算例(概算)
簡単な例で概算を示します。敷地1,000m2に建物の垂直荷重合計が2,000kN(平均 q = 2kN/m2)あるとする。地表から地下水位より上の土の単位体積重量をγ = 18kN/m3とすると、必要な掘削深さ h_e は:
h_e = q / γ = 2 kN/m2 / 18 kN/m3 ≈ 0.11 m
この数値は極めて小さいが、実際は局所的な荷重集中、地盤の多層性、地下水、使用土の実体積重量の違い、地盤反力係数などを考慮する必要があるため、詳細設計ではより複雑な解析を行います。大型建物や重荷重の場合は掘削深さが数メートル〜十数メートルになることもあります。
施工の流れと注意点
- 事前調査と設計:詳細なボーリング・試験を行い、掘削深さ・擁壁・排水計画を決定。
- 周辺対策:近隣建物や道路への影響評価、必要に応じて事前補強(杭や薬液注入)を実施。
- 掘削と支保工:シートパイル、山留め、アンカー等で掘削側面を安定させる。地下水位より下を掘削する場合は排水設備を設置。
- 基礎底の処理:締固め、地盤改良(深層混合処理や地盤改良材の注入)を行う場合もある。
- 底版施工:コンクリート底版を施工し、防水や排水計画を確保。
- 荷重据付とモニタリング:据付後は沈下計・傾斜計等で長期にわたり挙動を観測。
長所(メリット)
- 杭基礎に比べて初期費用を抑えられる可能性がある。
- 地盤の圧密沈下を抑制できるため、長期的な沈下の管理がしやすい。
- 掘削土は再利用や一時保管が可能で、設計次第では環境負荷を抑えられる。
短所(デメリット)とリスク管理
- 周辺地盤への影響(隣接建物の支持力低下や傾斜)を引き起こすリスクがある。
- 地下水位が高い現場では、排水や止水のコスト・リスクが増える。
- 地震時の液状化や摩擦低下などで期待した支持力を失う可能性があるため、耐震対策が必要。
- 掘削による地盤改変で、地中の埋設物や汚染土壌が出ると処理が必要になる。
フローティング基礎と他の基礎工法との比較
- ベタ基礎(フットング系)との違い:ベタ基礎は地盤上に底版で荷重を分散する一方、フローティング基礎は掘削により荷重増分を低減させる。両者は組合せて使われることもある。
- 杭基礎との違い:杭は固い支持層まで荷重を伝えるのに対し、フローティングは地盤応力の増分を抑える手法で、支持層まで到達しない。重荷重や高層建築では杭が必要になることが多い。
- 地盤改良との違い:地盤改良(深層混合処理、薬液注入など)は地盤そのものの強度・剛性を高めるが、フローティングは土量のバランスで応力増分を抑える。現場によっては併用が有効。
震災時の留意点
地震時には地盤の剛性低下、液状化、慣性力による水平力増大などが生じ得るため、フローティング基礎単体では不利になるケースがあります。以下を検討してください。
- 液状化対策:液状化可能性のある砂質地盤では地盤改良や深層混合、表層改良を併用。
- 水平抵抗の確保:底版の摩擦、周囲地盤との結合、連結梁・壁などで横方向安定を確保。
- 耐震設計との整合:構造物全体の動的解析で基礎挙動をモデル化し、座屈・回転・滑りを検討。
事例と実務上のポイント
日本では住宅地の軟弱粘性土対策として小規模で採用される例や、土地造成時に補償的に採用されるケースがあります。実務上は以下が重要です。
- 初期検討で単純な荷重−掘削釣合い計算を行い、実地では詳細な圧密解析・数値解析(有限要素法)を実施する。
- 周辺影響を最小化するための段階掘削や仮設支保工の設計。
- 施工中および竣工後のモニタリングによる挙動確認(沈下計、傾斜計、地下水位計など)。
まとめ(設計者・施工者への提言)
フローティング基礎は軟弱地盤に対する有効な選択肢の一つであり、適切な地盤調査・解析・施工管理が行われればコスト面・環境面でメリットを発揮します。しかし地下水や周辺構造物への影響、地震時のリスクなどを無視すると重大なトラブルにつながるため、地盤工学の専門家と連携した設計・監理が不可欠です。必要に応じて杭や地盤改良と組み合わせることで、安全性と経済性のバランスを取ることができます。
参考文献
- 一般社団法人 日本建築学会(AIJ) — 建築基礎・地盤関連の技術資料
- 一般社団法人 土木学会(JSCE) — 地盤工学・設計指針
- Wikipedia:ベタ基礎(日本語) — 基礎の種類と概説
- 国土交通省(MLIT) — 土地・地盤に関する技術情報
- Bowles, Foundation Analysis and Design(参考教科書) — 基礎工学の基礎と設計手法(英語)


