ブルガリ(Bulgari)時計の歴史と革新 — ジュエリーとマニュファクチュールが生んだ名作たち
ブルガリとは:創業から現在までの概略
ブルガリ(Bulgari、イタリア語表記はBVLGARI)は、1884年にギリシャ出身の宝飾職人ソティリオ・ブルガリ(Sotirio Bulgari)がローマで創業したジュエラーを源流とするラグジュアリーブランドです。創業以来、宝石とクラフツマンシップを重視したジュエリーで名声を築き、20世紀後半からは時計製造にも力を入れるようになりました。現在はジュエリーとウォッチを両輪に持つブランドとして、デザイン性と高級感を最大の武器に世界的なプレゼンスを確立しています。
時計事業への本格参入とスイスでのマニュファクチュール化
ブルガリが本格的に機械式時計製造へ舵を切ったのは1990年代から2000年代にかけてです。デザイン性の高いジュエリーウォッチに留まらず、機械式ムーブメントを内製化することで“ジュエリーの技術”と“時計の技術”の融合を目指しました。その過程でスイスの名門小規模工房やブランド(例:ジェラルド・ジェンタやダニエル・ロートなど)を取り込むことで、技術蓄積と高級機械式時計ノウハウを確保しました。
その結果、スイスに自社マニュファクチュール(ムーブメント設計・製造能力)を整備し、以降は自社開発キャリバーを用いたハイエンドモデルの発表を続けています。また2011年にはLVMHグループの一員となり、グループ内の資源や流通ネットワークを活用してグローバル展開を加速させました。
代表的なコレクションとその特徴
- Serpenti(セルペンティ):蛇(Serpent)をモチーフにしたアイコンコレクション。ブレスレットと一体化したデザイン、チューブ状の“Tubogas(ツボガス)”製法を取り入れたモデルなど、宝飾性が強いラインで、女性向けハイジュエリーウォッチの代表です。
- Bulgari Bulgari:ベゼルにブランド名を刻印したシンプルかつ象徴的なデザイン。1970年代からの伝統を受け継ぎつつ、現代的なサイズや素材で展開されています。
- Octo / Octo Finissimo:八角形を基調とした建築的なデザインが特徴。特にOcto Finissimoは薄型化技術の象徴となり、チタンやマットな仕上げなど現代的な美学で高く評価されています。
- Lucea(ルチェア):文字盤の光と曲線美を生かした女性向けコレクション。ジュエリー性と実用性の両立を目指しています。
Octo Finissimo:薄型への挑戦とその成果
Octo Finissimoシリーズは、ブルガリの時計製作における技術的到達点を示すコレクションです。2010年代中盤からブルガリは薄型ムーブメント設計で世界的な注目を集め、複数回にわたり“世界最薄”の記録に挑戦・更新してきました。これにより、Octo Finissimoは単なるデザインアイコンを超え“技術力の証明”とみなされるようになりました。
薄型化はケース素材や仕上げ、ムーブメントの再設計、さらにケースとムーブメントの一体化設計など多面的な工夫を必要とします。ブルガリはチタンやセラミックなど軽量かつ堅牢な素材を積極的に採用し、薄型ながら実用性を維持することで高い評価を得ています。
ムーブメント(BVLキャリバー)とマニュファクチュール哲学
ブルガリのムーブメントはしばしば「BVL」ナンバリングで呼ばれます。自社で設計・組立・装飾を行うマニュファクチュールとして、薄型自動巻き、トゥールビヨン、クロノグラフ、ミニッツリピーターなど多様な機構を手がけています。特に薄型自動巻きやトゥールビヨンなどの分野で注目を集め、デザインと機構を同時に磨くことで独自の地位を築いています。
マニュファクチュール化の利点は、ムーブメント設計段階からケースデザインやジュエリー要素と緊密に連携できる点です。これにより、宝飾ウォッチでも機械的完成度を損なわない“美と技術の両立”が可能になります。
デザインと宝飾技術の融合
ブルガリの強みは何よりジュエリーで培った宝飾技術にあります。ジェムセッティング、色石の選別、独自のチェーンやブレスレット構造など、宝飾分野での高度な技術を時計に応用することで、他ブランドにはない独特の魅力を生んでいます。特にSerpentiに見られるようなブレスレット一体型の時計は、装飾性と着用感の両面で高く評価されています。
マーケットでの位置づけと価格帯
ブルガリはジュエリーと高級時計の両方を手がけることで、ラグジュアリー市場の中でも独自のポジションを占めています。比較対象としてはカルティエやショパールなどのジュエリー系ブランド、あるいはデザイン性で差別化する独立系のハイエンドウォッチと競合します。
価格帯はクォーツのジュエリーウォッチから、Octo Finissimoのようなハイコンプリケーションまで幅広く、エントリーモデルは数十万円台から、ハイエンドは数百万円〜千万円超の範囲に及びます。購入時は用途(ジュエリー性の重視か機械式の技術重視か)を明確にすることが重要です。
購入時のチェックポイントとアフターサービス
- ムーブメント:自社ムーブメントか汎用ムーブメントかを確認。コレクションによっては自社製(マニュファクチュール)と外注品が混在することがあります。
- 材質と仕上げ:チタン、ステンレス、ゴールド、セラミックなど素材により性質が異なるため、重量感や傷つきやすさを事前に把握しておきましょう。
- 防水と耐久性:モデルによって防水性能が大きく異なります。日常使いでの耐久性やサービス可否を確認してください。
- アフターサービス:定期メンテナンスの推奨周期、正規サービスセンターの対応範囲、部品供給の期間などを確認すると長期所有で安心です。
コレクターと投資価値
ブルガリの一部モデル、特にOcto Finissimoシリーズや限定のハイジュエリーウォッチはコレクターズアイテムとして注目されます。薄型記録や独自のデザイン性があるモデルは中古市場でも安定した人気があります。ただし、一般的にジュエリーウォッチは素材(ゴールドや宝石)と装飾性が価値基準となり、機械式スポーツウォッチのような流動的な相場変動とは異なる側面があります。購入は『長期的な愛用』と『美術品的価値』の両面で判断するのが妥当です。
将来の展望
ブルガリは今後も『デザイン』と『技術』の二本柱で成長していく見通しです。LVMH傘下としての資源活用、また環境やサステナビリティを意識した素材・調達方針の強化、さらには新しい素材・加工技術の導入が期待されます。短期的なトレンドに左右されず、独自の美学を維持しつつ技術革新を続けることがブランドの価値を保つ鍵となるでしょう。
まとめ
ブルガリは『ローマのジュエラー』という起源を持ちながら、スイスのマニュファクチュールによる精密な時計製造技術を取り入れることで、宝飾性と機械技術を両立させたユニークなポジションを築いています。代表的なSerpentiやOcto Finissimoなど、デザイン性と技術力の高さが融合したモデルは、時計愛好家にもジュエリーファンにも強く訴求します。購入時は目的に応じたモデル選定と正規のアフターケア確認を忘れずに行いましょう。
参考文献
以下は本コラム作成時に参考にした公的・専門情報源です。詳細な年表やモデル解説などは各リンク先をご参照ください。
- Bulgari — Wikipedia
- Bulgari(公式サイト)
- How Bulgari Became A Watchmaking Force — Hodinkee
- Monochrome Watches(記事検索でOcto Finissimo関連を参照)
- LVMH(公式サイト)


