圧力計の種類・選定・設置・校正 — 建築・土木で押さえるべき実務ガイド

圧力計とは

圧力計(あつりょくけい)は、流体(液体・気体)が単位面積に及ぼす力を測定する器具です。建築・土木分野では配管、ポンプ、空調設備、給排水、土木構造物のモニタリング(例:止水、地下水位や地盤の間隙水圧)など幅広い用途で用いられます。正しい選定・設置・校正が行われていないと、安全性や維持管理性に重大な影響を及ぼします。

圧力の種類と単位

  • ゲージ圧(相対圧、gauge pressure): 周囲大気圧を基準とした圧力。配管や機器の通常表示は多くがこのタイプ。
  • 絶対圧(absolute pressure): 真空(絶対零圧)を基準にした圧力。真空系やプロセス制御で使用。
  • 差圧(differential pressure): 2点間の圧力差。フィルターの目詰まり検出や流量推定に使われる。

主な単位:Pa(パスカル)、kPa、MPa、bar、psi。建築・土木ではPa/kPaやMPaが多く用いられます(例:水圧や地盤間隙水圧はkPa単位)。

圧力計の主要な種類と測定原理

  • ブールドン管式(Bourdon tube): 金属管(C字や渦巻形)が圧力で変形し、その軸回転を指針に伝える機械式圧力計。堅牢で広範囲の圧力に対応し、建築・産業配管系で最も普及。EN 837-1で規格化されています。
  • ダイアフラム式/カプセル式: 弱い金属膜(ダイアフラム)や薄い二重ディスク(カプセル)が圧力で変位し、微少圧力や低圧域の測定に有利。腐食性流体や低圧の測定に適応。EN 837-2がダイアフラム・カプセル系を扱います。
  • マノメーター(液柱式): 液柱の差で圧力を測る単純な方式。ロングスケールで安価、現場チェックや低圧測定に使われます。EN 837-3 で定義されることが多いです。
  • 電子式(トランスデューサ/センサー): ピエゾ抵抗(半導体チップ)、ひずみゲージ(ブリッジ回路)、容量変化、圧電素子、共振式などがある。アナログ出力(4-20 mA、0-10 V)やデジタル通信(Modbus、HART、IoTプロトコル)に対応し、遠隔監視やデータ記録に最適。

精度・性能指標

圧力計の選定では以下の性能指標を確認します。

  • 精度(Accuracy/クラス): 機械式は一般にクラス1.6、1.0などの表示(%フルスケール)、電子式はより高精度なものが多い。
  • 再現性・ヒステリシス: 同一条件での繰り返し精度や圧力増減での差。
  • 過負荷保護: 突然の圧力ショックに対する許容度(例:最大許容圧力)。
  • 温度係数: 周囲温度や媒体温度によるドリフト。
  • 応答性・ダイナミクス: 高速で変動する圧力測定が必要か。
  • 耐食性・材質適合: 媒体(海水、薬液、スラリー等)との接触部材質。

選定のポイント(現場実務)

  • 測定レンジの設定: 一般にフルスケールの1/3〜3/4に通常運転圧が入るようにする。常時低域に偏ると精度低下や分解能不足を招く。
  • 媒質との適合: 接液部材質(ステンレス、ハステロイ、PTFEライニング等)とシール材を確認。
  • 温度条件: 媒体温度や周囲温度が高い場合は冷却スパイラルやシンファ(蒸気・高温流体対策)を検討。
  • 接続形式と取付: ネジ規格(NPT、Rc、G等)、フランジ、前置弁(アイソレーションバルブ)やスニッファーを確認。
  • 安全対策: 圧力破裂のリスクがある場合は過圧保護装置、ブローアウト防止、保護ガラス、バッフルなどを採用。
  • 遠隔監視の要否: 継続的監視や複数点の集中監視が必要なら電子トランスデューサ+通信機能を選択。

設置・配管に関する注意点

適切な設置は測定信頼性と安全に直結します。

  • 配管の向き: ブールドン管式は垂直取り付けが推奨されることが多い(製品仕様に従う)。
  • インパルスライン: 高温または蒸気系ではピトンやシーブ(サイフォン)で冷却層を作り、ダメージを防止。
  • フィルタ・スナッバー: 振動や圧力ショックを緩和するためのダンパ(スナッバー)やフィルタを使用。
  • バルブ配置: アイソレーションバルブ、ドレンバルブ、校正ポートを設けるとメンテナンスが容易。
  • 結線と接地(電子式): ノイズ対策と安全のため適切なシールド接地を行う。

校正とメンテナンス

圧力計は定期的な校正が必要です。校正周期は用途や規制、使用環境によるが、一般的には年次またはリスクベースで設定します。校正は校正ポートやアイソレーションバルブを介して標準器(較正ポンプ、バロスタット、デッドウェイトテスタ)と比較して行います。校正記録は品質管理・トレーサビリティ確保のため必須です。

日常点検では外観・指針の戻り、リーク、接続の緩み、スケールの視認性、ケース内の結露や腐食を確認します。電子式は電気的出力の検査、配線接続の確認を行います。

現場でよくあるトラブルと対策

  • 指針が戻らない/ふらつく: 汚れや内部の油・結晶化、機械的損傷が疑われる。分解点検か交換。
  • 測定値が不安定: 振動や流体の脈動、接続不良、電子ノイズが原因。スナッバーやダンパ、配管改善、シールド接地を検討。
  • 腐食・詰まり: 媒体適合材質に変更、サンプル取り出し口にフィルタを追加。
  • 過圧破損: 過圧保護弁や圧力逃がし構造を設置。ブールドン管の過負荷に対する安全率を確認。

規格・安全基準

圧力計は国際・各国の規格やメーカー仕様に基づいて選定・試験することが重要です。代表的な規格例として、EN 837(ブールドン管、ダイアフラム、マノメーターの規定)や、産業機器向けの規格が挙げられます。各プロジェクトで適用すべき規格や安全基準(設置基準、検査頻度)は契約仕様書や法規に従って決めます。

最新動向 — デジタル化とIoT

近年は伝統的な機械式から電子式圧力トランスデューサへのシフト、さらにワイヤレス通信やクラウド連携による遠隔監視・予知保全が進んでいます。トレンドとしては低消費電力センサ、HARTやModbus、無線(LoRaWAN、NB-IoT)接続、エッジ解析による異常検出が普及しています。土木分野では長期モニタリングによる地盤変動・水位監視への導入が増えています。

まとめ

圧力計は単純に見えて、用途・媒体・設置環境によって最適な機種が変わる機器です。測定レンジ、媒質適合、温度条件、接続方式、保護・安全機能、校正体制を総合的に評価して選定してください。設置・配管の細部(インパルスライン、スナッバー、バルブ配置)と定期校正を怠らないことが長期的な信頼性確保に直結します。デジタル化の流れにより、遠隔監視や保全効率の向上も期待できますが、基礎となる物理原理と現場の取り扱いを理解することが第一です。

参考文献