気密測定のすべて:工法・数値・計測手順と改善ポイント
はじめに — 気密測定が重要な理由
気密(きみつ)とは建物の外皮を通じた不意な空気の出入りがどれだけ抑えられているかを示す概念であり、測定(気密測定)はその性能を定量的に把握するための手段です。近年の住宅や建築物では断熱性能の向上とともに気密性能が重要視され、暖房・冷房の省エネ、居住快適性、結露対策、換気計画への影響など多方面に影響を与えます。本コラムでは気密測定の基礎、計測方法、評価指標、施工上の注意点、改善手法、実務での運用までを詳しく解説します。
気密性能の指標と意味
気密性能を示す代表的な指標には次のものがあります。
- C値(相当隙間面積): 総隙間面積(cm2)を外皮面積(m2)で割った値で、単位はcm2/m2。日本で住宅の性能評価や施工品質管理に用いられることが多い指標です。
- n50(ACH50, 空気変化回数): 50Paの差圧条件で建物内の空気が1時間に何回入れ替わるかを示す値。単位はh−1。パッシブハウス基準ではn50 ≤ 0.6h−1と厳格な値が定められています。
- 等価隙間面積(ELA / Total Leakage Area): 実際の細かい隙間を合成して、ある面積の単一の穴に置き換えたときの面積(cm2)を示します。
これらの指標は相互に変換可能ですが、建物形状や外皮面積により関係が変わるため、直接比較する際は注意が必要です。
気密測定の基本原理と代表的手法
気密測定は一般にファン(ブロワードア)を用いた加圧・減圧法で行われます。代表的な国際規格としてはISO 9972(建物の気密性の測定)や多くの国で採用されているファンプレッシャーメソッドがあります。手順の概略は次の通りです。
- 玄関などに専用のシートとファンを取り付け、建物内を目標差圧(通常±50Pa)に加圧または減圧する。
- ファンに流れる空気量(風量)を計測し、所定の差圧時の流量から建物の漏気量を算出する。
- 圧力と流量の関係からn50や総隙間面積を求める。通常複数点(例:10, 25, 33, 50Pa等)で測定し回帰を取り精度を高める。
減圧・加圧の両方を行うことでファンや設置の偏差を補正できます。測定時は換気装置・火気・換気経路などを適切に処理し、外気や温度差による影響を最小化します。
測定前の準備と現場での注意点
正確な測定結果を得るためには準備が重要です。準備手順と確認項目の一例を示します。
- 全ての開口(窓・外壁の換気口・給気口・排気口・建物間の大きな開放部)を閉鎖する。ただし計測に必要な開口は明確にする。
- 室内の可動ファン類(換気扇、給気ファン、レンジフード等)を停止し、屋内のドアは通常の使用状態で開閉位置を統一する。
- 暖房機器のダクトや煙突、給排水の通過部など、測定時に塞ぐべき箇所は予めマーキングし確実に封止する。
- 屋内外の温度差が大きいとスタック効果(室内外の温度差による自然通気)が発生し測定に影響するため、可能なら温度差の小さい時を選ぶ。
また、計測器の校正や温度・圧力補正も重要です。複数回測定して再現性を確認します。
結果の読み方と目標値の目安
建物用途や要求性能により目標値は異なりますが、一般的な目安は次のとおりです。
- 一般的な新築住宅: C値 1.0cm2/m2以下を目標とするケースが多い。
- 高性能住宅(省エネ・高断熱仕様): C値 0.5cm2/m2以下、またはn50で1.0h−1程度を目指すことが多い。
- パッシブハウス: n50 ≤ 0.6h−1(非常に高い気密性能)。
数値が目標に届かない場合は、漏気箇所の特定→補修→再測定というサイクルで改善を図ります。
漏気箇所の特定方法と実務的改善手法
測定で漏気量が多いと分かったら、次に行うのは漏気個所の特定です。代表的な方法は以下の通りです。
- スモークペン(スモークペンライト): 減圧中に隙間から出る煙の流れで漏気位置を視認できます。小さな穴でも発見しやすい方法です。
- 赤外線サーモグラフィ: 温度差があるときに表れる熱流の違いで隙間を推定します。断熱欠損や大きな漏気箇所の特定に有効です。
- 簡易な石鹸水法: 局所的に石鹸水を塗り気泡の発生で小さな穴を見つける方法(局所的で手間がかかる)。
補修に使う材料と施工例は次のとおりです。
- 気密テープ・気密シート: 施工後の接合部を長期的に維持するために使用。
- シーリング材(防水・耐久性のあるポリウレタン系やシリコーン系): 配管貫通やサッシ周りの微細な隙間埋め。
- 発泡ウレタン(現場発泡): 大きめの隙間や複雑な形状の充填に有効。ただし可逆性や火災時挙動を考慮。
- 専用の気密パッキンやガスケット: サッシ・扉・点検口等の可動部に用いる。
施工順序や養生、材料の相性を考慮しないと、数ヶ月後に劣化して気密が低下することがあるため、長期耐久性を考えた材料選定と仕上げが重要です。
気密と換気のバランス — 健康・安全面の配慮
気密を高めると外気の漏れが減り暖冷房効率は向上しますが、同時に室内の空気が滞留しやすくなります。建築基準や省エネ基準により、適切な換気設備の設置が求められます。実務上は以下を検討します。
- 機械換気方式の選定(局所換気、全館換気、熱交換付換気装置(HRV/ERV)など)。
- 給気・排気の経路バランスとフィルタリング、風量調整。高気密住宅では熱回収換気が有効で、省エネと室内空気質(IAQ)の両立が可能です。
- 燃焼機器の排気・給気対策。高気密化により不完全燃焼やバックドレフト(排気が室内に流入する現象)のリスクが増すため、専用給排気方式の採用や排気量管理が必要です。
施工管理と品質保証の実務ポイント
現場レベルで気密性能を確保するための管理方法は次の通りです。
- 設計段階での気密ディテール化: サッシ納め、配管貫通、基礎や屋根との取り合いなど、気密層(エアバリア)を明確に設計図に落とし込む。
- 施工手順書の整備と職人への周知: 使用材料、接合方法、検査ポイントを現場で共有する。
- 中間チェックと最終の気密測定: 屋根・外壁施工後の段階で試験を行い、発見した問題を早期に対処する。最終測定は竣工前に実施し記録化する。
- 第三者検査や測定者の資格: 測定精度を担保するため、校正された機器と経験ある技術者による測定を推奨。
費用対効果と導入の判断材料
気密施工と測定にはコストがかかりますが、長期的には暖房冷房費の削減、結露による劣化リスク低減、住宅の快適性向上というメリットがあります。費用対効果を判断するポイントは次の通りです。
- 地域の気候条件(寒冷地では恩恵が大きい)。
- 暖房方式と運転スタイル(ヒートポンプや集中暖房などとの相性)。
- 住宅寿命や維持管理計画(断熱材の劣化や改修費用も含めたライフサイクルコスト)。
補助金や性能表示制度の適用により初期投資の回収が早まるケースもあります。導入時は長期的なエネルギーコストと居住快適性の向上を総合的に評価してください。
よくある質問(FAQ)
Q: 気密測定は新築だけですか?
A: 新築が主ですが、断熱改修やリノベーション後の確認としても有効です。既存住宅の気密改善は省エネ効果と結露対策に寄与します。
Q: 測定で良い値が出たら換気は不要ですか?
A: いいえ。高気密は適切な機械換気の導入を前提にする必要があります。換気設計は別途行ってください。
Q: 測定は誰でもできますか?
A: 機器操作自体は専門業者でなくても可能ですが、正確な評価と補正、法規や規格に基づく報告には経験と校正された機器が重要です。第三者測定を推奨します。
まとめ
気密測定は単なる数値合わせではなく、省エネ、快適性、防水・防露、換気計画と密接に関わる重要な工程です。設計段階から気密層を意識し、適切な材料と施工管理、測定によるフィードバックを繰り返すことで建物の長寿命化と居住品質の向上が期待できます。測定結果を受けての具体的な補修と換気設計の調整が、最終的な性能実現には不可欠です。
参考文献
- Passive House Institute(パッシブハウス研究所)
- U.S. Department of Energy — Air Sealing Your Home
- ISO 9972:2015 — Thermal performance of buildings — Determination of air permeability of buildings — Fan pressurization method
- Building Science Corporation(建築科学情報)
- 一般社団法人 住宅性能評価・表示協会
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