LNMPスタック完全ガイド：Nginx・MySQL/MariaDB・PHP-FPMの導入と最適化

2025年12月25日 最終更新日時 : 2025年12月25日 エバープレイ編集部

概要 — LNMPとは何か

LNMPは、Linux（L），Nginx（N），MySQL/MariaDB（M），PHP（P）で構成されるWebサーバースタックの総称です。従来のLAMP（Apache）と比べて、Nginxのイベント駆動型アーキテクチャにより高い同時接続処理能力を持ち、リバースプロキシやロードバランサとしても優れています。PHPは通常PHP-FPM（FastCGI Process Manager）で動作させ、MySQLの代わりに互換性の高いMariaDBを使うことも一般的です。

各コンポーネントの役割詳細

  • Linux：基盤OS。Ubuntu、Debian、CentOS、Rocky Linuxなどが採用されます。パッケージ管理（apt/yum/dnf）やsystemd、ネットワーク、カーネルパラメータが運用に影響します。

  • Nginx：リバースプロキシ／HTTPサーバ。イベント駆動で低メモリ・高スループットが特徴。静的配信、TLS終端、ロードバランス、FastCGIプロキシとして使用します。

  • MySQL / MariaDB：RDBMS。トランザクション処理にはInnoDBが標準。MariaDBはフォークで互換性・機能差があります。運用に応じてレプリケーションやクラスタ化を検討します。

  • PHP-FPM：PHPのFastCGI実装。プロセスマネージャによってワーカープロセスを管理し、NginxからFastCGI経由でリクエストを受けます。プール設定でプロセス数やユーザ、ソケット/TCPの指定を行います。

LNMPのリクエストフロー

クライアント→Nginx（TLS終端、静的配信、キャッシュ判定）→FastCGI（php-fpm）→アプリケーション（WordPress等）→DB(MySQL/MariaDB)。Nginxでキャッシュやgzip/Brotli圧縮、HTTPヘッダを制御し、バックエンド負荷を低減します。

導入の基本手順（高レベル）

  • OS選定（Ubuntu LTS/Debian/CentOS系）と初期セキュリティ設定（ファイアウォール、ユーザ管理）

  • Nginxインストール（公式リポジトリ推奨、mainline/stableを選択）

  • PHP-FPMインストール（PHP 8系を推奨）。必要な拡張（pdo_mysql, mbstring, opcache など）を追加

  • MySQLまたはMariaDBインストール。初期rootパスワード設定、bind-addressやリモート接続制限

  • Nginxでserver blockを作成し、php-fpmへfastcgi_passで接続。TLSはLet's Encryptで自動更新

よく使うNginx設定例（サンプル）

下記は基本的なserverブロックの例です（Unixソケット使用）。

server {
    listen 80;
    server_name example.com www.example.com;
    root /var/www/example.com/public;

    index index.php index.html index.htm;

    location / {
        try_files $uri $uri/ /index.php?$query_string;
    }

    location ~ \.php$ {
        include fastcgi_params;
        fastcgi_pass unix:/run/php/php8.1-fpm.sock;
        fastcgi_index index.php;
        fastcgi_param SCRIPT_FILENAME $document_root$fastcgi_script_name;
    }

    location ~ /\.ht {
        deny all;
    }
}

PHP-FPMのポイント

  • プール設定（/etc/php/*/fpm/pool.d/*.conf）でpm = dynamic/static/ondemand を選択。動的なサイトは dynamic、メモリ節約が重要なら ondemand を検討します。

  • pm.max_children は利用可能メモリと1プロセス当たりメモリ量を基に計算。過小はスループット低下、過大はスワップによる性能劣化を招きます。

  • opcache 有効化はPHPアプリの性能向上に有効。opcache.memory_consumption や revalidate_freq を適切に設定します。

MySQL/MariaDBのチューニング要点

  • innodb_buffer_pool_size：専用DBサーバでは物理メモリの70〜80％を目安に設定（複合用途のサーバは調整）。

  • max_connections はアプリの同時DB接続数に合わせる。ただし高値にするとメモリ消費が増える。

  • Query CacheはMySQL 8で削除されているため、最新バージョンでは使わない。キャッシュはアプリレイヤ（Redis等）や運用設計で実現。

  • スロークエリログを有効化して遅いクエリを特定。explain でインデックス最適化を行う。

パフォーマンス最適化の実践技術

  • Nginx：worker_processes auto、worker_connections は適切に設定。sendfile、tcp_nopush、tcp_nodelay 有効化でIO効率改善。

  • 圧縮：gzip あるいは Brotli を利用。Brotliは静的コンテンツに効果的。

  • キャッシュ：Nginxのfastcgi_cache や proxy_cache、あるいは外部にVarnish/Redisを導入。WordPress等はオブジェクトキャッシュを有効化。

  • TLS：Let's Encryptで自動更新し、HTTP/2を有効化。HTTP/3はNginxのビルドやバージョンによる対応状況を確認。

セキュリティ運用上の注意

  • OSとパッケージは定期的にアップデートし、サポート期間のあるバージョンを使用。

  • ファイアウォール（ufw、firewalld）で不要ポートを閉じる。SSHは鍵認証、rootログイン禁止。

  • MySQLはrootのリモート接続を無効化し、必要なアクセスにのみアカウントを発行。権限は最小権限の原則。

  • NginxではTLS設定を最新の暗号スイートやプロトコルに合わせ、古い弱い設定を無効化。OCSP stapling、HSTSの利用も検討。

  • SELinux/AppArmorのポリシーを確認。誤設定でphp-fpmやNginxからソケットやディレクトリへアクセスできなくなることがある。

可用性とスケーラビリティ

スケールアウト：フロントにロードバランサ（Nginx cluster、HAProxy、クラウドLB）、アプリ層を複数台にし、セッションはステートレス化 or Redisで共有。DBはレプリケーション（Master-Slave）やGaleraクラスタ、ProxySQLなどで読み取り分散やフェイルオーバーを実現します。バックアップとフェイルオーバーテストは必須です。

運用と監視

  • ログ監視：Nginxのaccess/error、php-fpmログ、MySQLのエラーログとスロークエリログを収集。

  • メトリクス収集：Prometheus + Grafana、Percona Monitoring and Management、Datadog等を利用し、レスポンス時間、CPU/メモリ、接続数、クエリ遅延を可視化。

  • 定期的な負荷試験と障害シミュレーションでボトルネックを特定。

コンテナ化・クラウド化の考え方

DockerやKubernetesでLNMPを構築するケースが増えています。公式イメージ（nginx, php, mariadb/mysql）を利用すれば環境の再現性が高まりますが、ストレージ（永続ボリューム）、ネットワーク、秘密情報管理、リソース上限の設定に注意が必要です。クラウドではマネージドDB（RDS、Cloud SQL等）を利用して運用負荷を下げる選択肢も有効です。

トラブルシューティング・FAQ

  • 502 Bad Gateway：php-fpmが落ちている、ソケットパスが間違っている、ファイル権限が原因であることが多い。systemctl status php*-fpm を確認。

  • 504 Gateway Timeout：バックエンド処理が長時間かかっている。fastcgi_read_timeout を一時的に延長し、原因のクエリや処理を最適化。

  • 高メモリ消費：php-fpm のpm設定や個々のPHPスクリプトのメモリリークを疑う。opcache設定や不必要な拡張の削除も有効。

導入チェックリスト

  • OSとパッケージのサポート期限を確認

  • php-fpm のプロセス数・メモリ計算

  • MySQLのinnodb_buffer_pool_size 設定

  • NginxでTLS、HTTP/2、gzip/Brotli、キャッシュ設定

  • バックアップスケジュールとリストア手順の検証

  • 監視・アラート設定の導入

まとめ

LNMPは高性能・高効率なWebスタックの基本形であり、Nginxの非同期処理、PHP-FPMの柔軟なプロセスマネジメント、MySQL/MariaDBの堅牢なストレージが組み合わさることで、多様なWebアプリケーションに適応します。導入時はパラメータチューニング、セキュリティ対策、運用監視をセットで設計することが成功の鍵です。

参考文献

カテゴリー
IT
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