給水の基礎と設計実務:建築・土木における技術・衛生・法規の全体像
はじめに — 給水の重要性とコラムの目的
給水は建築・土木における基本インフラであり、衛生、安全、居住性、耐災害性に直結します。本コラムでは、給水システムの基礎、設計上のポイント、衛生管理、維持管理、災害対策、最新技術や法規制までを系統的に解説します。実務設計や運用で抑えておくべき観点を深掘りし、参考文献への誘導も行います。
給水の全体構成と流れ
給水は大きく分けて「水源(取水)」→「浄水処理」→「配水(導水・配管)」→「建物内給水設備」→「排水・下水」へとつながります。都市部では公共の水道事業者が浄水・配水を担い、建物は引込栓から給水メーター、逆流防止装置や止水弁、配管網、各器具へと接続されます。郊外や山間部では井戸水や簡易水道を用いる場合もあり、源水の性状に応じた処理・材料選定が必要です。
水源と浄水処理の基礎
水源は河川、湖沼、地下水、浄化水(再生水)などがあります。原水の水質(濁度、有機物、微生物、金属イオンなど)を把握したうえで、懸濁物除去、凝集・沈殿、ろ過、消毒(塩素による塩素消毒やオゾン・紫外線併用)といった処理工程を設計します。安全な飲料水の管理には残留塩素の維持、バクテリア検査、トリハロメタン等の副生成物管理が重要です。公共水道は各国の水質基準に従い管理され、日本では水道法に基づく水質基準が設定されています(参考資料参照)。
建物内給水方式と配水方式
建物内の給水方式は、主に以下の方式に分類されます。
- 直結給水方式:公共配水管と直接接続し、ポンプや貯水槽を使わずに供給する方式。小規模・低層建築で多用。
- 貯水槽方式(中間水槽・屋上水槽):給水を一旦タンクに蓄え、タンクから各階へ重力または循環ポンプで供給。断水時の緊急備蓄や圧力制御に有効。
- 加圧直結方式(ブースター併用):直結ながらポンプで圧力を補う。高層建築で圧力不足を解決するためにゾーニングと組合せて用いる。
- 定圧給水方式:可変頻度制御(VFD)を用いて一定の出口圧力を維持する省エネ型システム。
高層ビルでは圧力による配管強度や器具の安全、階ごとの圧力調整が重要であり、ゾーニング(中間タンク+ブースタ)や二段階ポンプ配置が現場で採用されます。
配管材質と接続技術
配管材質は用途(飲料水、給湯、消火用)と温度・圧力条件で選定します。代表的な材質には銅管、ステンレス管、鋼管(被覆鋼管含む)、架橋ポリエチレン管(PEX)、硬質塩化ビニル(PVC-U)、ポリエチレン管(PE)などがあります。材料選定では耐食性、耐久性、耐熱性、接続方式(溶接、ろう付け、フランジ、圧着、接着)、施工性、コストをバランスさせます。
接続部は漏水の最大リスク箇所であり、施工品質管理が重要です。溶接やろう付けは熟練工が必要で、近年は圧着継手やプレス継手、溶着(熱融着)を用いた工法が普及しています。材料ごとにJISや業界規格があるため、適合する規格品を利用することが大前提です。
給水設備の設計上のポイント
- 需要量の推定:器具単位流量、同時係数、ピーク係数を用いて日常最大流量や最小設計流量を算出します。用途(住宅、オフィス、病院、ホテル)により需要プロファイルが異なるため、用途別の算定法に従う。
- 圧力設計:器具で必要な最低動圧(利用圧)を確保すること。圧力が低いと給水不良、高すぎると配管・器具に負担。加圧方式や圧力制御弁(PRV)の配置が要点。
- 水撃(ウォーターハンマー)対策:急停止による圧力サージを抑えるためのサージタンク、弁の開閉制御、ソフトスタートポンプなどを採用。
- 逆流防止・交差汚染防止:配管内の逆流や外部からの逆流を防ぐ逆止弁、空気弁、逆流防止装置、間接給水設備の設置。医療施設や工業用途では厳格なクロスコネクション管理が必要。
- 維持管理性:バルブやメーター、点検口の配置、配管ルートの明示、漏水検知を考慮した設計。
衛生管理と消毒・水質管理
給水の衛生管理は、供給系の微生物制御と化学物質管理の双方を含みます。公共浄水では塩素消毒が主流で、配水系内でも残留塩素を一定レベルで保持することが求められます。建物内では長期間の滞留(低使用箇所)により微生物増殖や臭気が発生しやすいため、定期的なフラッシングや循環方法の検討が重要です。
温水系はレジオネラ属菌対策が特に重要で、貯湯槽・配管の温度管理(貯湯温度の維持や再加熱)、循環方式、スケールやバイオフィルムの抑制が必要です。各国・自治体のガイドライン(厚生労働省など)に基づく管理が推奨されます。
漏水対策と維持管理(ライフサイクル管理)
給水設備の劣化による漏水は、資源ロス・建物損傷・衛生リスクを引き起こします。ライフサイクルコストを考慮した設計(耐久性のある材料、保守しやすい配管レイアウト)と、漏水検知システム、定期点検計画、遠隔監視(流量・圧力・温度センサー)を組み合わせることが効果的です。マンションや商業ビルでは給水メーター別分岐やゾーン管理により異常を早期に発見できます。
地震・災害対策
日本をはじめ地震多発地域では、給水系の耐震化と緊急時の給水確保が重要です。具体策としては、耐震継手の採用、地震時自動遮断弁(メインの緊急遮断)、屋内外の貯水槽確保、非常用発電(ポンプ用)や可搬給水設備の備蓄などがあります。自治体の配水管破損で断水が発生した場合に備え、建物側で数日分の生活用水を確保する設計・運用が望まれます。
省エネルギー・最新技術の導入
給水システムの省エネは主にポンプ運転の最適化によって達成されます。可変速駆動(VFD)、プレッシャーセンサーによる定圧制御、需要予測と連動した運転スケジュール、効率の良いポンプ選定が有効です。また、IoTを用いた遠隔監視で異常検知・予防保全を行うことで維持費低減やダウンタイム短縮が可能です。再生水・雨水利用による給水補助も持続可能性向上の重要施策です。
関連法規・基準と設計時の留意点(日本の事例)
日本では水道法や各種省庁の通知、JIS、社団法人日本水道協会(JWWA)の技術指針等が設計運用の基準となります。建物設計では建築基準法や消火設備基準、建築物衛生法(公衆衛生関連)との整合も必要です。設計時には下記を確認してください。
- 公共水道の接続条件(配水圧、引込口位置、メーター仕様)
- 給水区域での水質・圧力の実測データ
- 用途別の必要給水量と非常用確保水量
- 逆流防止や間接給水の必要性(工業用途、病院等)
実務でのチェックリスト(設計〜竣工〜維持)
- 原水(引込直前)の圧力・水質確認
- 器具毎の必要流量・所要圧力の確認
- 配管ルートと保守スペース(バルブ・点検口)
- 材質・継手の適合性と耐久性評価
- 逆流防止装置の位置と検査方法の明記
- サージ対策・弁操作指示の明示
- 竣工時の塩素消毒、流量・圧力試験、漏水試験
- 維持管理計画(点検周期、消毒・フラッシング計画、巡回)
おわりに
給水設計は単なる配管の配置ではなく、衛生・安全・省エネ・災害対応・ライフサイクル管理を包含する総合的な技術です。設計段階から関係者(建築、設備、衛生、維持管理担当、施工者、行政)と連携し、現地条件と法規制を踏まえた最適解を目指すことが重要です。本コラムが実務でのポイント整理に役立てば幸いです。
参考文献
- 水道法(e-Gov)
- 厚生労働省:水道水の水質基準等に関するページ
- 一般社団法人 日本水道協会(JWWA)
- WHO: Guidelines for Drinking-water Quality
- 厚生労働省:レジオネラ属菌対策に関する資料(例)
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