共通仮設費とは?定義・算出方法・按分・実務上の注意点を徹底解説

共通仮設費とは — 基本の定義と位置づけ

共通仮設費とは、建築・土木工事における「仮設費」のうち、工事全体で共通的に必要となる費用を指します。仮設費は工事を行うために一時的に設ける仮設事務所、仮囲い、足場、仮設電気・給排水、仮設道路、施工用クレーンや運搬設備、作業員の福利厚生設備などを含みます。そのうち、複数の工程や区分・発注形態にまたがって使用されるものを特に共通仮設費と呼び、工事費の按分(配賦)対象になります。

共通仮設費に含まれる主な項目

  • 現場事務所の設置・維持費(事務所テント、机椅子、通信費など)
  • 仮囲い・フェンス・門扉・警備費
  • 仮設電気・仮設給排水・照明設備の設置・基本料金
  • 仮設道路・仮設橋・通路の敷設維持費
  • 共用足場、養生、落下防止設備等の安全対策費
  • 共用クレーン、昇降機等のリース・運搬設備費
  • 諸申請・環境対策費(騒音対策、粉じん対策、仮設排水処理など)
  • 仮設材の撤去・処分・保管費用
  • 共通福利厚生(仮設トイレ、更衣室、休憩所等)

注意点として、共通仮設費は“一時的で工事全体にわたって使われる”という性質を持つものに限定され、個別工程だけで消費される仮設物は個別仮設費として扱うのが一般的です。

算出方法と按分(配賦)の考え方

共通仮設費の算出は、大別して「直接見積方式」と「按分方式」に分かれます。実務では両者を組み合わせることが多く、以下のようなステップで行います。

  • 全体必要額の算定:現場条件(規模、工期、作業動線、重機の必要性など)から仮設項目ごとに見積もりを作成し、共通仮設の総額を出す。
  • 按分基準の設定:建築・土木の種別、工程の分割、請負区分(躯体・仕上げ等)ごとに配賦する基準を決める。
  • 配賦実施:按分比率を用いて各工事区分へ配賦する。

按分基準として用いられる代表例:

  • 工事延べ面積または施工面積比:建築工事で一般的。面積に応じて機器や資材使用の按分を行う。
  • 工事金額比(直接工事費比率):各区分の直接工事費に応じて按分。
  • 工期(日数)比:工程が長く仮設の占有期間が長い区分へ多く配賦。
  • 機器・資材の実稼働時間・台数比:クレーンや足場など、使用実績に基づく按分。
  • 複合基準:上記の複数指標を重み付けして按分する方法(より公平で精緻)。

どの基準を採るかは、発注者(公共工事)や工事契約のルール、見積の透明性、会計監査の要請などで左右されます。公共工事では国や自治体の積算基準に従う必要があるケースが多いので、契約段階で基準を明確にしておきます。

見積・入札段階での取り扱い

公共工事の入札では、共通仮設費を積算に含める方法が基準で示されていることが一般的です。工事費内訳書や積算資料で共通仮設の内訳を明示することが求められ、申請した按分根拠が妥当であることが確認されます。

私的工事(設計施工一括など)では、設計段階で共通仮設の見積りを概算で織り込み、契約後の確定見積で精算する方法が多いです。仮設のリースや共用設備が他工事と共有される場合、使用料・返却条件を明確にした契約条項が重要になります。

原価管理と会計上の処理

共通仮設費は工事原価の一部として取り扱われ、見積時は概算で計上、実行時は実績管理を行って差異分析を行います。会計上の取り扱いには次のポイントがあります。

  • 発生時に工事原価に振り替える(発注者別、工事別に管理)。
  • 資産化の判定:仮設資材で工事終了後にも他工事で再利用可能な長期資産は、固定資産として扱い減価償却する場合がある(会社の会計方針による)。
  • 按分方法と根拠の記録:監査対策として按分基準、算出資料、写真、契約書等を保存しておくこと。

実務上の注意点・リスク管理

  • 按分の恣意性防止:按分方法が不明瞭だと発注者や監査で否認されるリスクがあるため、基準と計算過程を明確化する。
  • 安全・法令順守:足場や仮設電気等は労働安全衛生法や地方自治体の条例に基づく規格を満たす必要がある(墜落防止、仮設電気の接地・保安など)。
  • 環境対策費用の計上:騒音・振動・粉じん対策は地域条件で必要性が増すため、共通仮設へ含めるか個別仮設へ振り分けるか判断する。
  • 再利用とサステナビリティ:長期利用可能な仮設材は資産化やリース活用によりコスト低減が期待できる。ただし再利用の運搬・検査費用も見積もる。
  • 機器の稼働実績で精算:クレーンや昇降機は実際の稼働時間で按分精算するのが公平。

BIM・デジタル化がもたらす効果

BIMや施工管理ソフトを用いると、仮設の配置計画や使用期間、使用量のシミュレーションが可能になり、より精緻な共通仮設費の算定が期待できます。例えば足場の材積や仮設電線の路線長を3Dで可視化し、材料ロスや取り回しを低減することでコスト削減につながります。

ケーススタディ:簡単な按分例

例:総共通仮設費が1,200万円の中で、躯体工事(直接工事費3,000万円)、仕上げ工事(直接工事費2,000万円)、外構工事(直接工事費1,000万円)の3区分に按分する場合(直接工事費比で按分)

  • 合計直接工事費 = 3,000 + 2,000 + 1,000 = 6,000万円
  • 躯体工事の配賦 = 1,200万円 × (3,000 / 6,000) = 600万円
  • 仕上げ工事の配賦 = 1,200万円 × (2,000 / 6,000) = 400万円
  • 外構工事の配賦 = 1,200万円 × (1,000 / 6,000) = 200万円

しかし、実際には工期比や機器使用時間を考慮して複合基準で按分することが合理的です。例えば外構は工期が短く共用設備の占有時間が少ない場合は面積や工期で調整します。

まとめ — 運用上のポイント

  • 共通仮設費は「共用性」「一時性」を基準に分類し、按分基準を契約段階で明確にする。
  • 按分の根拠を記録・保管することで監査・契約トラブルを回避する。
  • BIMや施工管理ツールを活用して算定精度を上げ、無駄をなくす。
  • 安全・環境規制を踏まえた仮設計画を立て、法令順守のコストを見積に反映する。

参考文献