床掘り(床掘)を徹底解説:設計・施工・品質管理とトラブル対策

床掘りとは──基礎づくりの原点

床掘り(床掘・ゆかほり)は、建築および土木工事において基礎や地下構造物を設置するために地盤を所定の深さと形状に掘削し、不適格な地盤を除去、必要に応じて改良や埋戻しを行う作業を指します。基礎支持層の確保、設計通りの底面平坦化、適正な締固めを行うことが目的であり、地盤性能や施工品質を左右する極めて重要な工程です。

床掘りの目的と判断基準

床掘りの主な目的は次のとおりです。

  • 設計で想定した支持力のある地盤(支持層)まで掘り下げること
  • 表層の軟弱・有機質土や埋土など、支持力を満たさない土を除去すること
  • 基礎底の平坦化と排水性・凍結防止対策のための整形
  • 必要に応じた地盤改良・置換(オーバーエクスカベーション)

判断は、事前の地盤調査(ボーリング、標準貫入試験(SPT)、土質試験、液性限界や含水比の測定等)と設計・構造となる支持力設計、予想される地盤沈下・許容沈下量に基づいて行われます。地表見た目だけで判断せず、設計者と施工者が協議のうえ、必要であれば追加の試験を実施します。

事前調査と計画(設計段階の留意点)

床掘りは設計段階からの関与が重要です。主な手順は以下の通りです。

  • 地盤調査計画の作成(ボーリング位置、深度、試験項目の決定)
  • 現地周辺の既往履歴・埋設物・地下水位の把握(過去の敷地利用・地歴確認)
  • 許容支持力と想定される掘削深さの検討、オーバーエクスカベーションの可能性を設計に反映
  • 工事計画(仮設の土留め、排水・湧水対策、搬出土の一時保管場所、近隣配慮)

特に地下水位が高い場合や地下埋設物、汚染土壌が疑われる場合は、早期に関係機関や専門業者と連携して対策を立てます。

床掘りの施工方法と機械

掘削方法は規模や土質、周辺条件によって選択されます。代表的な方法と機械は次の通りです。

  • 開削掘削(バックホウ・油圧ショベル、ブルドーザ): 小規模建築や浅い基礎で一般的
  • トレンチ掘削(小さな基礎、暗渠工): 狭い場所での掘削に使用
  • 機械掘削に伴うブレーカ・ウィンチ: 硬質層や転石の除去
  • 土留め工(鋼矢板、既成杭、連続地中壁等): 隣接構造物や深掘りで必要
  • 排水・止水設備(ウェルポイント、サンプ、ディープウェル): 湧水や地下水位低下対策

深掘りや切羽安定が不安定な場合は、土留め設計や地盤改良を事前に実施します。安全と品質を担保するため、適切な仮設計画が不可欠です。

品質管理と検査項目

床掘りでは以下の品質管理が求められます。

  • 掘削深さ・水平・勾配の測定:設計底面高に対する誤差管理
  • 土質判定と不適合土の確認:有機質土・粘性土・埋土の除去確認
  • 置換材の仕様と締固め管理:締固め度(例:標準プロクター比で90〜95%が仕様で指定されることが多い)
  • 埋戻し材の含水比・粒度管理、転圧管理(プレート、振動ローラ等)
  • 写真・検査記録の保存および現場監理者による承認(床掘検査)

特に基礎底に軟弱層が露出した場合の対応(追加掘削+改良、鋼杭や支持杭の採用)は設計者と連携して決定します。床掘り完了前には必ず監理者の検査・承認を受けることが一般的です。

地盤改良と置換工法

床掘りで軟弱層が見つかった場合、以下の対策がとられます。

  • オーバーエクスカベーションして良質土に置換する(管理された締固めで戻す)
  • 地盤改良(深層混合処理、薬液注入、表層改良など)による支持力向上
  • 杭基礎や支持構造の採用により直接支持層まで荷重を伝達する方法

どの方法を採るかは経済性、施工性、近隣環境、構造上の要求性能に基づいて検討されます。

地下水と止水・排水対策

地下水の影響は掘削作業の進行と基礎品質に重大な影響を与えます。排水方法は現場条件により選定しますが、一般的にはウェルポイントによる揚水、サンプによる掻き出し、ディープウェルによる低下などが使われます。止水が必要な場合は供試くさびやベントナイトシール、土留めと合わせた止水措置が検討されます。

安全管理と近隣対応

掘削は労働災害や周辺被害のリスクが高い工程です。主な安全対策は以下のとおりです。

  • 切羽・法面の安定確保(適正な法勾配、土留め)
  • 落石・落下物対策、足場・通路の確保
  • 振動・騒音・粉塵対策(防音パネル、散水、時間規制)
  • 近接既存構造物への影響評価と沈下・傾斜モニタリング
  • 廃棄土の適正管理・搬出(法令に従った処理)

特に道路や近隣建物に隣接する工事では、事前説明会や通知、モニタリング体制の整備が重要です。

環境・法令上の注意点

掘削土のうち汚染が疑われる土壌は廃棄物処理法や土壌汚染対策法等に基づき適正に扱わなければなりません。掘削に伴うアスベストやPCB等の有害物質が問題になることもあり、事前調査と適切な処理計画が必要です。建築基準法や各種条例による届出・承認、道路占用や排水の許可等も確認してください。

トラブル事例と予防策

よくあるトラブルとその予防策は次のとおりです。

  • 予想外の軟弱層発見 → 事前調査の充実、現場での迅速な設計変更手続き
  • 地下水による掘削の長期化 → 排水能力の十分な計画、雨天時対応策
  • 近隣建物の沈下・亀裂発生 → 事前調査、沈下予測、モニタリングと仮受け・補強
  • 掘削土の法令違反処理 → 土壌管理台帳の整備、適切な処分先の手配

検査合格後の仕上げと記録

床掘り・基礎底の検査合格後は、必要に応じて防水層や砂利敷き、転圧、配筋下地の確認を行い、コンクリート打設へと進みます。すべての検査結果、写真、土質試験報告、モニタリングデータ等は設計者・施主向けに整理して保管することが重要です。将来の改修・再開発時にも役に立ちます。

まとめ:施工品質は地盤からつくる

床掘りは単なる掘削作業ではなく、地盤性能を実現するための重要なプロセスです。事前調査に基づく計画、適切な仮設設計、品質管理、そして周辺環境への配慮が不可欠です。設計者、施工者、第三者検査担当が連携し、記録を残すことでトラブルを未然に防げます。安全で長寿命な建物をつくる第一歩は、丁寧で確実な床掘りから始まります。

参考文献