承認図の完全ガイド:建築・土木での作成・管理・実務ポイント
承認図とは何か — 定義と役割
承認図は、設計段階で決定された設計図や仕様に基づき、製作・納入・施工を行う前に、施工者・メーカー・サブコンが作成して設計者(設計監理者)や発注者に提出し、確認・承認を受けるための図書(図面・資料)を指します。英語では一般に「Shop Drawing」や「Submittal Drawing」と訳され、現場での具体的な寸法、接合部詳細、仕上レベル、材料・部材の型番・性能など実施工に即した情報が盛り込まれます。
承認図の主な役割は以下の通りです。
- 設計意図と現場実装の整合確認
- 製作・施工前の不一致・干渉検出(干渉チェック)
- 材料・部材の仕様と性能の確認(代替品を含む)
- 品質管理・保証の基礎資料(受入検査や竣工検査の根拠)
承認図と関連図面の違い
承認図は「設計図」と「施工図(施工者側が現場施工のために作成する詳細図)」の中間に位置します。設計図は意匠・構造・設備の基本設計を示し、施工図は現場施工に適した全ての詳細を示します。承認図は主に製作や仕様確認を目的とし、しばしば製作メーカーや資材サプライヤーが作成するため、材料の選定や接合部の具体化・調整が中心になります。
承認図に含めるべき基本要素
承認図には最低限、次の情報が含まれていることが望まれます。
- 図面番号・図面名・改訂履歴、版数(revision)
- プロジェクト名・工事箇所・作成者・作成年月日
- 元設計図との照合表(参照図・参照ページ)
- 製作寸法・現寸法および許容差
- 材料仕様(材質、耐候性、表面仕上、塗装仕様等)
- 取り合い・取付方法・ボルト・溶接等の接合詳細
- 荷重・荷姿・搬入・仮固定・現場での調整方法
- 施工順序・段取り(必要な場合)
- 法令・基準や性能試験に関する根拠(必要に応じて)
- 品質管理項目・検査項目・検査基準
承認プロセスの一般的な流れ
承認図のワークフローは契約書や設計監理細則によって細かく規定されますが、一般的には以下の流れを取ります。
- 作成:製作業者が承認図を作成(必要書類を添付)
- 内部確認:元請・担当技術者による内部チェック
- 提出:設計監理者・発注者へサブミット
- 審査:設計監理者が設計意図との整合性、法令適合性、品質確保の観点で確認
- 承認/修正指示:承認(スタンプ・署名・日付)または修正要請(コメント付与)
- 再提出:修正後の図面を再提出(必要に応じて再確認)
- 保存:承認済図面は工事記録として保管
関係者の役割と責任
承認図の段階での責任分担を明確にしておくことは重要です。一般的な役割は次の通りです。
- 発注者(施主):最終的な利用・要求性能を定義、特記事項の確認
- 設計者(設計監理者):設計意図の最終判断、承認/不承認の決定権を保持する場合が多い
- 施工者(元請):作成・調整のコーディネート、承認図の提出窓口となる
- サプライヤー・メーカー:製作図面や製品データを提出、性能保証を行う
品質管理・法令適合のポイント
承認図は法令適合性や安全性の観点でも重要です。例えば、構造部材や防水・防火材料は建築基準法や省令で定められる性能基準を満たす必要があります。承認図には、必要な試験成績書や認定番号、第三者認証(製品認証、性能証明)を添付して、設計者が確認できるようにすることが求められます。
よくあるトラブルと回避策
承認図に関するトラブルは多く、以下が典型例です。
- 提出遅れによる工程遅延:スケジュール管理と提出期限の明確化が必須
- 設計意図の誤解:設計図の参照箇所を明確にし、設計者と事前協議を行う
- 寸法・取合い不整合:干渉チェックや現地実測の実施で回避
- 代替材料の性能不足:代替品を提案する場合は性能比較表と試験データを添付
回避策としては、提出前の内部レビュー(チェックリスト運用)、3Dモデルによる干渉チェック、重要な項目に対する事前合意(RFI:Request for Information)を推奨します。
チェックリスト(承認図提出時の最低項目)
- 図面番号・版数・作成日・作成者
- 参照設計図の図番とページ
- 使用材料のメーカー・型番・仕様書・性能表
- 接合方法・ボルト種別・溶接仕様
- 寸法・公差・取り合いの明示
- 搬入・仮置き・現場取付に関する注意事項
- 品質検査項目と検査体制(受入検査、目視・非破壊試験等)
- 安全対策(重機取扱・仮設足場等)
- 関連図書(性能試験報告書・認証書・CADデータ・BIMデータ)
デジタル化(BIM/IFC)と承認図の進化
BIM(Building Information Modeling)やCIMの普及により、承認図も単なる2D図面から3Dモデルや属性情報を含むデータとして提出されることが増えています。BIMを用いる利点は以下です。
- モデルベースでの干渉チェックが容易
- 部材属性(材料、寸法、性能)を明確に伝達可能
- 変更が生じた際の自動反映と履歴管理
- 施工シミュレーションや搬入ルートの検討が可能
IFC(Industry Foundation Classes)などの中立フォーマットを用いれば、異なるソフト間でデータ互換性が確保され、承認プロセスの透明性が向上します。ただし、BIMデータの承認運用ルール(LOD:Level of Detail、属性仕様、命名規則等)を事前に合意することが重要です。国や発注者によってはISO 19650に基づく情報管理フローの適用が推奨されます。
版管理と記録保存のベストプラクティス
承認図は工事の根拠資料となるため、版管理(Revision Control)と保存が重要です。推奨される運用は次の通りです。
- 版管理規則を定め、改訂ごとに履歴を記録する(改訂理由、変更箇所、承認者)
- 承認済み図面はPDF等の不変フォーマットで保存し、アクセス権を管理する
- クラウドベースのドキュメント管理(共有リンク、アクセスログ)を活用する
- 竣工時には承認図セットを竣工図としてまとめ、保管・引渡しする
実務での効率化テクニック
日々の運用で有効なテクニックをいくつか挙げます。
- テンプレート化:承認図・チェックリスト・提出書式をテンプレ化し、提出品質を標準化する
- デジタル署名:信頼性のある承認証跡として電子署名を導入する
- RFI・回答をナンバリング管理して設計変更と承認の関係を明確にする
- 重要項目の事前承認:標準詳細は一括承認、特記事項のみ個別審査の方針などで審査負荷を軽減
国際的な視点と契約上の留意点
国際プロジェクトでは承認図に関する責任範囲(誰が最終承認を出すか)、承認の法的効力(承認しても設計者の責任が残る場合など)、リードタイムや言語・単位系の違いを契約で明確にすることが肝要です。例えば、承認を得た製作物が設計図と異なり不具合が生じた場合の責任分担は契約条件に左右されますので、発注者・設計者・施工者の合意を文書化しておきましょう。
まとめ — 良い承認図の条件
良い承認図は、設計意図を正確に伝え、製作・施工での不確実性を最小化し、品質と安全を確保するためのものです。以下のポイントを守ることが実務上の要です。
- 情報の完全性(寸法・仕様・参照図の明示)
- 版管理と履歴の明確化
- 設計者・発注者との早期かつ明確なコミュニケーション
- BIMやデジタルツールを活用した干渉チェックとデータ共有
参考文献
- 国土交通省(MLIT) — 公式サイト
- buildingSMART — オープンBIM標準と情報交換
- ISO 19650 — 建築情報の管理(ISO公式)
- NIBS(米国建築情報センター) — BIM/情報管理に関する資料


