送風機の選定と設置ガイド|建築・土木の実務ポイント
はじめに:送風機の重要性と適用分野
送風機(ファン・ブロワ)は、建築・土木分野において換気、排煙、空調、工場プロセス、土木現場の粉じん除去、トンネルや地下空間の換気など多岐にわたる用途で不可欠な機器です。適切な機種選定、設置、運転、保守を怠ると効率低下・騒音・故障・安全リスクにつながるため、設計段階から実務的視点での検討が必要です。
送風機の基本分類と特徴
送風機は大きく分けて、動力によって流体にエネルギーを与える方式や流れのタイプごとに分類されます。主な種類と特徴は以下の通りです。
- 遠心式(Centrifugal fan): インペラが回転し遠心力で空気を吐出する。中〜高圧力域に強く、風量調整に対する安定性や耐久性が高い。ダクト系統で広く使われる。
- 軸流式(Axial fan): 軸方向に流れを作るプロペラ型。大風量・低圧力に適し、換気や冷却塔、トンネル換気などで使われる。
- 混流式(Mixed-flow): 軸流と遠心の中間的性質をもち、コンパクトで効率よく中風量・中圧を実現。
- 正容積式(Positive displacement / Roots、ロータリルーブロワ等): 一定容積を押し出すタイプで、圧力に対して比較的一定の容積流量を供給。気密性・圧力特性が必要な工程(エア搬送、曝気)で使用。
- 再生式(Side-channel / Regenerative blower): 高回転で比較的高圧を得られる小型ブロワ。振動・騒音や脈動流が発生しやすい点に注意。
性能指標と基礎理論
送風機選定では主に風量(Q, m3/hやm3/s)、静圧(Ps, Pa)、全圧(Pt)、効率(η)、電力(W)を把握します。設計における基本は「ファン特性曲線」と「系統特性曲線」の交点で、これが実運転点(運転点)になります。
回転数変更時の基本的挙動はファンのアフィニティ則(ファン則)で表されます。代表的には回転数nを変えた場合、風量Qはほぼ比例(Q∝n)、圧力(ヘッド、H)はn2に比例(H∝n2)、入力電力Pはn3に比例(P∝n3)します(同一機体寸法・幾何形状の場合)。このためVFD(インバータ)による速度制御は省エネ効果が大きい一方、最低回転域での冷却・振動・風量不足に注意が必要です。
選定時の実務的ポイント
設計・選定では以下を順に明確にします。
- 必須風量と必要静圧:ダクト損失・フィルタ抵抗・機器差圧・終端損失を見積もり、運転点の静圧を算出する。ダクト系では静圧で算定するのが一般的。
- 流体特性:温度・密度・含塵量・腐食性ガスの有無。温度や密度は風量・圧力換算に影響するため、標準条件換算が必要。
- 設置環境:屋内/屋外、防爆/危険雰囲気、耐湿、塩害、凍結など。材料や表面処理、駆動方式を決める。
- 運転条件:連続/間欠、頻繁な起動停止、可変負荷か定風量か。VFDの採用可否や制御方針を検討。
- 騒音・振動制約:近接する居住区やオフィスがある場合は騒音レベル(dB)目標を設定し、消音器や防振対策を計画する。
- 効率とライフサイクルコスト:初期費用だけでなく、運転電力・保守費用・ダウンタイムを含めたトータルコストで比較。
設置・据付の注意点
送風機は機械的挙動や気流特性が設置状況に大きく左右されます。主な留意点は以下です。
- 吸込側の整流長:入口乱れは性能低下・騒音増加の原因。直管の長さやスイープ形状を確保する(直線長は機種指定に従う)。
- 排気側の近接障害物:吐出口近傍の配管・壁面は流出時の抵抗を増やすため、取り付け方に注意。
- 防振対策:基礎の剛性、アイソレータ、フレキシブルジョイントを用いて振動が伝播しないようにする。
- 配管・ダクトの接続:フランジ整合、膨張差対策(熱膨張)、消音と圧力損失のトレードオフ検討。
- メンテナンス余地:ベアリング、シール、インペラの点検・交換のための人員導線、フロアスペースを確保。
騒音・振動対策
送風機は機械音・気流音が問題になることが多く、特に建築物内や近隣環境では対策が必須です。対策手段は機器側と配管側、空間側の3方向から検討します。
- 機器選定:なるべく効率の高い機種を選ぶと同時にファン回転数を下げることで騒音低減に効果がある。
- 機械的対策:バランス取り(静的・動的バランス)、高精度軸受け、適切なアラインメント、アイソレーターの導入。
- 気流対策:サイレンサーや吸排気消音器の選定。消音器は音圧だけでなく圧力損失(ΔP)も増大させるため、設計での検討が必要。
- ダクト処理:内面の凹凸や急曲を避け、吸込乱流を減らす。吸込口の整流器や緩衝箱を採用する。
安全・法規・規格
送風機に関わる安全や品質の基準として、国際・国内の規格や法的要求を確認します。代表的な指針・規格は以下です。
- 性能試験・表示:AMCA(Air Movement and Control Association)やISO 5801に基づく試験方法は、ファンの性能比較に用いられます。
- 耐高温・排煙用:火災時の排煙用送風機は高温耐性や耐火性能が求められる。地域ごとの建築基準・防火基準に従う必要があります(例:NFPAや各国の規定)。
- 爆発性雰囲気:可燃性ガスや粉じんがある場合は防爆仕様(ATEX等)や適切な接地、スパーク防止設計が必須です。
- モータ基準:IEC(欧州)/NEMA(北米)などの規格に準拠したモータ選定、効率クラス(IE2/IE3等)の検討。
保守・点検とトラブル対策
適切な保守は稼働率向上とライフサイクルコスト低減に直結します。以下は代表的な点検項目です。
- 定期点検項目:軸受の給油・交換、ベルト張力、バランスチェック、軸・カップリングの偏芯・アラインメント、シール状態、インペラの損傷・摩耗チェック。
- 振動監視:常設振動センサや稼働時のトレンド監視でベアリング故障やインペラの不均衡を早期検出。
- 性能管理:定期的な風量・静圧測定で効率低下(フィルタの目詰まり、ダクト閉塞等)を把握。
- 一般的トラブルと対策:振動増大→動的バランス/ベアリング交換、風量不足→フィルタ清掃・ダクト詰まり確認、過電流→軸詰まりや流路閉塞確認。
エネルギー効率化(省エネ)施策
送風機は産業建築の電力消費の大きな割合を占めることが多いため、効率改善は重要です。主な施策は以下です。
- VFD導入による需要追従制御:風量を速度制御で行うと消費電力が大きく削減できる(ファン則により出力は速度の3乗に依存)。
- 高効率ファンとモータの採用:効率差により長期でのランニングコストを低減。
- ダクト系の圧力損失低減:短絡流や急曲を減らしダクト断面の最適化、断熱や気密向上。
- 運転最適化・セクション制御:ゾーンごとに必要な時だけ運転する分離運転で無駄を減らす。
設計・施工の実務的チェックリスト
設計から引渡しまでの実務チェックポイントをまとめます。
- 設計段階:要求風量・静圧・添付図書(運転条件・環境)、騒音目標の明記。
- 機器発注:性能保証条件(風量・静圧・効率・回転数・騒音)を契約書に明記、試験データ要求(メーカー試験/検査)。
- 据付:吸込整流長・防振・配管取り合い・点検スペースの確保。
- 調整・試運転:振動測定、風量・静圧測定、電流・温度測定を実施して性能確認。
- 引渡し後:保守マニュアル・部品リストの整備、定期点検スケジュールの設定。
まとめ
送風機は単なる風を送る機器ではなく、建築・土木の空気環境・安全性・エネルギー効率に直結する重要設備です。用途に適した機種選定、設置・配管の最適化、騒音振動対策、適切な保守計画が長期的な信頼性とコスト最小化に寄与します。特に運転制御(VFD)とダクト損失最小化による省エネは、設計段階からの検討が効果的です。
参考文献
- Wikipedia: Fan (mechanical)
- Wikipedia: Blower
- AMCA International (Air Movement and Control Association)
- ISO 5801: Industrial fans — Performance testing using standardized airways (ISO)
- Greenheck: Fan engineering resources and selection guides
- ebm-papst: Fan and motor technical information
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