耐火石膏ボード完全ガイド:性能・種類・設計施工と規格のポイント
耐火石膏ボードとは
耐火石膏ボードは、建築分野で火災時の防火性能を確保するために開発された石膏ボードの一種です。一般的な石膏ボードに比べ、耐火性を高めるためにコア(芯材)に難燃材や補強繊維を加えたり、厚さを増したりしてあります。主に内装の壁・天井・間仕切り・耐火被覆として用いられ、建築基準法や各種認証による耐火性能の確保に寄与します。
組成と製造方法
基本的な石膏ボードは、石膏(硫酸カルシウム二水和物:CaSO4・2H2O)を主成分とし、紙(表裏のフェーシング)でサンドイッチした構造です。耐火石膏ボードでは以下の点が加えられます。
- 補強繊維の添加:ガラス繊維やセルロース系繊維を追加して、加熱時の崩壊を抑制。
- 軽量不燃充填材:バーミキュライトやパーライトなどの多孔質不燃充填材を混合し、断熱性と耐火時間を向上。
- 添加剤:可塑剤、難燃化合物、硬化促進剤などで加工性や性能を調整。
- 紙の仕様変更:耐湿紙、難燃紙やガラスファイバーメッシュで面材を強化する場合がある。
製造は一般的な石膏ボードと同様に、スラリー状態の石膏ペーストを紙で両面被覆し、所定厚に成形、乾燥・切断して製品化します。耐火性能を高める材料を配合することが差別化のポイントです。
耐火性のメカニズム
耐火石膏ボードの耐火性能は主に次の三つの要素で成り立っています。
- 化学結合水(結晶水)の吸熱蒸発:石膏(CaSO4・2H2O)は加熱により結晶水を放出し、潜熱吸収によって温度上昇を遅らせます。これは「水の気化に伴う吸熱」であり、火炎から受ける熱を緩和します。
- 多孔質充填材・繊維による熱伝導の低下:バーミキュライト等の充填材やガラス繊維が熱の伝達を抑え、基材の温度上昇を抑制します。
- 構造の保持:繊維や強化面材により、加熱時の剥離や崩壊を遅らせ、外側の炭化や剥落を抑制して遮熱性を長時間維持します。
分類・規格(Type X等)と試験
国や地域によって呼称や分類が異なりますが、代表的な規格・試験は次のとおりです。
- ASTM C1396(米国): 石膏ボードの標準規格。Type Xは耐火性能を向上させた製品分類。
- ASTM E119 / ISO 834: 建築物の耐火試験(耐火時間の測定)に用いられる標準試験法。壁、床、屋根などの構成体が一定の火災曲線に対して何分間耐えられるかを評価。
- JIS A 6901(日本): 石膏ボードに関する日本工業規格。石膏ボードの種類や寸法、公差などを規定。
- 国内法規:日本では建築基準法に基づく「耐火構造」「準耐火構造」「防火構造」などの区分があり、用途・階数・避難経路に応じた耐火性能が求められる。
設計段階では、個々の石膏ボード単体の性能だけでなく、壁・天井の組立て(層構成、気密性、裏側の断熱材、開口部処理、貫通部の処理など)に対して試験・認証された耐火区画設計(ULデザイン、国ごとの認証)を参照する必要があります。
主な製品タイプと用途
- 一般耐火石膏ボード(Type X相当): 住宅・商業施設の間仕切りや天井で幅広く使用。
- 高耐火ボード(複層厚板): 工場、ガレージ、排煙区画や防火扉廻りなど、高い耐火時間が求められる箇所に使用。
- 耐湿・防カビ仕様の耐火ボード: 湿気の多い場所でも耐火性能を維持するための改良品。
- 軽量タイプ: 架構に対する負荷を低減するための軽量化製品。ただし軽量化は耐火性能に影響するため設計値を確認。
設計・施工上のポイント
耐火石膏ボードの性能を現場で確保するためには、以下の点に注意が必要です。
- 試験体に準拠した層構成を採用する:メーカーや認証が示す試験体の層構成(板厚、枚数、空気層、裏材)を守ることが必須。
- 継ぎ目・取り合いの処理:継ぎ目(ジョイント)やビス頭、ボックスや配管の貫通部は、火炎の浸入を防ぐために適切な耐火パテや耐火ブロック、耐火シーリングで処理する。継ぎ目の段差は避け、重ね張り等で所定の耐火時間を確保する。
- 重ね張り(多層)による性能向上:複数層にわたる石膏ボードの重ね張りは耐火時間を延長する有効な手法。ネジ位置や重ねの継ぎ方は設計どおりに実施。
- ビスピッチと支持構造:ビス間隔や下地の支持間隔は、耐火認証条件に合わせて管理する。高温での膨張や反りを抑えるための下地の取り方も重要。
- 電気配線・ダクトの取り合い:開口や貫通は既定の防火構造に従い、必要に応じて耐火封鎖材(firestop)を使用する。
- 仕上げ材の選定:塗装・壁紙など仕上げ材が燃えやすいものだと総合の火災挙動に影響を与えることがある。難燃仕様の仕上げを選ぶか、試験済みの組合せを確認する。
典型的な耐火性能例(参考)
具体的な数値はメーカーの試験データや認証によるが、一般的な例として16mm×2層のType Xボードや12.5mm×2層の重ね張りで1時間(60分)程度の耐火性能を確保する設計が多く見られます。より高い耐火性能(90分、120分など)を得るには、板厚増加、層数増加、裏側空気層や断熱材の併用が必要です。必ず具体的な施工パターンで試験や認証を確認してください。
長所と短所
- 長所
- 高い耐火性能:結晶水の吸熱作用で火災時の温度上昇を遅らせる。
- 加工性:カットやビス留めが容易で施工性が高い。
- コストバランス良好:耐火被覆としてコスト対効果が高い。
- 短所
- 吸湿性・脆弱性:水や湿気に弱い種類があるため、耐湿仕様でないと性能低下や変形が生じる。
- 剛性・強度:構造体としての曲げ強度は低く、別途下地が必要。
- 廃棄・リサイクル課題:石膏廃材の処理やリサイクルは可能だが、現場分別や処理コストが課題。
維持管理と耐用性
耐火石膏ボードは適切に施工・維持されれば長期間にわたり耐火性能を維持しますが、湿気、衝撃、削孔・開口などにより性能が損なわれることがあります。定期点検では、仕上げの剥がれ、ひび割れ、ジョイント部や貫通部の劣化を確認し、必要時には耐火シーラントや補修ボードで修復してください。
環境面とリサイクル
石膏はリサイクル可能で、回収した石膏ボードは再形成材や土壌改良材の原料に利用されることがあります。ただし紙成分や混入物(塗料、金属片、プラスチック等)が混じるとリサイクル効率が低下するため、現場での分別と適切な処理が重要です。廃棄時は自治体の規則や産廃処理業者の指示に従ってください。
設計者・施工者への実務アドバイス
- 設計段階でメーカーの認証図書(耐火試験報告書、ULデザイン等)を確認し、実際の層構成・留め方・貫通処理を図面に明記する。
- 現場では仕様書どおりの板厚・層数・ビス間隔を厳守し、ジョイントや貫通部の防火処理を忘れない。
- 仕上げ材や設備の変更がある場合は、耐火性能に影響しないか再検討・再試験が必要になる場合がある。
- 点検・維持管理計画を作成し、定期的に貫通部や仕上げの劣化を確認する。
まとめ
耐火石膏ボードは、建築物の安全性を高めるための重要な材料です。化学的な結晶水の吸熱、充填材と繊維の組合せ、施工の厳密さにより、所定の耐火時間を実現します。ただし、製品選定や層構成、貫通部の処理などは必ず試験・認証に基づいて行う必要があります。設計者・施工者は規格や認証資料を確認し、現場での厳格な施工管理と維持管理を行うことで、性能を長期にわたって確保できます。
参考文献
- The Gypsum Association(石膏製品に関する技術資料)
- ASTM E119 - Standard Test Methods for Fire Tests of Building Construction and Materials
- ASTM C1396 - Standard Specification for Gypsum Board
- ISO 834 - Fire-resistance tests — Elements of building construction
- 国土交通省(建築基準法等の法令情報)
- 国立研究開発法人 建築研究所(建築に関する研究資料)
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