建築・土木のための伝導熱入門:仕組み・計算・設計対策

はじめに — 伝導熱(伝導)とは何か

伝導熱(伝導)は、物質の分子や自由電子の振動・運動により温度差を緩和する熱の移動機構の一つで、建築・土木分野では壁、床、梁、基礎、開口部などを通じて熱が移動する主要メカニズムです。設計・施工段階で伝導の理解と適切な対策を行うことが、快適性、省エネルギー、結露防止、耐火性能の確保に直結します。

伝導の基礎理論(Fourierの法則)

1次元の熱伝導はFourierの法則で表現されます。瞬時の熱流束密度q(W/m2)は、熱伝導率k(W/m·K)と温度勾配dT/dxにより次のように与えられます。

q = -k · dT/dx

負号は熱が高温側から低温側へ移動することを示します。断面積Aを考慮した全熱流量Q(W)は Q = -kA · dT/dx となり、等厚の単一材料・定常状態では大雑把に Q = kA(ΔT)/L と表せます(ΔT は両端の温度差、L は厚さ)。

熱抵抗とU値(熱伝達率)の概念

建築では解析を簡便にするため熱抵抗(R)を用います。材料層ごとの面積当たりの熱抵抗は

R = L/k (単位:m2·K/W)

層を複数重ねた構成の総熱抵抗は各Rの和(面内1次元)で求められ、外内の対流(表面熱伝達)抵抗Rsi,Rsoも加えます。U値(熱貫流率)は総合的な熱の通りやすさを示し、U = 1 / ΣR で計算できます。U値は省エネ設計や熱損失評価で中心的な値です。

材料別の熱伝導率(建築での代表値)

以下は代表的な材料の熱伝導率の目安(温度や含水率で変動)です。設計では各メーカーの公称値または試験値を使うこと。

  • コンクリート(普通コンクリート): 約 1.2〜2.0 W/m·K
  • 鋼材(構造用鋼): 約 40〜60 W/m·K
  • アルミニウム: 約 200 W/m·K(非常に高い)
  • 木材(乾燥): 約 0.10〜0.20 W/m·K(方向性あり)
  • 発泡プラスチック系断熱材(EPS, XPS): 約 0.03〜0.04 W/m·K
  • グラスウール/ミネラルウール: 約 0.035〜0.045 W/m·K
  • エアロゲル系断熱材: 約 0.012〜0.018 W/m·K(高性能だが高価)

(注)数値は典型レンジであり、密度・含水率・温度に依存します。特に湿潤材やコンクリートの含水変動はkを大きく変えるため注意が必要です。

定常伝導と非定常(過渡)伝導

定常伝導は時間による温度変化がない場合の解析で建物の平均的な熱損失評価に使いやすい。一方、日射や外気温の周期変動に対して材料がどのように応答するかは非定常伝導(過渡解析)で評価します。非定常では熱拡散率(熱拡散係数)αが重要な物性となります。

熱拡散率 α = k / (ρ·c) (単位:m2/s)で、ρは密度、cは比熱。αが小さいほど熱の伝播が遅く、蓄熱性が高い(熱慣性が高い)ことを意味します。躯体の蓄熱は室内温度のピークシフト(昼熱を夜に逃がす等)に寄与します。

複合壁、熱貫流計算と熱橋(サーマルブリッジ)

壁や屋根は多層構成になるため、各層の熱抵抗を合算してU値を算出します。しかし実際の建築では、窓開口まわり、コンクリートスラブの立ち上がり、金属部材(アンカー、鋼骨)、バルコニーの取り合いなどで2次元・3次元的に熱流が集中する「熱橋」が発生します。熱橋は局所的に熱損失と低温部を生み、結露やカビの原因になり得ます。

熱橋評価には2次元(または3次元)熱解析が必要で、ISO 10211などの国際規格は線熱貫流率(ψ値)の算定手法を示しています。現場レベルでは熱橋を軽減するために、断熱の連続性を確保し、金属貫通や構造部の露出を避けるなどのディテールが重要です。

接触熱抵抗と密着・空気層の影響

材料同士の接触面では面間接触熱抵抗(接触熱抵抗)が発生します。粗い面や隙間、接着剤の有無により接触熱抵抗は変わり、これが伝導に影響します。また、薄い空気層(対流が発生しない閉じた空隙)は優れた断熱層として働きますが、空気の対流が起こると断熱性能が大幅に低下します。設計時には通気層の有無とその換気条件を検討する必要があります。

湿気・凍結・含水率の影響

水は固体や気体より熱伝導率が高いため、材料の含水率が増すと熱伝導率kは上昇します。特に断熱材が湿潤化すると性能が劣化し、結露や凍害のリスクも増えます。したがって防水・防湿層の配置、通気設計、施工品質管理が重要です。

測定法と規格

伝導特性の測定には実験法が利用されます。代表的な規格には次のようなものがあります。

  • ガード付きホットプレート法(Guarded Hot Plate):ASTM C177、ISO 8302
  • 熱流計法(Heat Flow Meter):ASTM C518
  • 現場でのU値測定/内部熱流測定:ISO 9869(インサイツ測定法)

これらの規格は試験装置や試験条件を定めており、設計で使用する物性はこれらの公的試験結果やメーカー公表値を参照するのが望ましいです。

設計上の実務的ポイント

  • 断熱材の選定:用途(壁・屋根・床・基礎)、設置条件(湿気・荷重)、コストを総合考慮。厚さだけでなくk値・施工性・耐久性を重視。
  • 熱橋対策:断熱材の連続性を確保、金属部材は絶縁材で分離、バルコニー等の構造貫通部は熱分離詳細を導入。
  • 空気層と通気:通気層は結露抑制や排水に有効だが、設計を誤ると逆に熱損失を招く。通気経路と換気量の管理が必須。
  • 湿気管理:防湿層・気密層の配置を吟味。室内側に気密層を配置するか、通気層を採るかは気候区分および用途で判断。
  • 材料の温度依存性:高温や低温でkが変化する材料があるため、極端環境では温度依存性を考慮する。

施工品質と検査

設計どおりの性能を得るためには施工精度が重要です。代表的な検査手法:

  • 工場出荷時の断熱材の寸法・密度・含水率検査
  • 現場での気密試験(ブロワードア)と熱画像診断(赤外線サーモグラフィ)による断熱欠損検出
  • U値の現場測定(ISO 9869)による実測評価

火災と伝導—耐火設計の観点

伝導は火災時の熱伝播にも関与します。金属架構やコンクリートスラブは高温になると機械的性状が変化し、鋼材は温度上昇で強度・剛性が低下します。耐火設計では不燃材料や耐火被覆を用いて構造部材の温度上昇を遅らせることが重要です。伝導による熱の伝達は被覆厚さや材料の熱容量・熱伝導率によって決まります。

実務ケーススタディ(簡易例)

例:外壁の単純計算。屋外温度0°C、室内20°C、外壁をEPS(k=0.035 W/m·K, L=0.1 m)+コンクリート(k=1.5 W/m·K, L=0.2 m)と仮定。

各層のR(m2K/W):R_EPS = 0.1/0.035 ≈ 2.86、R_conc = 0.2/1.5 ≈ 0.133。合計R ≈ 2.993に室内外の表面抵抗(例 Rsi=0.125, Rso=0.04)を加えるとΣR ≈ 3.158、U ≈ 0.317 W/m2K。これはあくまで概算で、熱橋や施工欠陥は反映していません。

まとめ — 設計者・現場技術者への提言

伝導熱は建築物の熱環境に直接影響するため、材料選定・層構成・施工ディテールの検討が不可欠です。特に熱橋対策、湿気管理、施工検査(気密・断熱の連続性確認)は省エネ性と耐久性を左右します。数値評価は定常解析だけでなく必要に応じて非定常解析(数値シミュレーション)や現場測定で裏付けを取りましょう。

参考文献